ほとんどのゾンビものでは、伝染病に感染すると感情や魂を持たないモンスターであるゾンビとなり、人間の肉を貪る設定に描かれています。かつての母親でも父親でも、兄弟でも姉妹でも恋人でもそこに変わりはありません。皆、一様に退治しなくてはならないモンスターになってしまいます。
しかし、最新のゾンビ映画『Warm Bodies』では、その昔ながらの設定が覆されます。ゾンビが恋に落ちるのです。感情を持ち、考える能力も持ちます。そこで、私たちは疑問を持つわけです。
「ゾンビは見かけたら躊躇せずに殺さなくてはいけない、絶望的なロボットなんだろうか?」また、「ゾンビには意識があるのだろうか? 」と。
そこで今回は、この疑問を真面目に考えていきたいと思います。詳細を以下からどうぞ。
WARM BODIES - Trailer(YouTube)
「ゾンビは意識を持った存在なのでしょうか?」
不可能では無いでしょう。彼らは単なる病人みたいなものなんです。ハーバード大学医学部の精神医学助教授であり、『The Zombie Autopsies(ゾンビの検死解剖)』の著者であるスティーブン・シュロッツマン氏は、「ある種の病気に冒されている誰かが意識を持っていないと断言することは出来ない」と主張しています。シュロッツマン氏の見解では、「ゾンビはワニのようなもの」だそうです。彼らは人間とは異なる意識の持ち方をしているけれど、周囲を認識しており、環境に対応します。
また、意識の哲学的観点から見ると、もしゾンビが「クオリア」、つまり心的生活のうち内観によって知られうる現象的側面(wikipediaより抜粋)を認識することが出来るのであれば、意識があるに違いないのです。
「ダメージは彼らの行動を変化させますが、もしも生肉の、つまり人間の匂いを嗅ぐ事が出来たり、また視角として捕らえる事が出来るのであれば、そして、色もしくは別の何かで区別出来ているのなら、彼らは意識があるのだと主張出来るでしょう。ただ、それは私たちの意識とは違う制限された意識ということなのです。」と、ゾンビと意識に関する学際的ワークショップを行っている、スタンフォード大学のCenter For Explanation of Consciousnessでエグゼクティブディレクターを勤めるポール・スココウスキー氏は発言しています。
「ゾンビに意識があるということを実際に確認することが出来るのでしょうか?」
ゾンビに高いレベルで物事を考える事が出来るかは、動物に意識があるかどうかを調べる実験と同じ方法で判断することが出来るかもしれません。
「人間の脳のどの部分が意識に必要不可欠なのかということを立証し、それをゾンビが完璧な状態で維持しているのかを調べる事で証明出来るでしょう。」と言うのは、サセックス大学のSackler Centre for Consciousness Scienceのダニエル・ボー科学者。「ゾンビをMRIに入れる事が出来ればの話ですけどね...。」
例えばの話、もしもゾンビが視床を持っていなければ、科学者は彼らが意識を持たないということに同意するでしょう。しかし、万が一ゾンビの脳の領域間に複雑な相互作用があれば、それは高いレベルの意識があることを意味します。
ただ、ゾンビをMRIに入れることは容易ではありません。そこで、もうひとつの動物の意識を計る方法である、「鏡を覗き込ませる」という手法を提案することが出来ます。この実験で、ほとんどの霊長類、イルカ、ゾウ、カササギでさえ鏡に映った自分の姿を認識するということが判明しています。「もしゾンビが鏡の中の自分を認識出来たら、私たちはゾンビには意識があると想定しなくてはなりません」とボー氏。
また、ゾンビに自身の認知行動を把握出来る能力の「メタ認知能力」があるかどうかのテストをすることも出来るでしょう。高度な意識をテストする時、科学者は動物に一定のドットの中から少し大きいものを選ばせる、また見せられたドットと同じ物を選ぶというような知覚的なタスクを課します。これと同じことをゾンビにもテストすれば良いのです。類人猿、サルと、ネズミでさえ自分の正確性を追う事が出来ます。もし、ゾンビにも同じ事が出来たら、それは意識があるということになるでしょう。
「『Warm Bodies』では、ゾンビが人間性を取り戻すが、それは可能なのだろうか?」
大抵のゾンビは喋る事はおろか、通常の機能も失い本能の赴くまま行動するようになってしまいます。しかし、徐々にではありますが、脳は自分で癒すことが出来るという証拠があります。シュロッツマン氏曰く、脳はニューロンを通して潜在的に再生させることができるそうなのです。植物状態の人間の脳深部に刺激を与えると、何も出来なかったのが、喋って自分で食べる事が出来るようになるケースがありました。頭蓋骨に埋め込まれた電極は、視床のような脳部を刺激し、ニューロンが繰り返し情報を伝達するのです。
「ゾンビにとって、脳深部の刺激は脳の機能を再スタートさせるきっかけになり、幹細胞のリハビリテーションを容易にしてくれるでしょう。」と言うシュロッツマン氏。脳が以前と同じように働くように訓練するように出来るようなのです。脳の1部の機能を失ってしまった人が、時として、脳の別の部分を使って同じ機能を実行させることもあります。
といっても、ゾンビがかつての人間に戻るかどうかは別の話です。意識は自我に関係します。もし、脳が劣化すれば、自我の感覚は失われることがあるでしょう。脳のパーツが再生したからといって、かつての記憶まで持ったままかというのは議論の余地があることなのです。
トップ画像:Daily Dead
[via Popular Science via io9]
(中川真知子)
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