サイエンス・フィクション、すなわち「SF」は映画の中でも確固たる地位を築いているジャンルですが、万人に受け入られている訳ではないようです。それは何故なのでしょうか?
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これは訳者の考えですが、SF映画とは自分も経験しているような恋愛や共感しやすいドラマと異なり、作られた世界観を受け入れて理解しないといけないため、難解で面倒臭いと思われがちなのではなのかもしれません。
また、SFマニアに面白い作品を聞いても、マニア受けする複雑なものや予備知識がなければ楽しめないようなものを言われるケースがあり、せっかくSFの世界のドアを叩いてみようとしても、最初で躓いてしまう人も少なくないようです。
そこで、io9がSFビギナーさんにぴったりの、絶対に見た方がいい傑作SF映画を25本ピックアップしていたので、ご紹介します。なお、一部ネタバレがわずかにありますので、ご注意ください。
※注:このリストに掲載されている作品は幾つかの基準を満たしているものとなります。まず、ジャンルの発展に大きく貢献し、SF映画の全体的なレベルを上げる手助けとなったもの。その中でできる限り異なるタイプを選んでいます。また、オリジナルのコンセプトであること、もしくはその方向性で初めて作られたものです。
■『メトロポリス』(1927年、監督:フリッツ・ラング)
本作はSFというジャンルを語る上で欠かせない作品であり、80年近く経った今でもそのイメージは大きな影響を持っていると言えます。
「SF映画の原点であり頂点」と言われる本作は、摩天楼の上層階に住む知識指導者階級と地下に暮らす労働階級と二極化された階層社会が舞台。上層階に住む青年と労働階に住む娘がひょんなことから出会い心を交わすも、娘の存在がこの階級社会のバランスを崩す脅威になることに恐れを抱いた青年の父親であり支配的権力者は、旧知の学者に娘を誘拐させ、その娘によく似たアンドロイドを作らせます。彼はこのアンドロイドを労働界に送り込んで、ストライキをしようとしていた労働者たちの団結を崩そうと計画していたのでした。
このアンドロイドは『スター・ウォーズ』シリーズのC3POのデザインに影響を与えたと言われています。
本作は非常に古い作品なので中々見ようという気持ちにならないかもしれません(訳者も映画学部の授業で強制的に見せられなければ自分からは見なかったかも)。しかし、『メトロポリス』はSFの世界に足を踏み入れようと思ったなら、最初に押さえておくべき作品です。
先にも書いたように、本作がSF映画界に与えた影響は非常に大きく、SF作品を見ていくと様々な場面や要素で「これも『メトロポリス』に影響を受けているな」と感じるものに出会います。そういった部分に気付くことができると、よりSF映画が面白く感じられるようになるのではないでしょうか。
なお、見るのであれば、欠落していたシーンを加えた完全復元版とオリジナルの両方を見ることをオススメします。
■『地球が静止する日』(1951年、監督:ロバート・ワイズ)
1950年代はSFブームで、エイリアンやモンスターが人間の生活を脅かすといった映画が数多く作られました。その中で『地球が静止する日』は、人間に友好的なエイリアンとロボットを登場させ、私たちに「生きる道とは?」と考えさせたのです。
エイリアンとの交流や、その後の人間の行動をシミュレーションするような物語の展開の仕方、見終わってからもテーマについて深く考えさせる本作は、『2001年宇宙の旅』の原作者であるアーサー・C・クラークがこよなく愛し、自身のベストSF映画に選んでいます。
■『禁断の惑星』(1956年、監督:フレッド・マクラウド・ウィルコックス)
初めて地球以外の惑星を舞台にした記念すべき作品であるだけでなく、「潜在意識と自我」を映像化することにも挑戦した『禁断の惑星』。
ウィリアム・シェイクスピアの晩年の作品『テンペスト』が原作とも言われていますが、正体不明のモンスターの存在や、2200年代という時代設定、極度に発達した文明を持つ「クレール人」を突然滅亡させた謎の原因...といったものが登場する本作を見ると、『テンペスト』はあくまで構成の参考程度でしかないと考えるほうが妥当かもしれません。
■『猿の惑星』(1968年、監督:フランクリン・J・シャフナー)
人間が他の「生き物」と遭遇することを描いた『猿の惑星』シリーズ第1作。猿が高度な知能を持ち、人間が文明を忘れ、低能で言葉すら発することが出来なくなっているというショッキングな世界を描いています。
