師走に入って初めての金曜日、私は学校を早退した。初めてのことだった。私を職員室に呼んだ担任の教師から、下校の準備をするように突然言われた。
母が交通事故に遭い、病院に搬送されたという。これから父が迎えに来ると伝えられた。
教師も詳細は知らないらしいが、父が学校を早退させてまで私を母に会わせようと決断したのだから、それなりの怪我をしたのだろうと冷静に考えた。
高校に私を迎えに来た父は、教師と少し言葉を交わし、すぐに私を助手席に乗せ、中学校で美穂を、小学校で正博と綾子を拾い、病院へ向かった。
子供が四人揃うと、父はおもむろに事情を話し始めた。母は、自分で車を運転し、釧路へ向かう途中、標茶町の中茶安別で事故に遭ったという。標茶町は釧路市の北東に広がる酪農地帯にある。母は、雪道の下降坂でスリップし、ガードレールに衝突したという。単独事故だった。
「単独って、お母さんが一人でぶつかったってこと?」
小4の綾子が言った。
「そうだよ」
父は静かに答えた。偶然通りがかった親戚が119番してくれたという。
父が改まった表情を浮かべ、険しい目付きでハンドルを握っている。外は一面の雪景色だった。父の車は、凍結した雪道をいつもより遅いスピードで慎重に走っていた。
「お母さんに会う前に話しておきたいことがあるんだ」
父の重たい口調に私は息を飲んだ。
「何? どんなこと?」
美穂が言った。
小学校の修学旅行から帰った日の車中を思い出した。あのときは、父と二人きりで、西の祖父の死を知らされた。父の顔は、あの日より暗かった。
「お母さんは救急車で運ばれて、今は標茶の町立病院にいる」
私達はじっと耳を傾けた。父から次の言葉がなかなか出てこない。父は喉を絞るように声を出した。
「衝突したガードレールが車体を突き抜いて、お母さんの脚に刺さったんだ」
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