SOHIKO BLOMAGA

小池壮彦 怪奇探偵ブロマガ vol.27

2013/09/10 20:00 投稿

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  • vol.27倭国大王位継承問題
  • 歴史と社会
 今日の皇位継承問題について考えるとき、5世紀の東アジアがいかに動乱の時代だったかを見ることが重要である。学校の日本史では近代をろくにやらないというが、実際には古代から近代まですべてやっていない。それをあたかも近代だけやっていないかのような話がいまも流布しているが、いったいどこの学校で古代・中世・近世をまともにやっているというのか。

 世のなかの保守と偽保守を見分けるのは簡単なことで、偽保守は日本というと近代日本のことしか言わない。そして明治政府が作った皇国史観を本気で信じているか、あるいは信じたふりをしている。これも近代の視点にすぎないのである。近代日本の視点に終始して、日本史の紆余曲折の総体を是々非々で見る訓練がなされていない。見たくないものも見た上でなおかつ尊皇精神が揺らがないということでなければ真正保守ではない。

 滅びるものは何をしても滅びるし、揺らがないものは何があっても揺らがない。このままでは滅びるといって、本当に滅びたならば、それはその程度のものだったということにすぎない。そして滅びたとしてもまた復活して、実は滅びていませんでしたと言えばすむというのが、案外物事の実情だったりするのである。

 だから日本も何度も滅びている。しかし続いてもいる。そういうものなのだ。そこに問題の正体があるわけで、天皇の本質も実はその類いである。今日の皇位継承問題にしても、皇太子殿下がどうだとか、秋篠宮殿下がどうだとか、大室寅之祐がどうだとか、堀川辰吉郎がどうだとかいう話が、暇つぶしのネタとしても空疎に過ぎる物語として延々と続いている。

 千年前の『源氏物語』の方がよほど真実を語っているが、これも公家や坊主が暇にあかせて延々と書き写してきたのである。これを読めばわかる人にはわかる、だから伝える……とでも思っていたに違いない。この物語のなかで光源氏が「日本紀などの正史は一面にすぎない。物語にこそ真実はある」という有名な言葉を述べるが、これは虚構の価値を主張した文学論ではない。言っていることを直裁に受け取ってよいのである。

 天皇以前の倭国の大王位継承は、5世紀に大きな危機を迎えていた。ここで今日の皇位継承と違うのは、5世紀には別に男系継承という原理はなかったことだ。あったと思う人は万世一系の根拠であるはずの『日本書紀』を読めばいい。官製史書の編者は近い過去のことは当然知っていたので、記述にいろいろ苦労しているが、渡来官僚である編者がいったい何に苦労したというのか。もちろんこの史書が対外的な役割を持つためである。

 倭国の大王位継承問題がなぜ5世紀にクローズアップされ、それを8世紀に『日本書紀』がどう記したか。日本はもともと母系社会で、父系継承・男系継承は儒教の影響ということも言われるが、それとは別に現実的な政治問題として、5世紀の動乱の時代に否応なく自覚されざるを得なかった問題がある。その難題に直面するなかで、倭国は〝日本〟に進化したのではなく、〝日本〟が倭国の王権を吸収したのである。
 

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