男は肉欲のため、女は金欲のため、極限の状態で異常行動に出るのです。
海外ドラマや映画、例えば『デクスター』や『CSI』シリーズ、『羊たちの沈黙』。日本では『八つ墓村』や漫画『サイコメトラー』...と続けばホラ、共通点が見えてきませんか? そう、それは常軌を逸した殺人を次々と犯す、恐怖のシリアル・キラー(連続殺人鬼)です。
架空の物語に登場するキャラクターだったら、まだエンターテイメントとして観客が楽しめるのですが、現実にも殺人に底知れぬ興味と悦びを見出し、何人もの命を奪ってしまう恐ろしい人たちが存在します。
動機が私怨の場合もあれば、本人と全く無関係ない無差別殺人や猟奇殺人、快楽殺人などなど、彼らは頭の中でいったい何を考えて、そのような蛮行に及ぶのでしょうか?
今回は、「io9」がいくつかピックアップした過去の事例を元に、連続殺人鬼たちの手口や心理状態などについて考えてみましょう。以下へ続きます。どうぞ。
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連続殺人鬼は歴史の中にも多く登場します。有名なところではハンガリーの貴族であり、拷問や血のシャワーを浴びるのが好きで「血の伯爵夫人」と呼ばれ、吸血鬼伝説のモデルにもなった性癖異常者のバートリ・エルジェーベト(1560年−1614年)。
1888年の8月から約2ヶ月間に渡り、ロンドンで売春婦5人をバラバラにし、署名入りの犯行予告を新聞社に送りつけたりしていた劇場型犯罪の元祖、切り裂きジャックなどが知られています。
この頃にはまだ「シリアル・キラー」つまり連続殺人鬼という名称が存在していません。1974年から4年間で30人以上を殺害したとされるアメリカの連続殺人犯、テッド・バンディを表現するために、元FBI捜査官のロバート・K・レスラー氏が1984年9月に考えだしたのが、この呼び名です。以来、今ではすっかり定着しています。
では、いくつか普通の人々が疑問に感じそうな事柄を挙げて、過去の事件を元に、連続殺人鬼について考えてみましょう。
■何をもって「連続殺人鬼」とするのか?
連続殺人事件については、これまで何年にも渡って調査が行われてきているワケですが、神経科学者や心理学者、そして行動科学研究者といった専門家ですら、それをキッチリ定義できずにいるのが実情のようです。
『プロファイリング―犯罪心理分析入門』や『殺人プロファイリング入門』といった本を執筆された、ロナルド・M. ホームズ氏とスティーヴン・T. ホームズ氏によりますと...
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単純に統計を出して、比較検討をするに充分な連続殺人事件が起こっていないため、それを定義することはまだ出来ない。
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というコメントを残されています。逆説的に、「統計が無いのが理由で、どんな科学を用いても、的確に何が原因で現代の怪物を生み出す事になるのかも、まだ解らずにいる」ということでしょう。そう言われると身も蓋もないので、もうちょっと知恵を絞っていただきたい気もしますが...。
とはいえ、心理学者たちはいくつかそれが原因ではないか? という事実を突き止めていたりもします。例えば、その一つは幼少の頃に精神的、肉体的、または性的に虐待を受けていた人物が連続殺人鬼の中には多かった、という統計。
全部がそうとは言い切れませんが、性的な妄想に抑制が効かなくなり、殺人にまで至ってしまうこともあれば、精神分裂症などの精神病が原因で人を殺めてしまうこともあるようです。
日本語版では『HARE PCL−R 第2版 日本語版(ピーシーエルアール)』という本に載っているそうなのですが、高ランクに位置づけられた連続殺人鬼たちは、大体の動機が「力ずくでも物事をコントロールしたがり、可能な限り何をやってでも、巨大な欲求を満たそうとする」タイプであり、定期的に激しく暴力的な振る舞いをする人物像なのだそうです。
まぁ十人十色だとは思いますが、こんな傾向があるようですよ...というコトで次に行ってみましょう。
■何をもって「連続殺人」とするのか?
