1.『続・平謝り』 〜格闘技界を狂わせた大晦日10年史〜
この10年間、格闘技は未曾有の盛り上がりを見せたが、結果的にそれを盛り上げたK-1もPRIDEも崩壊してしまった。そこには様々な原因があるが、良くも悪くも一番の原因は大晦日イベントにあった。テレビ局も含めて当事者の谷川貞治(元K-1イベントプロデューサー)が『平謝り』にも書いていない内幕を綴って、検証する。
●最終回 2010年(後編)なぜ大晦日の格闘技はなくなったのか?
2010年のFEGは資金繰りが苦しくなり、とてもイベントに集中する余裕は残っていませんでした。それでもMAXは70キロで長島“自演乙”雄一郎君が頑張って優勝してくれたり、63キロの新階級をスタートさせ、大和哲也君や久保優太君のような新しいスターを生み出して、新たな可能性も広がって来ました。ヘビー級の方はバダ・ハリがプライベートで暴行容疑で逮捕されるという事件もありましたが、代わりに急浮上してきたのがMMAもこなせるアリスター・オーフレイムでした。結果、最後のチャンピオンには長島君や大和君、アリスター、そして70キロでジョルジオ・ペトロシアンといった選手たちが付いています。
視聴率もけして悪くはないのですが、それでもイベントをこなすのに精一杯。プロデューサーとして僕が何か特別なことをしたかというと、そういうわけではありません。そんな中での大晦日は、ほとんどDREAMチームに任せていました。目玉がない中で、TBSはやはり石井慧に期待してきたのですが、それだけは僕がやらなければならなかったものの、石井君サイドが選んできた対戦相手はジェロム・レ・バンナ。もちろん、満足いくマッチメイクではありません。大晦日当日、印象に残る試合といえば青木真也 vs 長島“自演乙”雄一郎のラウンドごとにルールを変える異種格闘技戦くらい。DREAMルールで乙君が青木君をKOしてしまったあの試合です。解説にいた魔裟斗君が飛び上がって喜んでいたのが印象的でした。ある意味、青木君はいい仕事しましたね。
逆にK-1ルールで大和哲也が西浦ウィッキーにドロー、京太郎がゲガール・ムサシに判定負けしたのはちょっとムカつきました。ムカついたといえば、IGF提供試合で猪木さんからボブ・サップvs鈴川真一の試合が組出されたんですが、会場に来ていながらまたしてもボブ・サップがドタキャン。全く呆れたものです。
考えてみればこの大晦日イベントが、ちょうど10周年にあたる記念大会でした。猪木軍vsK-1最強軍の安田忠夫vsバンナから始まり、吉田秀彦、ボブ・サップの大ブレイク、曙参戦による紅白越えの快挙、ボビー・オロゴンらタレントの参戦、魔裟斗vs 山本KIDで中量級の大ブレイク、矢沢永吉参戦、PRIDEとの仁義なき戦い、秋山vs桜庭のヌルヌル事件、PRIDEとの電撃合体で『やれんのか!』開催、DREAM誕生とキン肉万太郎、石井慧デビューと戦極との全面対抗戦、そして魔裟斗の引退試合と、いろんなことがこの10年間でありました。自分なりに毎年、精一杯頑張って仕掛けてきたつもりです。自分でもこの大晦日があったおかげで、ワクワク、ハラハラした10年間でした。
しかし、FEGとTBSの大晦日格闘技イベントはこれが最後となってしまいました。なぜ、最後になってしまったのか? 実をいうと、源泉税の滞納が積み重なり、国税局から差し押さえを食らってしまったのです。2010年は、いよいよファイトマネーや業者の支払いが遅れるようになり、資金繰りに行き詰まってきたことは何度も記してきましたが、それでもファイターもイベント業者もみんな我慢して付いてきてくれました。もちろん、スタッフもそうです。しかし、国税局は容赦しませんでした。もっとも毎年変わる担当者によって対応も違うのですが、僕は毎月のように何度も国税局に足を運び、「なんとか待っていただけないか」という交渉をして来ました。しかし、この年の担当者は期待も情もかけることなく、翌2011年の1月にTBSの大晦日の放映権料を差し押さえて来たのです。これ一発で、長く築いてきたTBSとの信頼関係を失うことになり、契約を打ち切られてしまったのです。もちろん、フジテレビにも決定打となり、契約の更新はされることなく、様子を見られることになりました。
石井館長の脱税事件でK-1は崩壊の危機に直面し、僕らは頑張って10億以上の税金を払って来たのに、今度はその結果ファイトマネーの源泉税の支払いがどんどん遅れていった。結局、最後は税金でやられてしまったのです。何度も頭を下げて我慢してもらったファイターや業者には本当に申し訳ないことをしてしまいました。K-1が何にやられたかというと、実は「税金」だったのです。
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