神経科学的にどうなのよ?
ジョージ・A・ロメロ監督が撮った、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)を皮切りに、ありとあらゆるゾンビ映画が制作されるようになりましたが、どの作品も大体がのろのろと足を引きずりながら歩くのがセオリーとなっています。
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今回は、神経科学者のおふたりが書かれた本『ゾンビたちは生ける屍となった羊の夢をみるか?』より、神経科学的な観点から考えられる、あのゾンビの歩き方について見てみるとしましょう。
「io9」で紹介されていたこの著書は、ティモシー・ヴァースタイネンさんとブラッドリー・ヴォイテックさんによって書かれた一冊で、ゾンビの脳ミソがどのように機能している(またはしていない)のかを、医学的な専門分野から考察し、ネット上にも文章を載せているものです。
その中でも、特にゾンビと脳神経に関わる文章をご紹介します。
たとえば、もしも皆さんがゾンビだっとして、こんな状況だったらどうなるのでしょうか? 白いコートを着た科学者たちが、新鮮な人間の肉をテーブルの上に用意している。するとアナタのアンデッド前頭葉が「行け! それを喰え!」と指示するのです。無料の生肉ですからね。
そうすると、運動前野がどのように手を伸ばして肉を取るのか計算を始めます。ですが、膝の上に置いた手をそこに伸ばすというのは、神経科学的には非常に複雑な動作なのです。そこで計算処理が出来たアナタの脳ミソは、まるで操り人形の手足に付いた糸を引くように、筋肉をどのように動かすのか指令を出すのです。
ここで、街中で人間を襲うゾンビについて考えましょう。彼らはゆっくりズルズルと歩いてきますが、おそらく正しい方向に進むよう、脳ミソは働いているようです。のろのろ歩いても、一旦人間を掴めばあとは楽勝、噛み付くだけですね。
つまり彼らの皮膚運動は損なわれていないものの、大脳基底核と小脳が運動機能障害を起こしているものと考えられるのです。
これが起こると、人々は歩行と動作の同調が劇的に難しくなってしまいます。例を挙げるとパーキンソン病では、前かがみの姿勢をとり、短い歩幅でもつれた足取りで歩くことになってしまうのです。
加えて彼らは、明確なゴールを決めない限り行動すること自体が難しくなり、時には動きが固まってしまうこともあるのです。対照的に、脊髄小脳性運動失調は硬直を発生させます。固まった脚が歩幅を大きくさせ、のっしのっしと歩くようになるのです。しかしこの患者の場合はパーキンソン病とは異なり、動作がもつれることはありません。
ではこれらの症状を、どのようにゾンビに当てはめられるでしょうか? 映画の中での生ける屍たちは、伸びきった脚で大幅に歩く様子で登場すると思います。そして動きは緩慢で、動作はぎこちないものとなっていますよね。
ですが彼らは、決して目的を持った行動に困っているようではありません。実際彼らはいつも動いています。生きている人間に向かって歩く行動そのものは問題ないようですし、途中で立ち往生することもありません。ついでに姿勢は曲がっておらず、背筋はピンとしています。
このような理由から私たちは、目標を見失わず歩幅を大きく歩行するゾンビたちの症状は、小脳変性の反射パターンが起こっているという話になりました。しかしながら、皮膚運動と大脳基底核の通り道は比較的無傷だと言えます。
なるほど、「脊髄小脳性運動失調」なのですね。ということはゾンビたちは、心肺機能は停止しているものの、なぜか脳ミソは神経を伝って筋肉に伝令を伝えているわけなので、ヤツらを本当に殺すにはやっぱり首を斬ったり、頭部を散弾銃でブっ放したりするのが有効なのもこれで立証されますよね。
ちなみに、『28日後...』で全力疾走を始めた感染者、そして『ドーン・オブ・ザ・デッド』でダッシュをするようになったゾンビですが、彼らは皮膚運動機能がまだ損傷していないから、あれだけ爆走することが可能なのだろう...ということです。あれは死にたてホヤホヤのゾンビにしか出来ない芸当ってことになります。
この本の著者であるおふたりは、たまたまジョージ・A・ロメロ監督にゾンビの歩き方について質問する機会を得られたそうです。それについて監督の答えは...?
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ヤツらは死んでいるんだ。ヤツらは硬直している。あんたらだって、死んだらああいう風に歩くだろうよ。
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だそうです。科学的な検証はなしにしても、監督なりに考えられて出来た歩き方なのでしょうね。
(岡本玄介)
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