本作は、人間以外の生物が地球を乗っ取り、残された数少ない人間が対抗するというジャンルの始まりとなった作品であり、この分野では最高傑作と言えるでしょう。
■『2001年宇宙の旅』 (1968年、監督:スタンリー・キューブリック)
それまで作られてきたSF映画から一線を画した作品。アーサー・C・クラークの原作を、スタンリー・キューブリックのユニークな視点でハードなSFにした本作は、注目せずにはいられない宇宙空間でのリアルな生活の描写、人工知能の暴走の描写、人類の始まりから遠い未来に広がる謎といった、このジャンルでの初めての挑戦が多く盛り込まれています。
■『エイリアン』 (1979年、監督:リドリー・スコット)
シガーニー・ウィーバーをスターにし、リドリー・スコットを一躍有名な監督にしただけでなく、観客を想像の絶する恐怖へ直面させた作品です。監督はスペース・オペラとウェスタンとホラーを融合させるという新たな分野に挑み、その偉業は今でも映画史の中で輝き続けています。
ダン・オバノンの無駄のない脚本は、理想的とは言えない監督のディレクションによって、不毛な宇宙でどのように不気味で類を見ないストーリーを作るかの教科書的作品に仕上がりました。
■『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980年、監督:アーヴィン・カーシュナー)
『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』の次に登場した『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』は、(現時点で...と付け加えるべきでしょうが、確実に)シリーズ最高傑作です。
『エピソード4』もエフェクトやウェスタンと侍文化の融合といった点で非常に革新的でしたが、それを上回る新たなアイディアが取り入れられていました。しかも、それらひとつひとつを悪目立ちさせずに自然に登場させてストーリーを引き立てたのです。
ルーク・スカイウォーカーの冒険はホスでの死闘から始まり、ダゴバで自身の暗黒面と向き合い、ベスピンで真実を知るという1本の作品にこれでもかというほど詰め込んだもの。また、悲劇に直面したのはルークだけではなく、ハン・ソロもカーボンフリーズされるという恐怖にさらされました。
これらのステップがあったからこそ、キャラクターに深みが出て、観客を惹きつける力がより強力になったのです。本作は最高の『スター・ウォーズ』映画というだけではなく、ジャンル問わずに必見の作品です。
■『マッドマックス2』(1981年、監督:ジョージ・ミラー)
残虐なだけでなく、素晴らしいアクション映画であるオリジナルの『マッドマックス』も押さえておきたい作品でありますが(アメリカ映画吹き替え版しか見たことがないなら、是非ともオリジナルのオーストラリア英語版を見てほしい)、必見SFという点では、前作の直後に二大国の間で起きた世界大戦が原因で文明が崩壊し、石油を巡って凶悪な暴走族たちが日夜争いをしているディストピア世界を描いた『マッドマックス2』が良いでしょう。
最後のコンボイのシーンは後に作られた映画に多大なる影響を与え、また作品のメインである「石油ピーク」は話題となりました。
■『スタートレックII カーンの逆襲』(1982年、監督:ニコラス・メイヤー)
前出の『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』同様に、『スタートレックII カーンの逆襲』も巨大で商業的なサーガの中に煌々と輝く名作です。
恋多き男ジェームズ・カーク船長の前に現れたのは、それまで見たこともなかった既に成人の息子。また、テレビシリーズの第24話でカーク船長と壮絶な戦いをした超人類のカーンが本映画で見事に復活し、復讐を始めるというテレビシリーズとの関連が見られる作品でありながら、シリーズを見たことがない人でも楽しめる作品です。
シリーズもの故に、時間に余裕がない人にとっては手を出しにくいと敬遠されがちな『スタートレック』シリーズですが、『スタートレックII カーンの逆襲』を見れば、その魅力を理解できるだけでなく、またテレビシリーズに対する興味を持つことができるでしょう。
■『ブレードランナー』(1982年、監督:リドリー・スコット)
リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』は、『エイリアン』同様、SFを語る上で外すことの出来ない作品です。公開当時は勿論のこと、今もなお視覚的に新鮮で、サイバーパンクなディストピア都市の雰囲気と見た目を定義することになりました。
