創作は愛。
何もすることのない週末、コーヒーを飲みながらソファでウキウキウォッチング増刊号を見ているとふと考える。「そうだ、同人誌つくろう」。この記事はそんな人たちの一助になればと思って書いた同人誌制作のハウトゥでございます。
まぁ実際に思いつきで同人誌を作ろうと思うかどうかはさておき、「作ってみたいけどどうすればいいかわからない」的な潜在願望を持った人たちは少なくないはずです。イベント登録や原稿の作り方、印刷所への連絡などなど、やらなければならないことは色々とあります。もちろんお金もかかります、時間と体力ももってかれます。でも、楽しいんです。
そんなあと一歩踏み出せない未来の創作者たちの道しるべとでもいいますか、同人制作フローを紹介していこうと思います。なお、「同人誌」制作がメインなので、同人CD(いわゆるROM)やグッズなどは対象外ということであしからず。ぶっちゃけROMは僕もよくわかりません。本より原価安いとか聞きますがどうなんでしょ。
ともかく、まずは第一歩。同人誌を作る目的を見直してみましょう。
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どうして同人誌を作りたいのか
大前提として、同人誌は多くが二次創作と呼ばれる元ネタありきの創作物となります。好きなアニメや漫画のキャラをネタに自分のオリジナルストーリーが描きたい、といったものですね。オリジナルの同人誌もありますが、やはりメインは二次創作です。
先ほど言った、好きな作品のキャラを自分なりのストーリーで漫画にしたいというのは立派な動機です。むしろ完璧な動機です。これ以外にあるのかと思った若かりし頃もありましたが、人によってはお金のためや、絵描きとして知名度を上げるため、漫画家デビューへの修行としてなど、制作動機は多々あります。動機はなんでもいいっちゃいいんですが、コレははっきりさせた方が良いと僕は思っています。
元ネタを決めよう
動機が決まったら次は元ネタ探しです。が、そもそも動機が好きな作品うんぬんの場合は元ネタも既に決まってるはずです。漠然と同人誌出したいなー(よく耳にする言葉)という人は元ネタからインスピレーションを受ける事もあると思うので、ネタ探しも重要な要素になってきます。流行りのアニメに乗っかっても良いし、『プリキュア』を見てふと思いついた百合漫画をかたちにしてみてもいいですし。きっかけはなんだって良いんです。
元ネタが決まったらその作品について最低限は調べておきましょう。キャラの一人称が原作と違ってたりすると、駄目とはいいませんがよろしくもないです。『ギルティギア』のブリジットを女として描いて大変なことになった歴史もありますし、元ネタの作品についてキャラの見た目しか知らないというのは避けた方が無難です。
かといって、じゃあ『アイドルマスター』本を出したいなら、Xboxとアニメを全部制覇しなきゃいけないのか? といえば、そんなことはありません。自分が漫画を描くのに必要な要素(キャラごとの身長差や呼び方、世界観)などを理解できれば充分です。思い入れの差とでもいいましょうか、メンタリティなことですね。逆に、考えが影響されてしまうから元ネタは見ないという考え方もあったりします。
漫画のネタは決まってる?
