ケンカをするのに適した拳の握り方ができるのは、人間だけなのだそうです。
人間の手というのは、進化の過程で完成した、とても美しい造形物と言えます。そしてそれぞれの手は、27個の骨によってバランス良く形づくられているんですって。
私達の手は全ての動物の中で1番器用で、ボートのオールを握るコトなんかお茶の子さいさいで、針の穴に糸を通す事だってできてしまいます。しかしながら、最近発表された発見では、私たちの手の平や指が今現在のカタチに進化したのは、もっと野蛮な理由からであった...と提案されたのです。
ソレは、生きているモノ同士が殴り合っていたからだ...とのコトですが、ホントなのでしょうか? 検証は以下へ続きます。どうぞ。
解剖学的な構造上、人間の手が生み出せる精密さと競えるその他の動物は、そう多くはないようです。
シッカリとして四角い手の平、(その他、ヒト上科の動物達と比較して)短い指、長く強く、柔軟性のある親指...という、これらを組み合わせると、ユニークなふたつの手となります。それがあってモノを掴んだり、指先で何かを操ったり、広げた手で物体を包んだり、器用な動作ができるようになるのです。
手だけで操作できる物事の多さが、何をもって私達を人間たるかを決めるコトになります。そして進化の過程で、手そのものが重要な役割を演じてきたと考えられます。
ですが「The Journal of Experimental Biology」(実験的生物学ジャーナル)の最新号では、調査にあたったマイケル・モーガン氏とデイヴィッド・キャリアー氏により、今私達が知っている手の形状が、別の要因によって今の形に進化の歴史をたどってきたのだ...と提言されました。
それは、我々のご先祖様たちの能力は...特に男性は白兵戦の間、彼ら自身の武器などを持つ能力として、手が進化してきたのだという話なんです。
たとえば将棋の駒を摘む手だって、バットを握る手のカタチだって、手の平を閉じるようにグリップしますよね。コレがチンパンジーでは指が長すぎるため、(底辺の先端がドアノブのように膨らんだ)棍棒をグリップする時に、腕まで使って持たせるコトはできないのだそうです。右は手の平を広げた図ですが、その形状を見比べてみてください。
拳を使ったボクシング・ファイトの有効性を検証するべく、モーガン氏とキャリアー氏はボクシングやマーシャル・アーツの経験者である男性たちに、実践的なテストに参加して貰うよう頼みました。
最初のテストは、力いっぱいパンチング・バッグを殴るもの。それも手の平を広げたパターンと、ギュっと拳を握りしめたパターンの2通りです。
驚いたコトに、調査にあたった2人は、拳のほうが(表面積が少ないために)一振りごとの全パワーを伝えきれていないことを突き止めました。拳がモノに当たる表面は、手の平全体に比べて1/3少ないエリアしかありません。
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これが意味するのは、もしも殴った時の全力が同じ強さであれば、拳がぶつかる部分の皮膚組織にかかるストレスは、手の平よりも1.7~3.0倍も大きいというコトになります。
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調査結果には別の言葉として、握った拳は攻撃相手に怪我をさせる潜在能力が劇的に高まる、と書かれています。おそらく手の平全体でダメージを分散させるより、ピンポイントで拳にダメージを与える部分を絞ったほうが、鋭い攻撃ができるというコトで良いかと思います。
追加のテストでは、親指とそれ以外の指との位置関係が外的プレッシャーを与えられた手にとって、重要な支持と保護をもたらすかを検証しました。被験者ははじめ拳を握り、人差し指の第一関節を機械に押し付けて、指関節の堅さを試しました。さらに、下図のような握り方を3通り、同様のプレッシャーを測ります。
これによってモーガン氏とキャリアー氏は、グーにして握った時の、手の平の中央に向かう指先が手に対しての支えになるということを発見しました。そして固く握った形が指から手首へと勢いを伝達すること、さらにはユルく握った時よりも、この形状が拳の堅さを4倍にするだけでなく、パンチ力の伝達を2倍に高めるということを見つけたのです。
人間以外のヒト上科は、このグーを握れません。ですが人間にとっては、自然に作れるカタチです。握り拳でのファイティング・スタイルは、世界中で実用的とされてきましたし、また攻撃を表すサインでもあります。子供ですら苦悩と不安を表すサインとして、握った拳を使うのです。
ほとんどの男性ヒト上科類は、異性を取り合う時により大きな前脚(つまり腕)を持っている方が、進化的に有利であったのです。今日の男性と女性に見る劇的に生理的な違いは、そこにあるのだとか。
男女の一般的に大きな違いは、手を含む上半身です。人差し指と薬指の長さの比率を見てみますと、たとえば哺乳類では男性のほうが、女性より薬指が長いのが一般的な特徴です。ふたりの研究者にとって性別の間での生理的な違いは、たびたび男性がほかの男性を支配する能力を発展させることも、素晴らしい特徴だとしています。
ふたりは同様のテストを、女性の被験者にも試して貰いました。そしてそれは、男女の手の違いという生理的な違いは、男性の祖先が拳による戦いで争いを解決してきたという理屈に、一筋の光明を与えるモノでした。
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人間の手の進化において、パラドックスが生じてしまいます。
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はて、その逆説とは何でしょうか? ふたりは最終的にこう結論付けました。
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それはおそらく、解剖学的に我々の最も重要な武器であり、争いを解決するべく脅迫する時に使用し、また打ちのめし殺すために使われたのです。とは言え、それは私たちの筋骨格であり、モノを造ったり繊細な道具を使ったり、楽器で音楽を奏でたりアートを生み出したり、複雑な考えや感情を表現したり、子供を育てたりします。
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その他どの身体のパーツよりも、手というのは人類を個性付けるのです。戦いの相手と殴り合うだけでなく、さまざまな役割をこなせる手こそが、人間にとって最も重要な進化だったのかもしれません。
調査にあたったふたりの発見は現在公開中で、無料で閲覧できるようになっています。このリポートは、「The Journal of Experimental Biology」で読むことができるようになっていますので、ご興味のある方はどうぞ。
Thinkstock/Getty Images
その他の写真:モーガン氏とキャリアー氏
Did fist fighting change the course of human evolution? [io9]
(岡本玄介)
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