また、このリストに掲載されている他の映画同様に、『ブレードランナー』は他者との関わりを考察することによって「人間とは何か」を観客に問いかけている作品です。そして、その「人間」の境界線は非常に曖昧な上に、レプリカントがあまりにも「人間らしい」ため、見終わった後は心に重苦しいものを落とされたような気分になります。
『ブレードランナー』を掘り下げずにサイエンス・フィクション・ノワールの世界を語ることはできません。もはや登竜門的作品といえるでしょう。
■『E.T.』(1982年、監督:スティーブン・スピルバーグ)
この映画は、私たちがそれまで考えていた「エイリアンと人間とのファーストコンタクト」のイメージを変えた上に、ビッグスクリーンに登場した数少ない「目を奪われるほど強烈なエイリアン」を生み出しました。また、本作はスピルバーグ監督の父性に対する強い執着が全面的に現れており、子供達とエイリアン、そして発見というコンセプトと共鳴し合って最高のものにしています。
さらに、技術面においても素晴らしい発展を見せた作品です。『E.T.』を子供の頃にしか見たことが無い人は、成長した今もう一度手にとって見てみるといいでしょう。
スピルバーグ監督は、子供の目線を再現するために、ライティングに拘るだけでなく、低い位置にカメラを固定するといったテクニックを使っています。大人の顔をほとんど見せることなく、あくまでも子供目線で進む展開を見ていると、子供の頃感じたワクワク感がよみがえってくることでしょう。
■『トロン』(1982年、監督:スティーブン・リズバーガー)
この映画は世界で初めてコンピューターグラフィックを全面的に導入した作品ということもあり、後のSFに与えた影響は凄まじいものがありました。
また、技術面だけでなく、仮想空間をテーマとした最もスリリングな作品のひとつともされています(1992年の『バーチャル・ウォーズ』と比較してみると、82年の『トロン』の方が遥かにエキサイティングなはずです)。
リズバーガー監督が描いたマスター・コントロール・プログラムとの戦いというテーマは、社会の変化に伴うSF映画の方向性を定めるきっかけとなりました。また、だからと言って説教じみていたり陰気だったりするわけではなく、純粋にワクワクする娯楽作品だったのです。
■『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年、監督:ロバート・ゼメキス)
SFとコメディは相性が良いというのが本作で証明されているにも関わらず、残念なことに、今の世の中にはSFコメディというジャンルがあまりにも少ないように感じます(『BTTF』と並んで『ギャラクシークエスト』も素晴らしいSFコメディです)。
タイムトラベルの「過去を書き換えてはいけない」「それをした場合、自分の存在が消える可能性がある」という首尾一貫したルールがあり、矛盾する要素は登場しません。
また、型破りで危うく時空をまたいで近親相姦という、かなり際どい描写にも挑戦しているにも関わらず、あくまでもコメディを貫いていて、イヤらしさは一切感じさせません。コメディが好きな人も、SFが好きな人も嫌いな人も、世代を超えて楽しめる純粋な娯楽作品です。
■『未来世紀ブラジル』(1985年、監督:テリー・ギリアム)
『BTTF』と同じ年に公開された『未来世紀ブラジル』は、おそらく最もダークでストーリーが破綻していて、観客を恐怖させたSFコメディ映画といえるでしょう。
タイプミスが原因で無関係な男性がテロの容疑者として連行されるということ、張り巡らされたダクトの意味、非合法のダクト修理屋...。映画の要素を文字で書くと大したことではないように感じますが、映像化されたそれらに観客は混乱させられること間違いなし。
恐らく、今だったら作れないであろう奇抜な作品で、ハリウッドならば確実にゴーサインがでないと思われます。本作は多くの人が考える「ダークフィルム」や「ディストピア映画の作り方」の概念を覆しました。
■『ロボコップ』(1987年、監督:ポール・バーホーベン)
『トロン』の独裁的な企業の強迫観念を異なる方向性にしたのが『ロボコップ』。強大な力を持ったオムニ社がデトロイト市警を乗っ取り、「デルタ・シティ」としてリニューアルさせようという計画を企て、そのひとつとして死んだ警官をロボットに改造したロボコップが誕生させられます。
