ドラドラキュッキュ、ドラドラ〜♪
海外でゾンビと並んで人々に愛され続けるモンスターが、吸血鬼。公開中の映画『リンカーン/秘密の書』しかり、ヴァンパイアネタは古く中世から現代まで、さまざまなフィクション作品のテーマとして取り上げられてきました。
...ん? フィクション?
先日米国で発売された書籍『ヴァンパイア・コンバット・マニュアル』。吸血鬼は実在する! という立場のもと、吸血鬼とはどのような生き物か、また彼らと戦うハメになったときどうすれば良いかをマジメに指南するマニュアルです。
本日は同書から、吸血鬼に関する人間の知識がどれほど間違っているかを示す、ありがちな7つの誤解とその事実についての部分をご紹介します。
人が考える吸血鬼とはまた別のモンスターの姿が見えてくる、その詳細は以下で。
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誤解その1:吸血鬼は神聖な力に弱い
吸血鬼に関する間違った知識のトップがこれ。ここを誤解したことが原因で彼らの犠牲となった者の数は最も多い。
確かに暗闇のなかだけで行動し、陽の光に弱く、他の生き物の血をすすって生きる生き物は普通に考えていかにも悪魔(地上に災厄をもたらすために地下世界からやってきた者)のようだし、それなら何か神聖な力や宗教的な力で退治できると考えても無理はない。ところが、それが事実とまったく異なるのである。
数多くの吸血鬼研究において、ホモ・サピエンスから吸血鬼族の一員になること自体に宗教的な要素はなく、特定の宗教や神への信仰とは一切関係ないことが示されている。そのため、吸血鬼への対抗手段として宗教関連のアイテムに頼ろうとすると、いざというときに非常に困った事態になるはずだ。実際、これらの手段を試して悲惨な目に遭った者のエピソードは枚挙に暇がない。まさにその1例をここにご紹介しよう。
我々の小さな村から女1人と幼い子ども2人がいなくなった。警察は乞食や山賊のしわざだと言ったが、村の者にはみなわかっていた。さらに2人が行方知れずになり、私と友人のエデュアルドはこの忌まわしき事態を終わらせようと立ち上がった。
彼と私は村で最も屈強な男で、日中、町や近くの谷間の探索にひと月近い時間を費やした。そして何週間もの探索の末、ついに人里離れた丘にある、たくさんの洞窟のひとつに奴の隠れ家を発見した。
村の神父に清めてもらった聖水の瓶と、大きな木の十字架2本で武装し、我々は日暮れの数時間前に魔物の棲家へと向かった。中に入ると、奥には奴が寝床にしている大きくて頑丈な木箱があった。私がその蓋を開け、エデュアルドが瓶を開けて魔物の顔に聖水を振りかけた。しかし、我々が望んだような効果は現れなかった。
魔物は木箱から起き上がり、顔の聖水を拭うと、聖水の瓶をエデュアルドの頭で叩き割った。ガラスが額に砕け散り、頭から血を流しながらエデュアルドは驚きと恐怖に凍りついた顔で私に振り返った。
私は魔物がたじろいでくれるよう願いながら、十字架を奴の顔の正面に掲げた。奴はひどい笑い声を上げて十字架を取り上げると、それを2つにへし折った。そして折れた十字架の裂けた側でエデュアルドの肩を突き刺したのだ。
エデュアルドは痛みに叫び声を上げ、私は恐ろしさのあまりほとんど動けなかった。エデュアルドが捕まり、私は魔物が自分の方に向かってくる前に一目散に逃げ出した。村に帰るとくたくたに疲れて、自分のベッドに倒れ込んだのだ。
翌朝目が覚めると、前の日のことはまるで想像の出来事のように思えた。とその時、家の扉の前で音がした。くぐもった苦しげなうめき声。まるで傷ついた動物が出すような声だ。扉を開けると、大きな麻袋が入り口に置かれていた。
私はそれを家の中に引きずり入れ、注意深く開けてみた。中にいたのはエデュアルドだ。彼はもう人ではなく、手足の関節もすべてへし折られていた。エデュアルドは私の目を見て、新しく動物の牙の生えたその口で何度も何度もこう言った。
「Matar a mí, por favor. Matar a mí. (お願いだから殺してくれ。殺してくれ。)」
私は袋を庭に持って行き、陽の光で彼を灰にした。そしてその日の太陽が沈む前に、家族を連れて村を出た。
フランシスコ・バエザ、スペイン
宗教的な物が吸血鬼に対して効力があるか否かに答えを出すべく、IUCS(※)の研究者がある実験を行った。これは実際に吸血鬼族の一人を実験対象とした、数少ない研究結果の一つである(実験対象をどのように獲得したかは未だ極秘とされている)。計画名は「プロジェクト・ディエティ」(ディエティとは特定の宗教に限定されない神のこと)。
