翌朝起きると、知らぬ間にススキノから帰ってきた西の祖父が隣のベッドで眠っていた。西の祖母はお化粧を済ませ、着物を着付けている最中だった。

ベッドから起き上がって「おはよう」と声を出すと、

「あら、早いのね。おはよう。まだ、寝ていていいんだよ」と、西の祖母が言った。

「こんなに暑いのに、着物なんて」

「花菜はそう言うと思ったから、おばあちゃんの着物しか持って来てないからね」

 私はそれを聞いてホッとした。私にまで着物を着せられたらたまったものではない。

「とっても素敵。今日はどこに行くの」

「二人で市内を観光しようと思っているけど、行きたい所はあるかい」

「え? 二人で」

「おじいちゃんは、女の買い物に付き合いたくないみたいよ。分かるでしょ」

「うん。でも、札幌だよ。デパートがあるんだよ。本当に買い物に行かないのかな」

「出て来るときはそう言っていたんだけどねえ。どうだか。起きたら聞いてごらん」

 西の祖父は昔から朝起きたら、まず歯磨きをしてから顔を洗う。

「おーい雪子。水をくれ。氷入りでな」

 朝食の用意されたレストランの席に着き、祖父はそう言った。私には、冷たい水は体に悪いと常温で飲ませる祖母が、祖父の要求には決して逆らわず、ロックアイスをたくさん入れた氷水をすっと差し出す。

この二人の姿を見て育った私は、男の人にはこのように仕えるのが女の役目であると幼い頃から自ずと思うようになっていた。

「粥があるだろう」

 祖父は、バイキング料理が並ぶエリアを顎で指し、西の祖母が

「ええ、あるようですね」と、答えた。

「粥と梅干と漬物を適当に身繕ってくれ。俺はテーブルで待ってるぞ」