『ザ・レイド GOKUDO』ギャレス・エヴァンス監督&イコ・ウワイス


全世界に強烈なインパクトを与えたインドネシア発のアクション映画『ザ・レイド』。その続編となる『ザ・レイド GOKUDO』がいよいよ公開されます。

今回は、本作を手がけたギャレス・エヴァンス監督と、主演俳優/コレオグラファーのイコ・ウワイスさんに直撃して参りました。二人の意外な一面やトンデモエピソードも飛び出したインタビューは以下より。
 


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―― 前作『ザ・レイド』が大きな話題となったことで、お二人の状況も大きく変わったと思うのですが、どういった気持ちで続編である本作の製作に挑みましたか?

ギャレス・エヴァンス(以下、ギャレス):まず、前作にここまで大きな反響があるとは私たちも想像していなかったので、驚きました。突然、待ち望んでいる人がいる中で続編を作らなければいけなくなったので、大きくプレッシャーもかかりましたね。

クリエイティブな面ではなるべく前作と同じ環境を作って挑みましたが、前作とは全く違った作品になるとは分かっていたので、後は観客がついて来てくれることを祈りました。

でも基本的にはどの作品も、前作の10倍は楽しめて、面白い作品を作らなければいけないと思いながら作ってはいます

イコ・ウワイス(以下、イコ):本当に2倍、3倍ではなく、最低でも10倍は面白くしなければならないと思って挑みました。

前作と本作では、ストーリーもアクションも、キャラクターの心情も複雑になっているので、全く違う作品になっていると思います。

自分が演じる主人公のラマは前作では新人のSWAT隊員でしたが、本作では「ユダ」としてマフィアへ潜入捜査を行うので、犯罪者側の気持ちにも立たなくてはいけません。そして妻と子を置いて任務へ向かう、一人の父親、夫としての側面も出さなければいけない。そういった、感情表現の難しさが増しています

そして、アクションもより攻撃的かつ複雑になっています。例えば、前作では拳や体術が基本でしたが、本作では「クランビット」というシラットで使われる鎌、さらにはバット、ハンマーなど、いろんな武器や凶器の使い手が登場します。そういった点で、前作とは違うコレオグラフィーを考える必要がありました。

ラマはあらかじめ武器や凶器は持っていませんが、相手から奪って使うなどは行うので、自分も前作では見せていない動きをしなければいけなかったんです。そういったところも挑戦でしたね。


―― 前作もそうでしたが、特に本作では身近に落ちているもの、壁や床など、いわゆる日常物や環境を利用したアクションが多いように感じます。それには何か理由があるのでしょうか?

ギャレス:そういった描写はやっぱりジャッキー・チェンがパイオニアで、抜群に優れていると思います。彼は周りあるものはすべて武器として使えるということを教えてくれました。

これを言うとサイコ野郎だと思われるかもしれませんが、ジャッキー・チェン映画を見て以来、目に入ったもの全てに対して「これはどう使えば良い武器になるか?」と常に考えるようになったんです(笑)。


―― すごくわかります。自分も凶器描写が大好きなので、常に考えてますね。

ギャレス:良かった、一人じゃなかった(笑)。

本作で言うと、恐らく刑務所でのアクションが一番奇妙で、一人の男がベンチに向かって顔を蹴りこまれて、頬にベンチがめり込むんですね。これって現実的に考えると絶対に起きないと思うんですよ(笑)。でもビジュアルとしてすごく面白かったので、採用しました。

自分がこういった描写を好むのは、ジャッキー・チェンの「周りにあるものはすべて使う」という発想、そして韓国映画からの影響もあります

韓国映画では鈍器を使った暴力描写が多く、例えば『哀しき獣』という傑作では、牛骨で人を殴るシーンがあります。これを鉄の棒でやっていたら、観客の感じ方は変わっていたと思うんですね。牛骨という奇妙な物体で殴るからこそ、より痛く感じられる。見たことのない、体感したことのない物であるほど、未知でインパクトがある分、見ている側の恐怖や痛みが増すんだと思います。

イコ:(監督に向かって)『悲しき獣』は超暴力的だよね。子供向けじゃない。

ギャレス:(イコに向かって)確かに子供向けじゃないけど、君のほうがもっとひどいことやってるよ(笑)。


――(笑)。イコさんにお聞きしたいのですが、そういった日常物や環境を利用したアクションではシラット特有のテクニックが活かされていたりするのでしょうか?

ギャレス:(イコさんに向かって)あの話、してあげなよ!