実験ではユダヤ教、イスラム教、仏教、キリスト教を含むあらゆる宗教宗派を代表する聖職者を招き、お守りや護符など彼らが助けになると信じる物は種類を問わず持参させた上で、吸血鬼に対面してもらった。
時間制限はなく、唯一のルールは対面相手に物理的に接触してはならないというものだった。実験の結果は研究者の言葉を借りて言うと、「悲劇的」だったという。聖職者たちは持ってきた神聖な道具のどれをもってしても、実験対象にネガティブな反応を引き起こすことができなかった。
それだけではない。実験対象との熱心な対話の結果、2人の聖職者が自らの信仰を捨てることを決め、また別の聖職者は実験対象を逃がすために自分の血を飲んでくれるようにと体を差し出し、その結果、力を得た実験対象は監視員を制圧して研究施設を脱出してしまった。
(※)本書で説明されるバイオリサーチ施設
誤解その2:吸血鬼は変幻自在である
大衆文化での吸血鬼の描き方の影響で広まったもう一つの誤解に、吸血鬼は物理的に肉体を変化させて別の夜行性動物(狼、ネズミ、そして最も多いのがコウモリ)に化けることができるというものがある。また、吸血鬼が霧や煙など、空気中の浮遊物に変化できると信じる者もいる。そのどちらも事実ではない。
もしこれが本当なら、吸血鬼は身の危険が迫った瞬間に何かに変化して逃げてしまえばよいはずだ。後に彼らの生体構造についての章でも述べるが、吸血鬼は優れた身体機能を持っていても、結局は人間的な肉体に縛られている。この制限こそが彼らの最大の弱点であり、吸血鬼の脅威に我々が打ち勝つための重要な要素なのだ。
吸血鬼は他の哺乳類型の動物に変身することも、霧に変化することもできない。ただし、下位の動物の行動を操る能力は持つようで、それが他の生物に変身するという噂の元になったのかもしれない。
誤解その3:吸血鬼は空を飛べる
吸血鬼とよく結びつけて語られる夜行性の飛翔動物のように、吸血鬼もまた空を飛べるという説がある。しかし伝説とは裏腹に、人間が吸血鬼へと変化する際に飛行、滑空、浮遊や、クモのように壁を這い登ることが可能になるような身体構造的変化は起こらない。
このような話が信じられるようになったのは、吸血鬼が高い位置から飛び降りて攻撃をしかけたり、人間では移動が難しい建物の間や障害物の上を、その高い運動能力で飛び越えたりするのを見た人が、飛んでいると勘違いしたためだと思われる。
とにかく誰が何を見て何を聞いたとしても、吸血鬼は空を飛ぶことはできない。飛ぶのに役立ちそうな衣類を身にまとっていても、だ。
誤解その4:吸血鬼は好色である
吸血鬼が超自然的な存在だという考えの次に広く蔓延しているのが、吸血鬼は非常に好色で人間との性交が可能であり、それを欲しているという誤解だ。
吸血鬼の描写には魅惑的、セクシー、エロティックなどの形容詞がついてまわる。吸血鬼をいやらしい悪魔として描いた話は彼ら種族の誕生の頃からあるが、それにはもっともな理由があるのだ。
吸血鬼たちはこの説をあらゆる種類のメディアが好き勝手に広めてくれるよう、自らの手で周到に仕組んできた。好色説は広く受け入れられ、今や吸血鬼に襲われたいと願う人間までたくさん現れるようになった......それこそ彼らの思惑通りである。しかし事実はまったく違うのだ。
人間が他の人間と性交渉を持つ理由は2つある。快楽か繁殖のどちらかだ。これら2点を吸血鬼の場合に照らして考えてみよう。
まず快楽について、吸血鬼が獲物である人間との性交で肉体的満足を得ることはない。実は吸血鬼の生殖器は人間だった頃と同じようには機能しないという噂もあるが、これを裏付ける正式な調査結果はまだない。また繁殖については、吸血鬼も仲間を増やす行為を行うものの、それには人間とまったく異なる方法が用いられる(誤解その5を参照)。
では獲物を追い、狩ることにあれほど高い能力を持つ吸血鬼族が、なぜわざわざそんな情報を大々的に広める必要があったのか、疑問に思うだろう。確かに吸血鬼の能力をもってすれば獲物を捕まえることはさほど難しくない。が、食事が必要となるたびにケガをする危険が少なからず生じる。最もシンプルな解決策は、吸血鬼と親しい仲になれるという嘘の情報を信じて、まったく抵抗せずにその身を捧げてくれる人間を手に入れることだ。
本書で後に触れるが、吸血鬼のある部族はこの手法を最大限に活用してきた。敵対せず、争わず、シンプルで効率的な食事。情熱的で艶かしい吸血鬼の伝説を信じて、多くの人間が彼らの手に落ちた。しかし人間への興味に関して言えば、吸血鬼も人間が食べ物を見ておいしそうだと感じる以上の魅力は感じないのだ。
