// 週刊金融日記
// 2012年9月30日 第25号
// なぜちんこはああいう形をしているのか?
// 日米欧の金融緩和が息切れ
// 汐留の天空の城の中華
// 英語超勉強法
// 他


 こんにちは。藤沢数希です。
 せっかくの秋なんですが、いきなりゲリラ豪雨が来たり、台風が来たりと、あんまりいいお天気を楽しめませんね。ゲリラ豪雨とかって、昔はこんなになかったと思うのですが、やはり世界的に異常気象が増えて来ているのですかね。
 それにしても秋はサンマの塩焼きが美味しいです。はっきり言って、ウン万円の高級レストランのディナーより500円ぐらいで作れるサンマの塩焼き定食の方が、美味しいし、健康にもいいです。だから高級レストランなんてカネの無駄だ、とはいいません。高級レストランって、一種のエンターテイメントなんですよ。アートといってもいいかもしれません。そしてエンターテイメントとしてはそんなに高くないし、じつに楽しいのです。
 さて、今週の人生相談コーナーは、おそらく週刊金融日記史上、もっとも濃い内容になったと思います。


1.なぜちんこはああいう形をしているのか?

今週は読者の方から以下のような質問を頂きました。
これは人生相談と言うよりも、多分に科学的な話で、恋愛工学をより深く理解するためにも重要なポイントをいくつか含んでいます。
よって、今週のテーマ論文として取り扱うことにしました。

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藤沢師匠、お久しぶりです。
週刊金融日記13号の大トリに採用していただいた、風俗大好き20代半ばの大手金融マンです。
お礼の返信が遅くなってしまい申し訳ありません。
「風俗」と「恋愛」。
金玉のように日々悶々と揺れ動いていた私の悩みが、藤沢師匠の大変丁寧で筋の通った手解きで、スッキリすることができました。
その後も、サラリーマンのつまらないルーチンワークをこなしながら、毎週送られてくる、師匠のメルマガに叱咤激励されております。
特に17号メルマガで師匠に提示していただいた

 女の価値 = 女の時価総額 ÷ 同時にセックスしている(かもしれない)男の数

という数式には感動しました。
学生時代、さまざまな数式に出会いましたが、数式を見てここまで感動したのは生まれて初めてでした。

今回、新たに疑問に思うことがありましたので、久しぶりに質問させていただきます。
世界トップクラスの高テストステロン値集団である、私たち週刊金融日記読者メンズ群が週7回、もしくはそれ以上行っている大切な大切なルーチンワーク。
我々生きとし生けるものと未来の子供たちの終わりの始まり、始まりの終わり。
「射精」です。
すべての男が、必ず感じていることだと思いますが、なぜ射精すると、あんなにも疲れるのでしょうか?
射精とは、読んで字のごとく、精子を発射するということですが、なんと申し上げましょうか、何億という聖なる子供の種を体から放出したことで、自分自身の細胞が減ってしまったかのような、はたまた、上記数式における価値の高い女と悪戯を楽しんだことへの神からの戒めかのような、射精後は、心も体も金玉もシワシワに垂れ下がってしまいます。
SEXすると疲れる、というよりは、射精すると疲れる感覚だと思います。
そこで毎週2桁は射精をしているであろう藤沢師匠に質問です。
なぜ、射精するとあんなにも疲れるのでしょうか?
精子は、どんな成分でできているのですか?
何回、何十回も射精した次の日に、元気に仕事に行くには、どんな栄養素を摂取したら回復しますか?
性欲が毎日ムンムンでも、射精するのは週1,2回とかに我慢した方が体にはやさしいのでしょうか?
むしろ体に悪いのでしょうか?
ぜひ藤沢教授の見解を聞かせてください。
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あなたのふだんの何気ないオナニーから、人間の果てしなく深い「業」について、あと一歩のところまで迫っています。
すばらしい観察力だと思います。
まずはじめに、射精によって疲れるのは、それが激しい運動だからでも、多くのタンパク質を放出してしまうからでもありません。
運動自体は大したものではありませんし、放出される体液の量も、まったくの微量です。
じつは、この問題を考えるのに、まずは人間の男のちんこはそもそもなぜあのような形をしているのか、ということを理解する必要があります。
あの棒状の海綿体の先端に、キノコ型の、イカリの反しのような形をした亀頭部がなぜあるのかということに思いを馳せたことはありますでしょうか?
僕はあります。
僕は、空はなぜ青いのか、ということを物理学を勉強して理解できたのは高校生の時でしたが、人間の男のちんこの形の必然性をはじめて知ったのは、僕が大学で生物学や進化論、動物行動学の研究に没頭していた時のことでした。