『ダークナイト』より20年も前に「どうやって街の治安を守れば良いのか」ということに焦点を置いた作品で、サイバーパンクとフランケンシュタインを掛け合わせたようなアクション映画です。本作はバーホーベン監督の最高傑作と言えるのではないでしょうか。
■『ターミネーター2』(1991年、監督:ジェームズ・キャメロン)
「人間とは何か?」という質問に直面させるダークなアクション映画といえば『ターミネーター2』。ジョンがT800のチップを「読み込み」モードから「書き換え」モードに変更したため(このシーンは通常カットされています)、それ以降、T800は命令に従うだけでなく、経験から学習するようになり、遅々としながらも単なるアンドロイドから人間らしい成長をし始めるのです。
また、本作は全てのアクションシーンにスペシャルエフェクトが巧みに駆使された最高のアクション映画でもあります。後出のビッグバジェット映画、CGヘビーなアクション映画は『ターミネーター2』の衝撃を目標に作られていると言っても過言ではないと思います。
■『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年、監督:押井守)
『AKIRA』同様、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』はアメリカで大ヒットしたアニメ映画の中のひとつ。大きなインパクトを与え、アメリカのファンに「アニメ映画がどれほど力強くなったのか」を見せつけました。
本作の素晴らしいところは、シリーズ化されてもそのコンセプトの輝きを弱めること無く、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に至っては最高のフィクションアニメのひとつと考えられています。
ゴーストハックやサイバー世界というコンセプトは、サイバーパンクと『ダークシティ』や『ドールハウス』といった記憶を扱った映画に大きな影響を与えただけでなく、「サイエンスと生の定義」において素晴らしい考察を見せたのです。
■『マトリックス』(1999年、監督:ウォシャウスキー姉弟)
オリジナルの『マトリックス』は数え切れない程の模倣を生み出しただけでなく、全てのサブジャンルに終止符を打った素晴らしいアクション映画でした。
1990年代後期に登場した、このダークなサイバーパンク映画はこの世の何もかもが現実では無く、仮想空間のものだという不可思議で、興味深い内容。『Cyberwars』や『13F』とは異なり、基本的にサブジャンルを良いものとして終わらせています。
また、本作は「現実とは?」という、考え始めたらキリがない哲学的な質問を観客に投げかけました。
■『プライマー』(2004年、監督:シェーン・カールス)
本作は、「観客に理解してもらおう」という熱意があまり感じられないタイムトラベルもので、何度も見直さないと理解できない難解な映画として有名です。
冒頭の、2人のオタクがガレージで発明に興じているシーンは、素晴らしい描写となっています。そして、この映画がわかり易いのはあくまでもこのシーンまでで、後はタイムラインを行ったり来たり...。
SFに慣れている人や映画マニアにとってもみても複雑な作品ですが、ウォークマンのシーンだけでも見る価値があるので時間がゆっくり取れる時にでも是非挑戦してほしい一本です。
■『Mr.インクレディブル』(2004年、監督:ブラッド・バード)
『ウォーリー』や『アイアン・ジャイアント』もこのリストに入れたいところでしたが、ピクサーの傑作であり、最高のスーパーヒーローものと言える『Mr.インクレディブル』を選びました。
『ファンタスティック・フォー』と『ウォッチメン』のミュトス(自然・神々・英雄などについて民間に伝わる物語)をマッシュアップし、双方の面白い部分とダークな部分をいい具合に抽出したような作品です。
また、(今ではアイテムを手作りするヒーローは一般的になってきていますが)スーパーヒーローのコスチュームの自作、巨大なロボットやスーパーヴィランといった次から次へとやってくる命がけの挑戦の数々といった、他のスーパーヒーローものには無いストーリーでした。
アニメだからこそ、このストーリーなのかもしれませんが、いつの日か実写でもこういった内容の映画を作ってくれたらと思わずにはいられません。
■『エターナル・サンシャイン』(2004年、監督:ミシェル・ゴンドリー)
失恋した後に昔の恋人に関する記憶を消し去ったら...ということをテーマに、多くのことを語りかける映画『エターナル・サンシャイン』。