誤解その5:吸血鬼に噛まれたら必ず感染する
先の項で述べたように、吸血鬼の繁殖方法は人間のそれとはまったく異なる。彼らは噛みつき行為による直接接触で仲間を増やすのだ。その結果、一度人間が吸血鬼に噛まれたら必ず感染し、彼らの仲間になってしまうと信じられるようになった。ほかの種類のアンデッド族ではその場合もあるが、吸血鬼はそうではない。
感染プロセスに関する誤解が生まれたのは、吸血鬼への変化を促す物質そのものについての誤った解釈が主な原因だ。以前、人間を吸血鬼へと変化させる生体物質は病原菌やレトロウイルスのように作用し、唾液を通して物質の保持者から被感染者に感染すると考えられていた。
しかし実際のところ、プロセスは無脊椎動物の類であるウズムシ類やネジレバネ目の虫、やはり吸血によって生きるトコジラミなどの繁殖行動と類似している。これらの生物は一方がもう一方の腹部に傷をつけ、傷の中に射精する「外傷性受精」という方法で交尾を行う。興味深いことにこれら生物の交尾はメスとオスの間に限らず、また必ず同種族間で行われるのでもない。吸血鬼の繁殖方法によく似ている。
この外傷的受精に似た方法により、吸血鬼は人間を吸血鬼へと変える物質を相手に意図的に注入することができる。具体的な化学変化は明らかになっていないが、この物質は吸血時に被害者の血中に入り込み、身体的変化を起こすと考えられている。
吸血鬼が繁殖を行うかどうかの決定は、完全に意志によるものである。つまり誰を同じ種族の一員にするかはその吸血鬼が決定するのであり、犠牲者の大多数は選ばれずに終わる。吸血鬼がどのような条件で決定を行うかは、現時点では不明である。選択対象の人間が持つ身体的特徴や性格、特定のスキルなどが関係しているかもしれない。
もし吸血鬼に咬まれた人が読者のなかにいたら、必ずしもアンデッドの一員になるわけではないので安心してほしい。
誤解その6:吸血鬼に人間は勝てない
吸血鬼に関するもう一つのよくある誤解は、吸血鬼と戦って勝つことは不可能で、どんな防御手段も無駄だ、というものである。これはまさに吸血鬼が人間にそう信じてほしいと願っていることだ。これだけ長く恐ろしい歴史(事実に基づくかどうかはさておき)を持つ生き物なら、普通の人間の攻撃などまったく歯が立たないと考えられても不思議はない。
吸血鬼があらゆる要素の生理的強度を誇る強靭な身体組織を持つのは事実。人間相手に使われる従来の戦闘手段は吸血鬼には使えず、もし使ったとしても敗北は目に見えている。しかし、吸血鬼にも重大な弱点が存在する。そこを攻撃できれば、吸血鬼との戦いに生き残るチャンスが生まれるだけでなく、充分な知識とトレーニングによって、そのチャンスをほぼ確実なものにできる。必要な知識は本書の続きにある。あとは読者のトレーニング次第だ。
誤解その7:吸血鬼はアンデッドでいるのが好き
「昼は寝て、夜はパーティー。年はとらない。死ぬこともない」。80年代の人気映画の宣伝コピーには、人間がアンデッドのライフスタイルに描く理想が集約されている。このコピーに書かれていることはほぼ正確だと思っていいが、それでは吸血鬼になって困ることがあるだろうか?
実は、大ありなのだ。人間から見れば彼ら吸血鬼族の暮らしは魅力的に思えるかもしれないが、現実は甘くない。吸血鬼の中には新しい生き物に生まれ変われたことを心底喜び、ほかの人間も仲間にしようと熱心に活動する者も一部いる。が、人間から吸血鬼になった者の大多数はアンデッドとしての新しい暮らしに大きな苦痛を感じ、絶望する。
家族とはもう会えず、常に血に飢え、太陽の光を浴びることもない彼らは、現実的にも比喩的にも暗い生き物でいるしかないのだ。毎年、全世界の吸血鬼の20%以上が紫外線を浴びるなどして自らを消滅させる道を選ぶ。噛みつきによる繁殖を継続的に行い、人間と同じ死因で死ぬことのない彼らの全体数が何百年に渡りほぼ一定しているのは、そのためである。
『バンパイア・コンバット・マニュアル』(ロジャー・マー著)
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以上、7つの誤解でした...って上の部分では肝心な「吸血鬼とどう戦えばいいのか」には触れていないので、誤解は解けても吸血鬼に襲われたらやっぱり困りそうです。
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(さんみやゆうな)
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