上に名前が登場したロバート・K・レスラー氏によりますと、連続殺人鬼を逮捕するにはまず、犯人が居るのか居ないのか、その存在に気付くことだそうです。
ただそう言われても「当たり前じゃん!」と思われるかもしれませんが...おそらくは、各種の情況証拠などから、一見して無関係と思われる事件の点と点を線で結び、その裏に関係する連続殺人鬼が居る! と認識するのが大事なのだと思います。
何故なら、カナダで起こった娼婦49人殺しの養豚業者ロバート・ピックトン事件では、犯行がたった一人の者によって起こされていると気が付くまで、何年も月日が掛かってしまったというケースがあるからなのです。よって、その「当たり前」のことが、何より一番重要なポイントなのでしょう。でなければ、気付かずに犠牲者の数は増える一方となってしまいます。
連続殺人事件の調査にあたった担当者たちのほとんどは、「1ヶ月以上の期間を置いて、お互いが知り合いでも何でもない3人以上の人々を殺害したら、それが連続殺人鬼と呼ばれるようになる」と言っています。1ヶ月という期間は、「クーリング・オフ期間」と言われているそうですが、これは精神的に一旦落ち着いてから次に向かって高まるのも、殺人の計画や準備期間的にも、大体それくらいかかるというコトなのでしょうか。
しかしながら、この12年ほどでFBIが考える定義はややユルくなっています。それによりますと...
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「それぞれ別個の事件において、同一の加害者(達)が無法な殺人で2名以上の被害者を出した時」
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としています。加害者は決して1名だけとは限らず、複数名による犯行だったとしても連続殺人として扱うのだそうです。そしてやはり、たとえば2011年にアンネシュ・ベーリング・ブレイビク容疑者によって引き起こされたノルウェー連続テロ事件や、2012年にコロラド州で起こったジェームズ・イーガン・ホームズ容疑者が『ダークナイト・ライジング』のプレミア上映会場で起こしたオーロラ銃乱射事件といった、1回だけの大量殺人などと区別するために、一定の期間が空いていることが条件なのだそうです。
ですが、もしもそのような大量殺人事件が2件以上関係していた場合には、連続殺人として捜査を切り替えるようにもなっています。そうなってくるともう、テロリスト扱いになってしまうかもしれません。
■連続殺人鬼たちの人物像は、どのように描かれるのか?
「プロファイリング」...と英語で言ったほうが解りやすいのかもしれませんが、チョ・スンヒ容疑者によるバージニア工科大学銃乱射事件の時のように、明白な犯行声明で自分自身を名乗ったりしない限り、容疑者を探すのは至難のワザ。
しかし現代の科学技術では、たとえば目撃情報から似顔絵を描いたり、監視カメラの映像から背格好を見出したり、はたまた乗車記録から最寄り駅を絞り出したりと、そこそこ特定に繋げられる足掛かりは掴めると考えられます。
事件の調査に当たる警察などは、まだ見ぬ容疑者を特定すべく、まずはザックリとした人物像からプロファイリングを始め、心理学者や神経科学者などと一緒に行動パターンやその範囲、嗜好や性格などを絞っていくのです。ここでは、長年にわたり貯めてきたデータなどと照らし合わせつつ作業が進められ、犯人が割り出された時には、それほど現実と掛け離れていたりはしないとのこと。
でもやっぱり、犯人の動機はあまり調査の役には立たないのだそうで、警察側もそれを心得ているそうです。快楽主義、性的満足、スリル、 色情などの強烈な欲望、そして支配欲などと言った、心的な満足感を得たいがために行われる犯行が多いのだとか。
大まかなプロファイリングも、取っ掛かりはその他の事件からの共通点を前提に開始する模様。たとえば連続殺人鬼のほとんどは、20代から30代(特に28歳前後)の男性に多く、同じ国籍や人種をターゲットに殺人を行うのだそうです。
この傾向を基準に捜査を進めていくだけでも、多国籍国家であれば白人系だけでなく、ラテン系か黒人系かアジア系か、はたまたユダヤ系か中東系かなどが大雑把に消去法で除外されます。もうそれだけでかなりの寄り分けが出来るコトになりますよね。
切り裂きジャックやロバート・ピックトン被告のように、娼婦だけを狙ったりと、連続殺人鬼には決められたターゲットがいたり、さらには犯行の手口もが毎回同じという、ある種のパターンが存在します。
なんとなく白人に連続殺人鬼が多いようなイメージがありますが、これは全くの都市伝説で、実はどの人種でもそのパターンは当てはまるのです。ちなみに他のパターンでは、自宅や職場の近くに引っ越してきた、余所者を排除しようとして殺しに手を染める場合も同じくです。
一方で、女性の連続殺人鬼というのは非常に珍しいだけでなく、そうしたプロファイリングが適合しない場合が多くあるのだそうです。
大きな違いは、女性による連続殺人は殺される側の人間のことを知っており、しかも殺されるのは大体が男性とのこと。殺人の動機は快楽よりも利益が目的の場合が多く、独りで犯行に及ぶ容疑者もいれば、非力だからなのか、男性とチームを組んで犯行に及ぶパターンも見られるそうです。
トロントの連続レイプ犯、ポール・ベルナルド被告とハンサムな彼にゾッコンで、犯行の手助けまでしていた妻のカーラ・ホモルカ被告といった例や、当時8歳だったヴィクトリア・トリ・スタッフォードちゃんをレイプ・撲殺したマイケル・ラファティー被告と、その彼を手助けしたテリー・リン・マクリンティック被告の事件(これは1人目の被害者が出た後に発覚したので連続ではありませんが)も、私利私欲とはちょっと違いますが、チームで行動していました。
これらは夫の性犯罪を手伝う妻たちでしたが、つい最近でも日本では、木嶋佳苗被告が起こした婚活連続殺人事件や、尼崎連続変死事件の角田美代子主犯といった金銭目当ての犯行が記憶に新しいところです。
中には『モンスター』という題名で映画化もされた、元娼婦の連続殺人犯、アイリーン・ウォーノスの事件もありました。これに限っては、男性による犯行動機と似ている点が多いと考えられるようです。
■精神異常者? それとも正常な人物なのか?