まずはチンパンジーの話からはじめましょう。
チンパンジーというのは人間にもっとも近い霊長類で、乱婚的な社会を形成していることが特徴です。
要するに、チンパンジーの社会では頻繁に乱交パーティーをやっているのです。
発情期に入ったメスのチンパンジーに、次々とオスが交尾していきます。
この時に、地位の高いオスは、好きな時にいつでもメスのチンパンジーとセックスできるのですが、下っ端のチンパンジーは、順番がなかなか回ってきません。
まあ、大企業の下っ端の男子サラリーマン諸氏は、そういうチンパンジーの気持ちが少しは分かるかもしれませんね。
また、企業で働いていれば分かると思いますが、男が出世競争にかける情熱というのは、経済合理性を超えていると思えることがよくあるのですが、こういうチンパンジー社会のような背景があるかもしれません。

さて、現代社会では、男は年収などを武器にして、女を獲得する競争をしていますが、このような乱交がふつうの社会ではどのような競争が起きると思いますか?
ひとつ目は、当然、乱交パーティーでの優先順位を巡る競争ですよね。
俺が最初にファックするとか、俺が最初に上玉をファックするとか、そういう順番です。
こうして猿山では日々権力闘争が繰り広げられているわけです。
下っ端の猿も大変ですが、政治バランスが崩れると、ボス猿が下位の猿に集団リンチされて殺されちゃったりすることもあります。
サラリーマンも大変ですが、猿の世界も大変なのですよ。

さて、重要なのはふたつ目の競争です。
乱交をするので、現代の人間社会のようにセックスが全くできないオスは、それほど多くないわけです。
つまり、メスを巡る主戦場は、女性の膣内になるわけなんです。
進化というのは、たまたま子を多く残せる性質を獲得した遺伝子が、種全体の遺伝子プールのなかで増殖していくというプロセスですから、この膣内でのいわゆる精子競争で勝ち残るオスの性質が増えていくわけです。
つまり、膣内に他のオスの精液がある場合に、自分の精子の受精確率を少しでも高めるにはどうしたらいいか、ということです。
単純に考えれば、その確率は次の式で表されるはずです。

 自分の精子の勝率 = 膣内の自分の精子量 ÷ 膣内の全ての精子量

つまり、乱婚的な社会の男の競争というのは、女の膣の中にどれだけたくさん精液を入れておくか、という競争になるわけです。
ここまで言えば、なぜちんこがああいう形をしているか分かりましたね。
そしてピストン運動の理由も分かったと思います。
つまりあのキノコ型の亀頭部は、他の男の精液を女の膣の中から掻き出すための合理的な形になっているのです。
そしてピストン運動というのは、まさに他の男の精液をあの亀頭部の反しを使って掻き出す行為に他ならないのです。

現代の人間社会では乱交はそれほど一般的ではありませんが、やはり数百万年の進化の中で、そういうコミュニティーができたり、そういう時期があったのでしょう。
また、乱交とまでは行かなくても、女が短期間の間に浮気をすれば、やはり膣内で複数の男の精子が混ざってしまいます。
たまに双子で、父親がそれぞれ別というケースがあって、世界仰天ニュースなどで報道されることがありますね(笑)。

じつは、こういう「精子戦争」はイギリスのロビン・ベイカーという生物学者のパイオニア的な研究によって明らかになったのですが、単なる精子量以上の非常に巧妙なバトルが繰り広げられているのです。
人間の精子をよく観察すると、まったく遺伝情報を持たないのに、尻尾がコイル状に曲がっていたり、胴体が曲がっていたり、デカ頭や複数の頭を持っていたりと、子宮頚部に留まりやすい構造をしている精子がいます。
これらの受精能力のない精子は、最後は尻尾同士を絡め合ったりしてバリケードのようなものを子宮頚部で作ったりします。
こうしたバリケートで他の男の精子の侵入をブロックしようとしているのです。
また、キラー精子と呼ばれる精子は、鋭い頭を持っており、自分と異なる遺伝情報を持っている精子の頭の横の弱い部分を狙って、毒素を注入して殺してしまいます。
まさにカミカゼ精子ですね。
そしてエッグ・ゲッターと呼ばれる、運動能力の高いほんの一握りエリート精子が、こういった自らを犠牲にして戦うカミカゼ精子に先駆けて、女の子宮内にいち早く侵入することを目指すのです。
まさに戦争そのものです。

さて、最初の質問に戻りましょう。
なぜ、男は射精すると疲れて、二発目のやる気が一時的に消失するのか?
それはこういった精子戦争に打ち勝つための全ての仕組みに関係しています。
もし、立て続けに二回中出しすると、まさに上記のような精子戦争を自軍同士で展開してしまうことになるのです。
だから、一回女の膣の中に自軍の兵隊を送り込んだら、しばらくは休憩する必要があるわけです。
射精すると疲れるのは、こういったインターバルを自然と作り出すための非常に合理的な設計なのです。

参考資料
Robin Baker, "Sperm Wars: The Science of Sex," Basic Books, 1997.