イコ:えー......。じゃあ、自分の経験上の話をしますね。

これは初めて話すんですけど、以前インドネシアで朝4時半くらいにタクシーを拾って、助手席に座ったんです。なぜか乗ってすぐなのにすでにメーターが動いてました。

最初は気づかなかったんですが、恐らく後部座席の下に人が二人潜んでいて、急に後ろから首へ何かを突きつけられたんです。反射的に反撃し、外へ出て、何発か打撃を見せてドアを蹴って閉めたら、逃げていきました。

去っていった後に足がすくむましたね。後から考えると、どうやら酔っぱらいだったみたいなんですけど......。まあ、こういった経験は映画に活かされていると思います(笑)。

ギャレス:後ろにいた奴が自分だったら、死んでただろうね(笑)。


―― 笑い事じゃない気がするんですが(笑)。イコさんは日頃どのようなトレーニングをしているのでしょうか?

イコ:月~金曜日の間に大体3日に一度くらいのペースで、朝10時から夕方の5時まで、生徒たちに教えながらアクションの稽古をするのが基本です。

まずウォーミングアップとして、4階建てのスタジオの階段の昇り降りを5往復、プッシュアップなどの筋トレを行ってから、12時に昼食を摂り、13時から17時までアクションの練習をします。

基本的に生徒たちは元から武道や護身術の心得はあるので、動きはできるんです。でも、表情が作れないんですね。映画のアクションでは、カメラにどう映るかを考えながら、体だけでなく表情で感情の動きも見せないといけません。なので、教えるのはアクションに対する反応の仕方やリアクションのとり方が主です。


―― ハンマー・ガールという女性の登場人物がいて、彼女が闘うというところも本作の特徴の一つですが、監督が好きな女優、ご自身の作品に出演させたい女優は誰でしょうか?

ギャレス武田梨奈とは以前から一緒に仕事をしたいと思っています。彼女は才能があるし、ファイターとしても素晴らしいので、イコをボコボコにする姿が見たいですね(笑)。

(イコさんに向かって)彼女なら簡単に君を倒すと思うんだよね。人の頭に強烈な蹴りを入れる様子を何度も見てるし。彼女の方が強いだろう。

イコ:(監督に向かって)彼女が強いのはわかってるよ。

ギャレス:なぜイコが勝てないと思うかと言うと、ラマとハンマー・ガール(ジュリー・エステル)のアクションシーンを撮っている時に、イコの純真な部分が顔を出したんですよ。

ベースボール・バットマン(ベリ・トリ・ユリスマン)、キラーマスター(セセップ・アリフ・ラーマン)との戦闘シーンでは、イコも彼らもお互いに全力でやります。でも、ハンマーガールを突き飛ばさなければならないシーンで、イコが凄くそわそわし出したんです。

なぜかというと、相手が男性であれば何も考えずに胸を押して突き飛ばせるじゃないですか? でも相手が女性だと肩とかお腹を押さなきゃってなる。そのせいで途中までは良いのに、突き飛ばすところになるとイコが急に緊張して不自然な間とかができたので、何テイクも撮る羽目になりました

さらに、ハンマーガールを持ち上げて窓へ投げつけるシーンでも、イコは窓へ投げつけた後、彼女を落とさずに持ったままそっと下ろしたんです。それも不自然だったので、8テイクくらい撮りました。

どんなアクションシーンでも、1テイク目からハードに、自然にできていれば、自分はすぐにOKを出すんですね。でも不自然な場合は、何度も撮らないといけない。しかも、例え優しくやっていたとしても、一回ハードにやるよりもテイクを重ねるほうが絶対に痛みは増します

(イコさんに向かって)だからまあ、彼女が苦しんだのは君のせいだよね。

イコ:別にアングルとかで誤魔化せばいいじゃないか!

ギャレス:いやいや、そうはいかないよ。アクションはワンテイクじゃないといけないから。


―― イコさんは紳士なんですね(笑)。一方で、日本人俳優陣が演じるヤクザが登場するのも本作の特徴ですが、数あるヤクザ映画に登場するヤクザの中で、監督が一番好きなのは誰でしょうか?

ギャレス:危ない質問だなあ(笑)。

素晴らしいヤクザ映画はたくさんありますが、一番好きなのは深作欣二監督作品を三池崇史監督がリメイクした『新・仁義の墓場』の石川力夫です。

あんなに暗くて凶悪で、全く好きになれる要素がないようなキャラクターを見事に演じ切る、岸谷五朗の勇敢なパフォーマンスに圧倒されました


―― 監督は日本のヤクザ映画だけでなく、侍映画もお好きとのことですが、監督が一番好きなチャンバラシーンの登場する映画はなんでしょうか?

