徹さんと会ったときに入った喫茶店で『部屋とYシャツと私』が流れていた。昨年初めて行ったラブホテルの有線放送で聴いた曲だった。

 一年以上前に発売したアルバムの一曲がじわじわ人気を上げ、今月シングルカットを果たし有線放送の歌謡曲リクエストチャートで三位に達したという。

 専業主婦の願望を謳うあの歌は、二十年以上経った今も歌い継がれているけれど、男女雇用機会均等法が施行されて四年しか経っていなかった当時、生き方を選べるようになった女性が以前の保守的な意識でいてどうするのかと、フェミニズムの人達は青筋を立てて怒り、批判をしていた。

高校生だった私の夢は高等遊民だったし、結婚は大学より先にあるもので、専業主婦という立場は憧れではなく当然だと思っていた。

そんなことより私は、Yシャツはクリーニング店に出すのか、自宅で洗濯してアイロンを掛けるのか、部屋の中にあるYシャツが着る前のものなのか脱いだ後のものなのかが気になった。

一番気に入ったフレーズは「時々服を買ってね」という歌詞だった。「いつも」とか「たくさん」とか「ずっと」と言う女性は多いけれど「時々」という言葉がぐっときた。

 私にとって、男性は時々が丁度良かった。たまに電話したり手紙を書いたり、時々デートしてセックスする関係が良かった。

 時々可愛い洋服と美味しい食べ物を買ってくれる男性は、私にとってリアルだったし、バブル崩壊直後の女性のお願い事としてクールだなと思った。

 徹さんは五泊全て一緒に過ごしたかったようだけれど、六日間夜型生活になるとリズムが狂って勉強に支障をきたすので、三日だけなら良いわよと伝えておいた。私としては二泊と言ったつもりが、彼は三泊ホテルを予約した。

 ホテルの部屋で、私は服を着せてもらえなかった。