なぜ多くの悪役は自ら捕まりに行きがちなのか?


この記事には映画のネタバレがふんだんに盛り込まれています、ご注意下さい。

『ダークナイト』や『アベンジャーズ』など、昨今の悪役はワザと捕まったり逮捕される習性があるようです。今年秋に公開予定の『Star Trek Into Darkness』でも、公式プロモーションイメージで、ベネディクト・カンバーバッチ演じるミステリアスな悪役がプレキシガラスの拘留所に入っている様子がありましたが、これも「ある目的のために悪役自らが捕まりに行く」描写であると考えられます。

テレビ番組のスクリーンライター兼プロデューサーのJavier Grillo-Marxuach氏もツイッターで「悪役の計画は捕まる事だ」と呟いており、「悪役がわざと捕まる」というシナリオが一般的であると伺えます。

それでは、いまや映画界ではメジャーなシナリオのひとつとなった「わざと捕まる悪役」について、掘り下げて行きたいと思います。詳細は以下より。
 

 

なぜ多くの悪役は自ら捕まりに行きがちなのか?2.jpg(カンバーバッチが拘留されているシーンに有名悪役をフォトショップ加工した画像)


『ダークナイト』において、ジョーカーは明確な目的を持って捕まります。『アベンジャーズ』のロキだって目的がありました。『スカイフォール』のハビエル・バルデム演じるラウル・シルヴァも、『ALPHAS/アルファズ』のスタントン・パリッシュも同様に目的があって捕まりました。そして冒頭でも触れたように、カンバーバッチも拘留されるようなのです(もちろん、映画が公開されていないので、確実に目的があって自ら捕われているのかどうかは定かではありませんが...)。

この「悪役が捕まる」という展開は何処から来ているのでしょうか? まず、収容された悪役と言われて思い浮かぶのは、天才犯罪者の代名詞とも言える『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターでしょう。彼は鉄格子の向こう側で威嚇したり狂気を匂わせるなど、ジョディー・フォスター扮するFBI訓練生のクラリスを翻弄しました。

また、ブライアン・シンガー監督の『X−メン2』に登場するマグニートも、ガラスの牢屋に収容されているにも関わらず、余裕の表情を見せながらプロジェッサーXを始めとする人々とマインドゲームをプレイしました。しかし、「目的を遂行するためにワザと捕まる」という最近の流行の大元となったのはやはり『ダークナイト』でしょう。

「目的を遂行するために悪役が自ら進んで捕まる」というストーリーがこんなにも流行った理由のひとつとして、その悪役をより狡猾でつかみ所の無いキャラクターに見せる事が出来るから、という理由が挙げられます。また、ヒーローと悪役を争わずに同じ部屋に入れたいから、というのも考えられます。悪役は拘留されているので、ヒーローを殺そうとすることも無く、したとしても死に直面する危険に曝される事はありません(悪役だけに限らず、ヒーローが悪役に捕まりに行くというパターンも存在します)。

しかし、このシナリオには『ソー』や『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』の共同ライターであるザック・ステンツ氏がツイッターで指摘するように、大きな問題が発生します。それは、ヒーローが単なる無能に見えてしまうということです。

厳重に警備された牢屋に悪役を閉じ込めていてるにも関わらず脱走されてしまうのですから、無能と言われてもしかたがありません。同氏は、『ターミネーター サラ・コナークロニクルズ』のショーランナーであるジョッシュ・フリードマンの「私はヒーローの持つ倫理観や道徳よりも、彼らの知性を守りたい」という言葉を引用して、この問題について言及しています。


なぜ多くの悪役は自ら捕まりに行きがちなのか?3.jpg


「io9」は、この流れに関してステンツ氏のより深い意見を聞くべく、メールを送りました。その返答は以下の通りです。

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『ダークナイト』は、ここ数年のエンターテイメント業界に多大なる影響を与えました。悪役とヒーローを戦闘無くしてひとつのシーンに入れる、というのは良い視点です。『スカイフォール』と『アベンジャーズ』はほぼ同じ構成になっています。物語の途中で悪役がワザと捕まり、ガラスの牢屋からヒーローを挑発、そして計画を実行するために脱出...。

この流れが繰り返し使われているので、ヒーローと悪役が殴り合い無しで同じシーンに収める為にはこれしか表現方法が無い様に思えて来ますが、『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』ではインディとベロックが派手な争い無しに何度も同じシーンに登場していますし、同様に『スタートレックII カーンの逆襲』でも戦闘のないヒーローと悪役のシーンがあります。また、『ダイハード』では、マクレーンと悪役のハンス・グルーバーが遭遇するも、マクレーンは目の前にいるのが敵であるということに(見たところ)気付いていない、という巧妙なシナリオで観客を楽しませています。

私は、私を含む全てのスクリーンライターが必死になって、観客を喜ばせる素晴らしいヒーローと悪役のシーンを書く事を望んでいます。観客の皆さんが、「何処かで見たシーンだな」と思わないような予想も出来ないシーンが見たいと考えています。私は、ガラスの牢屋に入った悪役で1番良かったのはマグニートです。それは、彼の監禁がパワーを見せつける上でのデモンストレーションと捕獲者の残虐さを誇示する為のもので、最後の脱出では巧妙さと満足が得られたからです。


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脚本家の方達には、「悪役=1度はワザと捕まってみる」というパターンが定着してしまわないよう、より新しい描写の発明に期待したいですね。


[via io9

(中川真知子)

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