ギャレスフ◯ック! これも悩むな!

失礼。じゃあ、2つ挙げますね。

一つは千葉真一の『戦国自衛隊』です。特別チャンバラではないのですが、軍対侍のバトルという図式がとにかく面白くて好きです。このバトルがまたクレイジーなくらい長いですしね。とても美しくて、素晴らしい映画だと思います。

もう一つは『子連れ狼』ですね。UKでは『子を貸し腕貸しつかまつる』と『三途の川の乳母車』を一本に編集した『Shogun Assassin』というバージョンがあって、その中に登場する、弁天来三兄弟が砂の中に潜む阿波藩士たちを狩っていくシーンが自分にとっては特別です。

兄弟の一人がウルヴァリンみたいな(笑)鉄の爪で砂の中を刺すと、砂に血が広がっていって、引き抜くと潜んでた奴の顔が出てくるんですが、子供の頃に初めて見たにも関わらず、このシーンははっきりと覚えてました。

その後、87年に公開されたパトリック・スウェイジ主演映画『スティール・ドーン 太陽の戦士』を見た時にそっくりなシーンがあって、これ『子連れ狼』の再現だ! って思わず、叫んだくらいです。そのくらい思い入れがあります。


―― お二人のベストアクションスター、格闘家は誰でしょうか?

ギャレス:ジャッキー・チェンですね。

(イコさんに向かって)君はジャッキー・チェン以外の人を挙げろよ!

イコ:じゃあ、ジャッキーチェンの別名か本名を言えばいい?(笑)

ギャレス:これは難しいですね。やはりどう見てもブルース・リーがアクションというジャンルにおいては重要すぎます。

彼がもう少し長生きしていて、もっと映画を作っていたら、きっとブルース・リーと今言っていたと思うんです。そのくらい彼には才能があり、インパクトがありました。でも、ブルース・リーが始めたものをジャッキー・チェンがさらに進化させたんだと自分は思っています。

あれだけ多くの作品を作っている中で、彼が自分の体で危ないスタントの数々をこなしてきたのを見ると、やっぱりジャッキー・チェンは特別です。あの勇気とクリエイティビティーには尊敬の念しかありません


―― 役者ではなく、現実の格闘家で好きな選手はいますか?

ギャレス:きっと笑われると思いますが、僕はリアルな暴力は怖くて、UFCとか見ていられないんですよ。

映画の暴力は本物じゃないので楽しんで見られるんですが、UFCとかのリアルな格闘は見ていると体が緊張してきちゃうんです。最終的には、もう握手して闘うのはやめようぜ! って思ってしまいます(笑)。


――それは意外です(笑)。最後に、話せる範囲で3作目の『ザ・レイド』について何か教えていただけないでしょうか? 舞台は東京ではないかという噂もありますが。

ギャレス:(ちょっと声のトーンが変わる)そ、それは面白い噂だね!(笑)

まだ頭の中にしかありませんが、『ザ・レイド3』のアイデアはいくつかあります。東京が舞台となる場面はあるかもしれないですね。あくまでも、「かもしれない」ですよ(笑)。

一つだけ断言できるのは、『ザ・レイド GOKUDO』は『ザ・レイド』のクライマックスの2時間後(映画内の時間で)から物語が始まりますが、『ザ・レイド3』は『ザ・レイド GOKUDO』のクライマックスの2時間前から始まります

現実の時間で言うと、『ザ・レイド GOKUDO』のラストシーンの数十分前くらいからですね。その時にある場所で起きていた何かから、『ザ・レイド3』は始まります。


―― はあーーーっ、なるほど!

ギャレス:君のリアクションを見る限り、グッドアイデアみたいですね(笑)。2年後くらいには作る予定なので、楽しみにしていてください。


余談ですが、当日筆者は「狂乱のスコッチ」ことロディ・パイパーのTシャツを着用して取材に挑んだところ、それを見たギャレス・エヴァンス監督が「『ゼイリブ』の格闘シーンも最高!」と笑顔でおっしゃっていました。

その言葉の通り、ギャレス・エヴァンス監督の選ぶベストアクションシーン5選に『ゼイリブ』は選ばれています。残りの4本は以下の動画でご確認ください。



『ザ・レイド GOKUDO』は11月22日(土)全国ロードショー!



(C)2013 PT Merantau Films


『ザ・レイド GOKUDO』公式サイト

スタナー松井

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RSS情報:http://www.kotaku.jp/2014/11/the-raid-gokudo-interview.html