そうこうしてるうちに自分の描きたいネタがモクモクと湧いてきたかと思います。同人誌を出そうにもネタがないという声もしばしば耳にしますが、そんなときは論理的に考えてみましょう。
- ギャグかシリアスかエロか
- メインキャラクターは誰か
- オチはどうするか
このあたりを見直すと効果的です。ギャグなら四コマも選択肢に入りますし、そうなるとあとは四コマネタをひたすら考えるだけです。シリアスなら妄想力を全開にしてグっとくるストーリーをこさえましょう。エロはリビドーとフェティッシュを隠したら負けです。
メインとなるキャラが決まっていると、イベント配置スペースの点でも有用です。また、あまり多くのキャラを出すと(東方キャラ全員とか)描いてても大変です、マジで。登場人物をしぼるとストーリーも考えやすいですよ。
そしてオチですが、ギャグ本ならここは特に時間をかけて考えましょう。最高にクールなオチを閃いたときはエンドルフィンが駄々漏れ状態です。こういうネタ計画期間って超絶楽しいので、どうしてもネタを思いついただけで満足するという事故が起こり得ません。本にしてこそ、です。
イベント(即売会)の計画を立てようor原稿作業
ネタもできていよいよ作るぞとなったら、まずはイベント参加の手続きを済ませましょう。関西ならインテックス大阪で開催されている「こみっく★トレジャー(コミトレ」、「Comic Communication(コミコミ)」などが、関東なら「サンシャインクリエイション(サンクリ)」「コミックシティ」、そして「コミックマーケット(コミケ)」などがあります。これらオールジャンルイベントに対して、特定の作品やジャンルのみを取り扱うオンリーイベントというものもあります。「博麗神社例大祭」などが有名ですが、ヘッドフォン娘オンリーイベントや、絶対領域オンリーイベントなどユニークなものも開催されています。
どのイベントに参加するのが良いというのは一概に言えませんが、自宅から近い方がやはり楽です。遠方のイベントに泊まりがけで行くのもアリですが、そういうのはゆくゆくでいいかなと。そして、イベント初参加でコミケというのもオススメしません。甲子園初出場でいきなりシードの強豪校にあたるようなものです。イベントの雰囲気や勝手をつかむためにも、まずはコミケ以外のイベントに顔を出してみましょう。
イベントへの申し込みの方法は、主にオンライン申し込みとチラシでの申し込みがあります。オンラインは公式サイトから、チラシはとらのあなやメロンブックスなどの同人誌を取り扱うお店に置いてあるチラシから参加を申し込む方法です。昔はチラシしか無かったのでしみじみです。
サークルカットを描こうぜ!
イベント申し込み時に必要となるのが、参加費用と「サークルカット」と呼ばれるもの。サークルカットとは、イベントが配布しているカタログに記載される、参加サークルの看板のようなもの。本に掲載されるのでご覧のように白黒でサイズも小さいです。サークルカットの描き方についてはそれだけで1つコンテンツできてしまうほど色々な考え方があるのですが、他サークルのカットを参考にしつつ自分なりに描くしかありません。イベントによってサークルカットのサイズや規定が異なるので、申し込み時によく確認しておきましょう。
番外編1:アナログとデジタルどっちがいいのさ
閑話休題。現在、漫画の描き方はアナログとデジタルの二つが存在します。アナログはGペンと原稿用紙とスクリーントーンを使った、いわゆる昔ながらの手法。デジタルはPhotoshopやコミックスタジオなどのソフトを使った制作手法です。機器の発達でデジタルが流行り出してるのは間違いではありませんが、それぞれ一長一短があります。これも1コンテンツ作れるくらい奥が深いのですが、オススメは両方試してみる事です。
アナログにはアナログの、デジタルにはデジタルの特徴と問題があるので、自分に見合った方法が一番です。また、線画は手書き→スキャンしてトーンとセリフはデジタル、というハイブリッドな手法もあります。デジタルだと入稿が楽ですし機器の発達で表現の幅も増してますが、そうなってくるとアナログの良さが目立ってくるのも事実です。みんなちがって、みんないい。
原稿作業突入
サークルカットを仕上げてお金を振り込み、申し込みが完了したら合否通知を待ちましょう。合否の割合はイベントによってまちまちですが、おおむねイベントの2ヶ月前には通知が届きます(コミケは6月ごろに合否通知、開催は8月)。イベント参加が確定したら、いよいよ原稿作業です。ちなみに今回はコピー誌ではなくオフセット本の制作を想定しています。