詰まるところ、こうした連続殺人鬼たちの精神状態はマトモだったのでしょうか? それとも常軌を逸していたのでしょうか?
正常な殺人鬼たちは概ね、平均かそれ以上の知能指数を持っており、犯行も慎重で計画的です。ソーシャル面でも人付き合いが得意なため友人も多く、安定した仕事だけでなく家族がいる場合すらあります。事件が発覚してから、近所の人たちが「まさかあの人があんな恐ろしいことをするだなんて...」と口を揃えて言うようなタイプです。
対して、アタマがブっ飛んだタイプの殺人鬼は衝動的であり、その辺にあるものなら手当たり次第、何でも凶器にしてしまいます。犯行現場はメチャクチャになっており、死体の処理方法も気を遣わずデタラメ。時には死姦に及ぶこともあるのは、肉体的な欲求や性的な暴力が動機の根源となっており、独特の妄想を快楽で満たそうとするタイプが多いとされています。
どちらか片方のタイプなら、まだ捜査は進みやすいものの...一人の犯人が気分によって冷静だったり感情的だったりする場合もあり、そういったケースでは捜査が大きく難航するそうです。
古典的な例ですが、1978年から1991年までに17人の青少年が殺され、「ミルウォーキーの食人鬼」と呼ばれた同性愛者のジェフリー・ダーマーの事件がまさにそれにあたります。ゲイバーなどで冷静に誘い出した青少年たちに睡眠薬を飲ませては、衝動的に殺し、また冷静さを取り戻してから死体を解体して調理して食べたり。生首を冷蔵庫に保存したり、硫酸で溶かして、死体処理を行っていました。
でも最後には部屋中に転がった死体の山で、自分の住む「オックスフォード・アパートメント213号室」だけでなく、そのアパート全体まで腐臭に包まれていたというのですから、もうこの世の地獄のような光景だったに違いありません。
部屋に連れ込んだ19歳と14歳の青年たちには、ロボトミー手術を施し、自分の言う事を聞く理想の恋人を生み出そうとしていたという点からも、145という高いIQから出た発想と性的な欲求を叶えようという衝動の、2面性が垣間見えます。ダーマーの生涯は2度も映画化されていますし、ウィキペディアだけでもかなり興味深いので、ぜひとも読んでみて下さい。
■プロファイリングの限界はどこなのか?
