オンラインゲームコミュニティーにとって、悲しいニュースが飛び込んできました。 9月11日、リビアのベンガジで米領事館が襲撃され、4人のアメリカ人が命を落としました。その中の一人、ショーン・スミスさんは『EVE Online』でヴァイル・ラット(Vile Rat)という名前で参加しており、Something Awfulフォーラムなどでも知られていた人物です。その襲撃事件から数時間後、彼のいなくなったオンラインコミュニティーは、彼の功績をたたえ、その死を悼めています。 スミスさんは『EVE Online』プレイヤーの間では有名な人物で、ゲーム内では外交官として活躍していました。現実世界で実際に領事館での仕事を持っていたからこそできた役回りだったのでしょう。ゲーム中の彼のスキルと、外交官としての活躍ぶりは多くのプレイヤーに知られ、彼の与えた影響はいたるところに見られたようです。また、スミスさんはゲームプレイヤーたちに投票で選ばれた、プレイヤーを代表する人々がゲーム開発元のCCPと交渉するための機関、恒星経営議会(Council of Stellar Management、以下CSM)にも属していました。 スミスさんの訃報は「The Mittani」として知られる、アレックス・ジャントゥルコさんによって伝えられました。彼はスミスさんが属していたゲーム内企業のボスでした。
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皆さん、悲しいお知らせがあります。ヴァイル・ラットがベンガジでの襲撃によって死亡したことが確認されました。彼の家族にはすでに伝えられており、もうじきメディアでの報道もされることでしょう。 言うまでもありませんが、我々は言い表しがたいショックを受けており、残された彼の家族と子供たちへの思いでいっぱいです。私はヴァイル・ラットとは2006年からの付き合いで、彼は最も古くから存在するガードグーンの一人でした。また、このゲームの中で最も素晴らしい働きを見せた最高の外交役でもありました。彼の家族のために祈りを捧げます。
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ジャントゥルコさんは彼のサイトで感動的な追悼文を掲載し、スミスさんとの出会い、友達としてのスミスさんを語っています。スミスさんのもう一人の友達で、「セレーン」(Seleene)としても知られるCCPのアバサーさんも追悼文を掲載し、ゲーム内のすべてのアバターの向こう側には実際の人間がいるということを人々に思い起こさせています。 ---------------------------------------
彼は本当に優しくて面白い人でした。CSMのミーティングやディスカッションでは、役回りに情熱を持ってくれていましたし、もし誰かが彼に反論する立場をとっていても、そこから先に議論を発展させることのできる雄弁さを備えた人物でもありました。 私は、彼と静かに『EVE』と関係のない話題をするのも好きでした。そうして彼をよく知っていったことが、私が『EVE』のプレイヤーミーティングやファンフェスなどに行かない方々によく言い聞かせている「一度ピクセルの向こう側に存在する人間に会うことがあれば、もう彼らをこれまでとは同じように感じることはできなくなる、そしてその経験は常にポジティブなものだろう」という言葉の元となった経験でした。
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CCPの広報「CCPマニフェスト」(CCP Manifest)として知られるネッド・コッカーさんはKotakuにこう語ります。 ---------------------------------------
プレイヤーの訃報が入るたびにCCPとその社員一同は途方もなく悲しみを感じ、今回のショーン・スミスさんの訃報にも同じ気持ちです。我々の多くが公私を問わず彼と知り合っていた者ばかりで、正直に言えば『EVE』コミュニティーの彼の訃報に対する心からの言葉の数々に、我々自身の言葉では言葉足らずに感じるほどです。
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コッカーさんはスミスさんの功績をたたえ、CSMにゲストデベロッパー職を設けるとも語っています。
ヴァイル・ラットとしてのスミスさんのアバター
有名なメンバーの訃報に、コミュニティーは深い悲しみを感じているようです。その一方で、死に対しての気持ちの整理もインターネットならではのものが見られます。インターネット上ではハグを与えることはできませんし、誰かの肩に頭をうずめて泣くことも出来ません。言葉だけでは不十分にも感じますが、主にオンラインフォーラム上で培われてきた友情に対して、やはり大きな意味を持つのは言葉です。 スミスさんがよく現れ、人々と議論を交わした中東や外交、そして『EVE Online』に関するフォーラムは現在スミスさんの死にショックを受け、悲しむメンバーたちが語り合うメモリアルフォーラムとなっています。 言葉ではうまく言い表せないから行動で表そう、という動きも見られます。Something Awfulフォーラムの管理人たちが残されたスミスさんの配偶者にコンタクトを取り、スミスさんの名を冠した基金を作っています。
ヴァイル・ラットに捧げられたトリビュートビデオ
『EVE Online』内では、プレイヤーの手で作られたスペースステーションである前哨基地がスミスさんの功績をたたえて、改名しています。その数は最低でも200、スミスさんの所属グループ、グーンスワーム・フェデレーション(Goonswarm Federation)のみならず、敵味方を問わずにこの改名は広がり続けています。 「RIP Vile Rat」(安らかに眠れヴァイル・ラット) 「His legend lives on, RIP VR」(彼の伝説は生き続ける、安らかに眠れVR) 「In Honor of Sean-VR」(ショーン-VRを讃えて) 『Eve Online』自体、そして特にスミスさんの所属グループ「グーン」のプレイヤーたちは少なくとも、そのコミュニティーの外からは温かみもなければ思いやりもないとして知られています。聞こえてくるのは、トロールや搾取、「出来るかどうかやってみたかったら」という理由でゲーム内経済を破綻させようとしたり、といった話題ばかり。外交的なやり取りが成立しそうにない土壌ですが、そんな中でもスミスさんは違いました。
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彼が残していった投稿は、視点をはっきりとさせて議論を行い、荒らしに対しても可能な限り最良の対策を取る彼の思慮深さが現れたものでした。 『EVE Online』フォーラムでのスミスさんの最後の言葉は「コイツの言った通り。私はそんな本気で言ったわけじゃないんだが。」(続くレスには「おい、お前生きてんのか? みんな心配してるぞ。」とのコメント)という他愛のない投稿でしたが、Jabberチャットに残されたスミスさんの最後の言葉には、背筋の凍るような寒気すら覚えます。 ---------------------------------------
(2:40:22 PM) vile_rat: ファック
(2:40:24 PM) vile_rat: 銃声だ
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スミスさんが関わっていたコミュニティーは、この暴力によって奪われたメンバーの悲劇を皆で乗り越えようとしています。『EVE Online』のスミスさんが属していたグループのプレイヤーたちも、これまではネガティブな評判ばかりが先行していましたが、今回のスミスさんの死を受けて、一人の仲間の死を心から悼む彼らメンバーたちの思いがこうして知られることとなりました。 アバターの姿しか知らない、デジタル上でしか知らない誰かであっても、その死の向こう側には生身の人間の死という現実があります。今回のような悲劇的な事件があって初めて、その現実に直面し、現実の人間の存在が身近に感じられてくることも少なくないでしょう。しかし、そうして現実世界から消えていった人々も、フォーラムに刻まれた彼らの残していった言葉とともに、ひとりひとりのコミュニティーメンバーの記憶の中に生き続けるのです。 ショーン・スミスさんの安らかな眠りをお祈りいたします。
(Top photo: Sean Smith, via Daily Mail) [via Kotaku] (abcxyz)
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