先日、「呪われた家かどうかを確認する方法」という記事を書きながら、私は2000年の秋から冬にかけて住んだロサンゼルスのアパートでの体験を思い出していました。
その家は『死霊館』のような過去がある屋敷とかではありません。しかし、そこで起こったことを考えると、あれは確かに「呪われた家」だったのだと思います。映画や小説のような盛り上がりや、悪魔との対峙なんてドラマチックなものではありませんが、私にとっては非常に恐ろしい体験だったので、この場を借りて皆さんとシェアしたいと思います。
長くなりますが、読んで下さると幸いです。
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2000年の秋、ロサンゼルスに留学した私は、ルームメイトと共に家を探していました。それまで住んでいた寮を早々に出なくてはいけないということもあって、私たちは多少なりとも焦っていたのです。そして見つけたのが、学校から徒歩15分程度の、外観は古くて汚いけれど中はこざっぱりとした、フリーウェイの出口近くの安アパート。
空き部屋になっていたのは、2階建ての1階部分。部屋の間取りは1ベッドルーム(1LDK)で、無駄に広いリビングには、頭にぶつかりそうなくらい低く設置された、部屋に不釣り合いな赤いシャンデリアが吊り下がっていました。悪趣味なシャンデリアだとは思いましたが、寮の退出期限が迫ってきていたこともあり、私たちは深く考えずに「住むところが見つかってよかった」と速攻で入居を決めたのです。
引っ越しは滞り無く終わり、私たちはこれから始まる新しい生活にワクワクしながら眠りにつきました。しかし、不気味な現象はその日の夜から始まったのです。
次の日の朝、ルームメイトが神妙な顔をしてこう言いました。「シャンデリアの下に首を吊った男性が見える」と。
このルームメイトは、比較的「感じやすい」体質でした。彼女は真面目な性格で、人を不必要に怯えさせるようなことを言う人間ではありません。そんな彼女が、「夜中に起きたらはっきりと男性が首をつっている姿が見えた。彼が何を求めているのか分からなくて、話しかけてみたけど答えてくれない」と言うのです。
問題のシャンデリアに近づいてみると、それまで気付かなかったのが不思議なくらい、黒ずんだ油染みのようなものがシャンデリアの下に広がっていました。彼女が、首吊り死体の男性の霊を見たと言わなければ、気にする必要も無いことだったのかもしれませんが......。
一晩中男性の霊を見続けたという彼女の発言を聞いてしまっては、その湿り気を帯びている黒光りしたシミに大きな意味があるように感じました。「首つり死体って、時間が経つと内臓とか体液が出てくるっていうじゃん。長時間放置されて、染み込んだのかな...?」私の無神経な発言に、ルームメイトは顔をしかめました。私は思わず口にした言葉を酷く後悔しました。
それから何日かして、私は自室の白い壁に黒っぽい引っ搔き傷のようなものが付いていることに気がつきます。それは、映画『クロユリ団地』に出てくる5本の指を立てて引っ掻いたような痕。不思議に思いましたが、映画ほど派手な痕でもなかったので、引っ越しの時にでもつけてしまったものだろうと、気にしないように努めました。
ある日の午後、私が学校から戻ると、家にいたルームメイトが目を丸くして私を見ていました。驚いて「何があったのか」と聞くと、彼女は硬い表情のまま、こう言ったのです。「真知子はずっと家にいたと思ってた」と。そして、その私が外から戻ってきたので驚いた、と。
彼女は家にいる間中、人の足音を聞き、確かに、カーテン越しに人が歩くのを見たと言うのです。あまりにもハッキリと人の気配を感じていたため、私が外出していたとは思ってもいなかったらしいのです。
「この部屋、おかしいよね?」、「確実に何かいるよね?」、「自殺とか事件とかあったんじゃない?」、「近所の人たちに聞いてみよう」とその夜、私たちは近隣の住民にこの部屋でかつて事件や事故があったかどうか聞いて回りました。しかし、御都合主義の映画とは違い、私たちが思い描いていたような「事実」を聞くことはありませんでした。
お互いに出来るだけ気にしないようにしようと話し合い、私も、ルームメイトと一緒なら頑張れるだろうと思いました。しかし、程なくして、勉強が忙しくなってきたルームメイトは課題の都合で知人の家に泊まるようになり、その部屋には帰ってこなくなったのです。