原稿作業は大きく分けてネーム、下書き、清書、ペン入れ、消しゴムかけ、仕上げの工程に分けられます。ここも人によって制作手法はさまざまなので深くはつっこみませんが、最低限の解説をば。
ネームはネタをざっくばらんに吐き出したもの。この段階でページ数、コマ割、キャラの大まかな構図を確定させておきます。これは原稿用紙でなくともメモ帳でもなんでも好きな紙に描いてOKです。原稿用紙に着手するのは次の下書きから。
下書きはネームをもとに原稿用紙にコマ割やキャラを書き込んでいく作業。もちろんコマは定規を使って正確に、ノンブルと呼ばれるページ番号も忘れずにふっておきます(これがないと印刷所が困ってしまいます)。ネーム段階であやふやだったところは下書きではっきりさせておきましょう。ちなみに、原稿用紙は漫画原稿用紙として売られているものならOKです。メーカーごとにインクのノリや描きやすさなど多少の差異はありますが、それは追々選ぶ事としましょう。
清書は下書きをもとに、より正確にキャラの表情や背景などを書き込む工程です。が、下書きと一緒に清書を済ませる事も多々あります。工程が1つ省けるというメリットがありますが、変更が面倒というデメリットがあります。コマ割や構図の変更があった際に下書きが綺麗すぎると、費やした時間がもったいなかった、という具合です。
そしてペン入れ。Gペンなどの付けペンを使って清書した線をなぞるわけですが、注意点をひとつ。基本的に、印刷物は白黒で絵を表現するので、鉛筆やボールペンでの入稿は避けましょう。これらは完全な黒ではなくグレーだったりするので、正しく印刷されない可能性があります。それを踏まえた上での入稿ならば問題ありませんが、鉛筆独特の雰囲気を狙うだとかそういった目的が無い限りは付けペン(コピックもなくはない)を使いましょう。使いにくくても慣れです。
ペン入れが終わったら消しゴムをかけて清書の鉛筆画を消しましょう。その後トーンやセリフを貼って原稿完成という流れになります。
これらの原稿作業をデジタルでこなす場合、それはもう色々なやり方があります。ネームや下書きもデジタル上で済ます時もありますし、絵柄によってはペン入れが不要なものもあったりします。ここは自分で調べるなり見つけるなりなんとかして下さいとしか言いようがありませんが、あえて注意点を言うならば解像度と拡張子。この二つには注意しておきましょう。後述の印刷所で詳しくお話します。
まぁ、原稿制作については各々のやり方で頑張ってください(投げやり)。あきらめない心ですよ!
表紙を作ろう
原稿用紙、すなわち本文が完成したら表紙を作りましょう。同人誌は表紙のクオリティで印象や売れ行きがかなり変わります。もちろん先に表紙を完成させてから本文を仕上げるというのもOKですし、個人的にはそっちの方がオススメします。理由は本文が完成した段階で締め切り二日前とかだと表紙にかけられる時間が余り無いからです。表紙は先出し、これ大事。
入稿しよう
表紙も本文も完成したら、まずはお疲れ様と自分を軽くいたわってやりましょう。いよいよ大詰め、印刷の工程です。同人誌を印刷してくれる印刷所に原稿やデータを渡して本にしてもらうわけですが、よく見かける表紙フルカラーの同人誌はオフセット印刷という印刷手法で制作されています。
まずは印刷所選びから。数え上げればキリがありませんが、僕の主観に基づく主な同人誌印刷屋は
- ねこのしっぽ
- 大陽出版
- オレンジ工房
- 株式会社 栄光
- サンライズ
このあたりの段ボールをイベントでよく見かけます。印刷所によって料金、対応している仕様、データ入稿の可否、そして納期などが異なります。自分にあった印刷所を見つけるのがベターですが、はじめは料金や納期で選ぶのが無難でしょう。32Pの表紙フルカラー本文一色50部で3〜4万円あたりです。ただし、データで原稿を制作した場合、データ入稿に対応した印刷所でなければなりませんので、これが第一条件になります。
そしてデータ入稿のもう一つの注意点はデータの規定です。解像度600~1200dpi、拡張子は「tif」もしくは「psd」、カラーモードはグレースケールで...などなど細かいデータ規定が印刷所により異なります。データ入稿を予定しているなら、原稿作業に入る前に印刷所を探しておいて、その印刷所の規定にそった原稿を作らなければなりません。印刷所によってはテンプレートのデータを配布しているので、それをダウンロードしておいてから作業に入るのが無難です。