記憶を消すということは自分が送ってきた人生の一部を破壊するということで、「ある種の自殺に相当するのではないか?」と提案しているだけでなく、誰でも一度は経験があるであろう「人と出会い、恋に落ちた」という記憶を蘇らせることにも成功しています。
■『トゥモロー・ワールド』(2006年、監督:アルフォンソ・キュアロン)
本作は、人間が出産能力を失ってしまい、凶暴化した社会を描いたディストピア映画。しかし、イギリスが他国を遮断しようと試みるなど、移民や外国人恐怖症についても触れられています。
本当のカオスを活動的並びに印象的に映像化したのはこの作品だけで、前半部分に登場する長回しも圧倒的ですが、最後の長回しのアクションシーンも後に語られるほどの内容です。
■『月に囚われた男』(2009年、監督:ダンカン・ジョーンズ)
2008年、2009年は『ウォーリー』、『アバター』、『ダークナイト』といった素晴らしいSF作品が公開されました。しかしこれらの作品と比較して最終的にこのリストに入れたのが、サム・ロックウェルが延々と画面に映り続ける『月に囚われた男』です。
近年のハリウッドは金太郎飴の如く同じようなテイストの映画や続編、リメイクばかりを作っています。もちろん、それらがいけないわけではありませんし、「古き良きテイスト」を守り続けるのも大切です。
この『月に囚われた男』は、昔ながらの制作方法(どデカイセットを建設したプラクティカルエフェクトの使用)と出しゃばらない程度に使用されたスペシャルエフェクトを合わせた「古いながらも新しい」作品となっています。(※ネタバレ:同一人物が2人登場するシーンはCG無しでは成り立ちませんでした。この苦労話はDVDで見ることができます)
本作は、このリストに登場する映画の多くがそうであるように「企業の冷酷さ」と「自我」をテーマにしながら、他とは全く異なるアプローチで観客に疑問と恐怖、不安を感じさせることに成功しているのです。
■『第9地区』(2009年、監督:ニール・ブロムカンプ)
2009年に公開されたドキュメンタリーチックで古き良き『ドクター・フー』を彷彿させる映画『第9地区』。
主人公のヴィカスは、冒頭でエイリアン対策課職員としてエイリアンのクリストファーに立ち退き交渉しにいった際、エイリアンの子供を威嚇し、クリストファーの話す言葉を馬鹿にするという、差別的で不快な行動を見せており、観客に共感してもらいにくいキャラクターとして描かれています。
しかも、ヴィカスというキャラクターは他の映画によく見られるように早々に心を入れ替えたり、戦いに意欲的になったりするわけではなく、名誉を挽回するのは物語が随分と進んでから。しかし、それが本作の魅力なのです。
もし、彼が最初から虐げられたヒーローだったら、それはそれで観客はヴィカスに対して哀れみしか感じることができない「悲しきヒーローのSFアクション映画」でしかなく、そこまで観客に強烈な印象を与えることが出来なかったでしょう。
また、『第9地区』は素晴らしいアクション映画でもあり、南アフリカを舞台にした映画のイメージを覆す非常に重要な作品と言えます。
■『インセプション』(2010年、監督:クリストファー・ノーラン)
『エターナル・サンシャイン』と同じように、本作も記憶を扱うジャンルにおける最も重要な映画の一つ。
意識を考察しようとすると無闇矢鱈と複雑な構成になり、最終的に何を伝えたかったのか分からない...といった観客を混乱させるだけの作品が多く見られる中で、最後に綺麗なまとめ方をしているのが素晴らしいです(とは言え、複数回みないと理解できない難解さではあります)。
妻殺しの容疑がかけられているために子供と会えずにいるドム・コブは、人の夢(潜在意識)の中に入り込んでアイディアを盗む企業スパイ。彼は犯罪歴の抹消を条件として極めて危険な依頼を受け、仲間とともにターゲットの意識に働きかけますが、意識スパイの攻撃に備えて防護訓練を受けていたターゲットが、夢の中で護衛部隊によって返り討ちにあいます。
依頼を成功させるためにより深い潜在意識の中に入っていくドムですが、護衛部隊だけでなくドムの罪悪感を具現化した亡き妻までもが妨害を開始。また、次第に夢と現実の境界線が曖昧になっていきます。
大まかなあらすじを書くと『マトリックス』に似ていますが、深く入り込んでいく毎に新しい技術を披露してくれる『インセプション』は、紛れもなくSFというジャンルを次の段階に引き上げた作品と言えるでしょう。
[via io9]
(中川真知子)
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