ふたりで住むために借りた広い部屋。家具も無く、ガランとした部屋に帰るのは心霊現象を抜きにしても気味が悪いものでした。そして、気にしないように努めても、夜になると決まってシャンデリアの下の首を吊って恨めしそうにしている男と、自分の部屋の外を何かが歩いている気配を感じていたのです。
また、ホラー映画が好きな私は、実際に体験していることに加え、これまでに見聞きした知識を総動員して、ドアを開ける瞬間、電気を付ける瞬間、トイレのドアを開ける瞬間、シャワーカーテンを開ける瞬間、何かがいるかもしれない、映っているかもしれない、見えてしまうかもしれない...と想像しては恐怖心を自ら増大させていったのです。
心霊現象が起こっていない時でも、私は想像力で霊現象を作り出しては怖がっているような状態でした。まともな精神状態では無くなっていたと思います。
第三者からしてみれば、室内で足音が聞こえたり、首吊り死体が見えるなんて大した事ではないのかもしれません。「ディズニーランドのホーンテッドマンションのプリアトラクションの首吊り死体の陰と何が違うんだ」と言われたら、言い返すことも出来ません。しかし、毎日のようにこのような現象にあっていると、慣れる所か精神がやつれてくるのです。
当時、私は家で過ごす時間を極力減らそうと早起きをして学校へ行き、夜は遅くまでカフェで時間をつぶすことを日課にしていました。また、机に向かっていて、目の前の置き時計が地震でもないのにバタンと倒れた時には、驚きと恐怖のあまりに脱兎のごとく部屋を飛び出し、上の階に住む日本人留学生の部屋に押し掛けたこともありました。
自分をごまかしながらどうにか過ごす日々。気付くと、以前見つけた爪痕のような傷が、いつの間にか3カ所になっていました。そして、それが4カ所になった頃、夜中に窓のすぐ横をバタバタと走りながらキャッキャとはしゃぐ子供達の声を聞いたのです。その声を聞いた瞬間は、特には気に留めませんでした。
しかし、そのアパートには子供は住んでいなかったのです。外から入り込んだにしても、メキシカンギャングがショットガンで銃撃戦をするくらい治安の悪いその地域で、夜中12時過ぎに子供達がはしゃぎまわっているはずが無い......。
その声が聞こえなくなってから、私はブラインドを開けて外を見てみようかと思いました。しかし、さっきの子供達が窓にピタッと、手と顔をくっつけて部屋の中を覗こうとしているような気がして、実行に移せませんでした。ブランケットを頭からかぶって、一刻も早い朝の訪れを待ったのです。
さすがに耐えられない......と思った矢先、私の「家を出たい」という気持ちを決定打にする出来事がおきました。
その日の朝、目を覚ました私が最初に見たものは、カーペットの上で真っ二つに割れたマニキュアの瓶。中身は全てこぼれ、カーペットに染み込んでガチガチに固まっていました。そのマニキュアは、ベッドサイドテーブルのキャビネットの中に入っていたものでした。「誰か・何か」が、私の枕元に現れ、キャビネットからマニキュアをとり出して、音もたてずに真っ二つに割り、それを少し離れたカーペットの上に投げ捨てた......。
まるで、昼夜を問わず姿を表す「何か」の存在を認めようとしない私に対するメッセージのようでした。悪戯というよりも、計り知れない強い怒りをぶつけられているように感じたのです。その家に引っ越してきて3ヶ月。恐怖のせいで増えた白髪を鏡で見ながら、私は家を出る決心をしました。
あの家を離れて以来、私は目立った心霊現象に遭遇していません。きっと、「呪い」や「霊魂」は私に憑いていたのではなく、あの部屋に憑いていたのだと思います。
学校を無事に卒業した後、私が引っ越してからもしばらく住んでいた元ルームメイトに、あの家のことを聞く機会がありました。すると、「あの家で写真を撮ったら、オーブのようなものが沢山写っていて、顔が見えないくらいだった」とのこと。そして、実は内見の時に「何とも言えない気持ち悪さを感じてはいたが、それはオープンハウスで入居者を募集していたからだと思った」とも。そう、こじつけでも何でもなく「自分の家が呪われているかを見極める方法」で紹介した「明らかに雰囲気が違う場所」だったようなのです。
この記事を書こうと思い、久しぶりにGoogleマップでかつての我が家を見てみました。あの家は、昔と変わらずあの場所に建っています。今、人が住んでいのかどうかは分かりませんが、除霊などがされていないのであれば、今でも不気味な現象が続いているかもしません......。
画像:io9、mankind66、Wikipedia、IMDb
(中川真知子)
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