番外編2:印刷とフォント
閑話休題パート2。同人誌は印刷物です。たかが30ページ前後の薄い欲望の権化ですが、同人活動を続けるなら印刷の知識も蓄えていくと何かと面白かったりします。例えばカラーモード。デジタルでカラーイラストを描くとき、モニターはRGBの光の三原色で映像を映しているのでソフト側(PhotoshopやSai)のカラーモードはRGBが基本です。しかし印刷物はCMYKの4色のインキでフルカラーを再現します。CMYKはRGBに比べ色再現度が低く、RGBで描かれたカラーイラストを再現することは(ほぼ)できません。
ありがちなのは、RGBモードで制作した表紙が本になってみるとやけにくすんでみえたといった事態。特に肌色はデリケートな色なのでこのカラーモードの違いで残念な肌になることも多々あります。本の表紙、というか印刷物のフルカラーを制作するときはカラーモードに注意しておきましょう。印刷所によっては自動補正してくれるところもありますが、やはり自分でコントロールしたいですよね。
もう一つはフォント。本文のフォントが決まってないのも同人誌の魅力ではあるのですが、ここも適当に選んだMSゴシックなどを使うより色々なフォントを試してみるのをオススメします。特に吹き出し内セリフのフォントは作風に大きく影響します。ベタなギャグ本の明朝体になるとやたらとスタイリッシュになってしまったりです。コミックW4-IPAという漫画フォントを模したものもあるので、参考にしてみてください。
イベント当日、さぁ楽しもう!
ほとんどの印刷所はイベントの一週間前前後が締め切りです。なので入稿して一週間もすればイベント日。本の刷り上がりを楽しみにしつつイベントへとはせ参じましょう。
イベントに必要な持ち物は色々とありますが、リストアップするとこんな感じです。
- サークル参加証
- お釣り用100円玉
- イベントのカタログ(あれば)
- テーブルクロス、敷物
- ガムテープ
- ポスター、スケブ、色紙等
特にサークル参加証、これだけは10回でも12回でもチェックしておきましょう。お釣りの100円は電車代や昼食代を崩して確保。イベントカタログはサークル参加の場合必須ではありません(一般は必須)。敷物はイベント会場で自分のスペースに敷く布。これは必須ではありませんが、あったほうが何かと見栄えが良いです。ガムテープは敷物の固定や帰りの段ボール宅配時など、何かと使えます。ポスター等は適宜ですね。
イベントのサークル入場時間をチェックしたら、遅刻しないように会場に着くようにしましょう。1時間くらい時間が余る計算で丁度良いくらいです、準備とかしてたらあっという間に過ぎてしまいますから。スペースに着いたら左右のサークルさんに挨拶するとカルマが上がります。半日も隣にいるわけですからね。
イベント終了後は打ち上げにいくなりとらのあな等に繰り出すなり好きにしましょう。お疲れ様でした!
各工程を掘り下げるとキリが無いのですが、概ねこのような流れです。実際の原稿期間は1~3ヶ月が一般的だと思います。もちろんページ数によって前後するのでこの限りではありませんが、下書き、ペン入れの作業がどの程度かかるかがキモになります。人によっては原稿だけとりあえず作っておいて好きなタイミングでイベントに参加するという人もいますが、ここもよりけりです。
同人誌も奥が深く、箔押しや表2印刷などの特殊加工に手を出しはじめるともはや薄い本とは呼びにくい豪華さを演出できたりもします。そういった、自分なりのこれやってみたいなーを誰に憚られることなく実践できる場として、同人活動というのはとても良い遊び場です。創りだすという行為は本当に素晴らしいものなので、興味があったらまずは足を踏み入れてみましょう。
また、今回はオフセット本の制作フローを紹介しましたが、初めての場合はコピー本でイベントに参加してもOKです。金銭的にも時間的にも軽く済むので、サークル参加の空気感を知りたいのならこちらの方がお手頃。僕も初めての時は8ページの東方イラスト集コピー本でした。あゝ素晴らしき黒歴史。
そして、全ての動力源は愛です。作品に対する愛、キャラに対する愛。それらが同人誌というかたちで具現化したに過ぎません。情熱と愛を絶やさず、良き同人ライフをエンジョイしましょう!
(ヤマダユウス型)
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