ダーマーが冷静と情熱のあいだで連続殺人事件を起こしていただけでなく、自分と同じ白人以外の人種も手にかけており、しかもゲイだったために被害者が全員男性だったという、上記で紹介したパターンの全て真逆をいったこの事件...。現実にはこんなコトもあり得るワケで、となるとプロファイリングの限界はどこなのか? という疑念も持ち上がってきます。
ベルトウェイ狙撃者事件では、警察当局のプロファイリングでワシントンDCエリア出身の、30代白人男性による単独犯行ではないか? と考えられていたのですが...実は湾岸戦争帰りの41歳黒人、ジョン・アレン・ムハンマド容疑者とジャマイカ人の17歳、ジョン・リー・マルヴォ容疑者という、西海岸から来た、白人ではない二人が犯人だった例もありました。
こうした事例から、2007年にはオンライン版ザ・ニューヨーカー誌にて、マルコム・グラッドウェル記者が「一般的な情報ですら間違っているのならば、正しくない詳細は役に立たない」と記事を寄せています。そこでは、
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プロファイリングは何かに合格するためのテストではなく、連続殺人鬼の輪郭を浮き彫りにするものである
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と至極まっとうなコメントと共に、90年代半ばにはイギリスの内務省で184件の犯罪を分析したものの、犯人逮捕まで導いたモノはたったの5件しかなかった、という話を紹介しています。この逮捕率はたったの2.7パーセントですので、プロファイリングは期待するほど役には立たない、と言えるのかもしれません。
捜査の参考資料となるツールとしてなら機能するのでしょうが、これにこだわったばかりに振り回されてしまうと、本末転倒となってしまいかねません。しかし、専門家による分析が大正解である部分だってたくさんあります。
その良い例が、1986年に心理学者であり、犯罪学者でもあるデイヴィッド・キャンター氏が、18人の女性を強姦殺人したイギリスのジョン・ダフィー逮捕のために作ったプロファイリングでした。それは17個の予想項目中、13個を言い当てたとのこと。これはかなりの正解率ですよね。
その事件でのプロファイリングが、見事に犯人逮捕に繋がったのはグラッドウェル記者も認めるところですが、やはり2.7パーセントという数字は覆らないので、信用しすぎてはいけないという流れで話が進みます。
■連続殺人鬼を捕まえるには?
彼らが捕まる時は、大体がうっかり何かをし忘れた場合が多いと言います。経験が足らないために、最初の犯罪でお縄を頂戴することもあれば、逆に経験がありすぎるがために、自信過剰になってしまうパターンもありますし、適当な性格が仇になる、なんてケースもあるそうです。
ダーマーの時は、逃げ出した被害者がパトロール中の警察官に助けを求めたのがきっかけで逮捕に繋がりましたが、こうしたケースはほとんどなく、また意外にも殺人の真っ最中に見つかって逮捕されるケースもないそうです。
テッド・バンディーが捕まった時は、車のトランクに詰め込まれた死体が、たまたま普段行われている検問によって発見された...などというケースもあったりします。
これもまた自己責任ですが、殺人犯が前科を持っている場合、まだ判らぬ連続殺人の容疑者リストに、とりあえずで加えられがちになります。そこから秘密裏に監視されるようになり、結果として逮捕に繋がるパターンもあったり、仲間と共に行った犯行では、片方が密告したり、相棒を売ったりして発覚することもあるのです。
スティーヴン・キングの『IT』に登場するピエロのモデルとなったことでも有名な、ジョン・ゲイシーもまた同性愛者で、性交後に殺害した青少年は33人にも及びます。
ゲイシーの元へアルバイトの面接に向かったまま行方不明となっていた少年を探していた警部の訪問で目をつけられ、監視されている最中に薬物の不法所持で家宅捜索。家の地下から、腐敗した死体がゴロゴロ出てきて逮捕となりました。アメリカの犯罪史に名を残したゲイシーの生涯もまた、非常に複雑で興味深いものとなっているので、上記リンクから詳細をどうぞ。
「サムの息子(Son of Sam)」 という名でマスコミや警察に支離滅裂な内容の手紙を送りつけ、6人を銃殺、8人に重軽傷を負わせたデイヴィッド・バーコウィッツは、街中をうろついていた所で職務質問に遭い逮捕。
警察は最初、まさかこの人物が連続殺人鬼だとは思わず、目撃者だと思ったらしく、そんな誰かの勘違いから発覚するパターンもあります。このような捕まり方では、本人としてはトホホな気分でしょう。
というワケで、犯罪史上最悪の連続殺人事件を並べているとキリがないので、この辺でお終いにしますが、ここまで紹介してきた全員に共通するのは、何と言ってもその行動力ではないでしょうか。
刹那的な感情で他人を手に掛けようとしてみても、普通の人であれば実際にそんな犯行なんて、とてもじゃないけど出来ませんよね。今回の事件簿を読んでいると、仮にアブノーマルな趣味嗜好や強い性的欲求を持っている人でも、他人を殺すほどに欲望が渦巻いているのか、そして、そこまでの行動力を持っているのかいないのかが、殺人鬼との決定的な違いではないか? と思うようになりました。
しかし、彼らの見た目は普通の人。もしかしたら、アナタの隣人がシリアル・キラーである可能性も無きにしもあらず。みなさん、「気を付けよう、甘い言葉と夜の道」です。
Images: Showtime, Illustrated London News (public domain), Hannibal, Aileen, Dahmer, Gacy.
How to get inside the mind of a serial killer[io9]
(岡本玄介)
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