映画史上最速であろう速度で走り、映画史上最多の数で襲い掛かってくる感染者「Z」にブラッド・ピットが立ち向かうゾンビアポカリプス映画『ワールド・ウォーZ』が、8月10日(土)に公開されます。
今回は、本作で想像を超える映像と重厚な人間ドラマを作り上げ、なおかつ万人向けの作品としてまとめた、マーク・フォスター監督にインタビューして参りました。
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ダニー・ボイル監督の『28日後』、ザック・スナイダー監督の『ドーン・オブ・ザ・デッド』以降、ゾンビが「走る」ことは不思議ではなくなりましたが、『ワールド・ウォーZ』に登場する「Z」の速度、そして数は、それらのゾンビ映画をはるかに超えるもの。その圧倒的な映像は、監督の頭の中に思い描いていた光景を再現したものなんだそうです。
ゾンビの大群が生まれた背景、そして映画人としてのこだわりが垣間見える、マーク・フォスター監督の言葉の数々は以下より。
――昨今尺の長い映画が多い中、本作は非常にテンポが速く、コンパクトにまとまっていますが、意識的にタイトに作ったのでしょうか?
マーク・フォスター(以下、マーク):常々映画を作る時には2時間以内におさめたいと思っています。本作のようなディザスター、終末、ゾンビを描いた作品でも中には長すぎる作品があるので、なるべくテンションを高く保つためにタイトに、短く作りました。
――本作で登場する感染者、ゾンビである「Z」はとにかく速く、凶暴です。ゾンビ映画やモンスター映画といったジャンルでは、ゾンビ、怪物は何かのメタファーとして機能することが多いですが、本作の「Z」は具体的な何かのメタファーなのでしょうか?
マーク:それは見た人それぞれに解釈してもらってかまいません。
ただ、個人的には、現代社会で人間がテクノロジーの奴隷になっている、誰もが携帯電話やスマートフォンをずっとチェックしていて、仮想空間でのコミュニケーションはあるものの、人間同士の密なコミュニケーションがなかなか持てない世界になってきている、人間が魂を失ってきているといったことを表現しています。
あと、僕がいつも興味を持つのは人間の集団意識、群衆になることで起きる人間の変化です。普段平和的で大人しい人達も、大勢集まると凶暴になったり、恐ろしい行為をしかねません。「Z」は人間のそういった面も示しています。
――学者が「自然災害は連続殺人鬼」、「自然はビッチ」だと、自然災害の無慈悲さ、凶悪さを強調しつつ、ゾンビの大量発生を自然災害と結びつけているシーンが印象的でした。この表現にはどういった意図があったのでしょうか?
マーク:人間は自然災害を過小評価していると思います。しかし、実際に起きると、大いに恐怖するわけです。そういった点から、自然災害、科学への結びつけを強調することでリアリティが増すと思いました。リアルであればあるほど、映画のテンション、恐怖感、迫力も増しますからね。
――本作のゾンビ、「Z」の行動には明確なルールがあり、ゲーム的と感じられる演出もありますが、ゾンビを扱う上で工夫した点はどういったところでしょうか?
マーク:一つ決めていた絶対的なルールは、「Z」は襲える者がいなければ休眠状態に入り、夢遊病者のようにさまようものの、音がしたりすると、血の匂いを察知したサメのように瞬時に攻撃する、ということです。
これは先ほども言った通り、彼らにはかつて人間だった、魂を失った人間ではない何かを表現している面があるので、それを描こうとした結果です。特に、病院でのブラッド・ピットとのシーンはそこが強調されていると思います。
――ゾンビの大群が登場するシーンはどれも凄まじい映像に仕上がっていますが、本作で実現できなかった描写やアイデアはありますか?
マーク:ほとんどやりくしましたね。子供の頃、家の庭に蟻塚があって、そこから蟻の大群が蠢きながら登ってくるところをずっと眺めていたんです。本作のゾンビの大群は、その光景からインスピレーションを受けて作り上げました。
――監督が一番気に入っているシーンはどこでしょうか?
マーク:やはりイスラエルでのシーンですかね。ゾンビの大群が柱になる映像はすごく気に入っています。
――VFXの進化によって、本作の驚くべきシーンの数々は実現したわけですが、こういった技術を利用して今後作りたい描写や作品は浮かんでいますか?
マーク:現代の技術を使えば、自分の頭の中で思い浮かべたものが、ほぼ何でも映像化できます。まるで画家が頭の中の光景をキャンバスに描けるかのように、我々も本作の映像が作れました。これは本当に素晴らしいことです。
今後も色んな映像を作っていきたいと考えていますが、大前提として、何でも作れたとしても、キャラクターやストーリーと結びつかないものは魅力的ではありません。なので、題材あってこその映像を作りたいですね。
――本作では重たいドラマが展開されつつも、深刻な場面で悲惨かつ、ある種滑稽で笑ってしまうような事態が起きますが、そういった描写はユーモアとして入れ込んだのでしょうか?
マーク:こういったユーモアは自分は面白いと思いますし、息抜きのために重要だと感じているので入れました。嫌な言い方ですけど、悲惨であればあるほど笑ってしまうものですし、あとはこのキャラクターは生きるだろうなと思っていた人がいきなり死んだりすると面白いですよね(笑)。
――監督はこれまでにさまざまなジャンル、大小の予算の作品を作っていますが、本作において、作っていて特に楽しかった点、難しかった点はありますか?
マーク:本作で特筆すべきなのは、大きなスケール感の中で、一人の家族に焦点を当てて描けたこと。あとは先程も少し言いましたが、頭の中に思い描いたものを具現化して、映画史上まだ見たことがないような映像を作れたこと。それは本当に楽しかったです。
大変だったのは、何千人というエキストラが必要で、その何千人が混乱しているシーンを撮らなくてはいけなかったこと。何千人をまとめないといけない上に、理想の映像に近づけるために彼らを動す必要があったわけです。撮影中、明日目が覚めたら、2人組がお茶を飲んでるシーンの撮影に変わったらどれだけ楽か......と何度も思いました(笑)。
――(笑)。その様子ですと、スケールの大きい作品はしばらく遠慮したいと感じているかもしれませんが、今後も本作のような大規模な映画を作りたいという気持ちはありますか?
マーク:スケールの小さい作品も大きい作品も両方好きなので、両方作りたいですね。なので、スケールの大きい作品も必然的に作ることになるとは思います。
――最後に、監督が最も影響を受けた映画はなんでしょうか?
マーク:イングマール・ベルイマン監督の『野いちご』、フェデリコ・フェリーニの『フェリーニのアマルコルド』、『8 1/2』、黒澤明監督の『羅生門』、アンドレイ・タルコフスキーの『ノスタルジア』、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』などです。なかなか一つには絞れませんね。
監督も一番のお気に入りの、蟻からインスピレーションを受けた「ゾンビの柱」シーンを始め、ゾンビの大群が登場するシーンはどれも圧巻。大スクリーンで見るべき映像となっているので、是非劇場で体感してみてください。
『ワールド・ウォーZ』は、2013年8月TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー。
配給:東宝東和
(c) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
(スタナー松井)
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