IUDの処置をしてくれた藤村さんから電話がきた。
伊東さんに内緒で、会ってくれないかという。
「一度だけでいい。お願いです」
と、電話口で切ない声を出した産婦人科医とリーガロイヤルホテル早稲田で会った。
早稲田のホテルでセックスした藤村さんは、私の膣に指を入れては唸った。
「私は、何万人もの女性を内診してきたけれど、こんな膣は初めて触れた。IUDを挿入した日の内診で、医療用グローブ越しにもわかったんだが。これは凄い」
藤村さんはしみじみ言った。
私はIUDを挿入する前にペッサリーを使う場合に備えて、子宮口の大きさを測ってもらった。ペッサリーは、セックスの前に自分で膣の奥に挿入し、子宮口を塞ぎ、精子の進入を防ぐゴム製の避妊具だ。射精後十時間程度経過してから取り出すと聞いて、これは実用的ではないと思ったが、欧米ではよく使われているという。
私はIUDを挿入する時の痛さに苦しんでいたというのに、藤村先生はエッチなことを考えていたらしい。
「お医者さんて、たくさん女遊びなさるんでしょう?」
「ガンガン女抱いて酒飲むなんて、渡辺淳一みたいな医者はそんなにいないよ。彼は作家だからね」
藤村さんは渡辺淳一と同じ1930年代生まれだという。小学生の頃は日中戦争中で、貿易が自由化されていなかった。バナナは遠い南の国の高価な果物だから、母親にねだっても、バナナは高いから駄目よと言われ、たまに買ってくれても一房ではなく二、三本という世代である。
五十代の人としっくりいくのは、初めて付き合った徹さんが四十代だったせいもあるだろう。藤村さんは私より三十歳以上年上になるのだが、男女としての付き合いに違和感はなかった。
「花菜ちゃんは、膣壁のコラーゲンが厚いんじゃないかな。私は膣の構造の研究をしているんだけど、膣壁に含まれるコラーゲンの厚みがある女性の方がオーガズムに達しやすいのではないかと言われているんだよ。どの程度の厚さで、なぜオーガズムの差につながるのかは、まだ、解明されていないんだけど。学術論文が発表されたら、将来的には膣にコラーゲンを注入する手術も行われるようになると思う。術後の効果を検証するデータが揃うまでには、かなりの年月がかかるだろうけどね」
「膣にもコラーゲンが含まれているんですか。私は子供の頃からコラーゲンが多い食品をよく食べさせられていたんです。最近は伊東さんが村上スッポン本舗の缶入りすっぽんスープを送ってくれるんですよ。生姜汁と青葱を加えて、朝晩飲むのが習慣になってますよ。一ケース三十本入っているんですけど一ヶ月に二ケース飲んでいますね」
「それは贅沢だなあ。五万はするよ」
「あのすっぽんスープ、そんなに高価なんですか」
「伊東さんは花菜ちゃんが可愛くて仕方ないんだろうなあ」
と言った藤村さんは、その後、ホテルオークラのスッポンのコンソメスープ缶のギフトを送ってくれた。
コラーゲンは肌に弾力と潤いを与えるそうだが、膣にも影響するのだろうか。
藤村さんは不感症の研究をしている人だった。女性器の構造や性能を熱心に調べている。私の股間に座り込み女性器の様々な箇所を測定していた。
男性は簡単に自分の性器を観察し、構造や状態の変化を知ることができるが、女性は日常生活で目にすることは滅多にない。手鏡でも使わなければ、きちんと見ることさえままならない。
藤村さんは、クリトリスから膣口までの距離を測ったり、医療用の膣圧計を膣に挿入し、平常時と収縮させた最高時の差を測ったりした。
「こんな数字見たことがない。二十代女性の平均値は二十二m/mHgなんだよ。今度はこれを挿入した状態で歩いてもらえるかな」
と言い、紡錘状のコーンを私の膣に入れ、一分のタイマーをかけた。重さを四度変え、五段階あるコーンを試した。
「五でも落ちないな」
彼は何やらメモし、自慰はするか、どこを刺激するか、セックスでオーガズムに達するか、それはどんな体位かといったことを質問し、
「今度、病院で膣にカメラを入れて、中を観察させてもらえないかな」と、言った。
十分な謝礼をするというので、私は協力した。
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