国内4大ソーシャルアプリ・プラットフォーム、mixi、GREE、Mobage、Amebaを運営する4社の2012年4-6月期決算が出揃った。コンプリートガチャ(コンプガチャ)が7月より規制の対象となったことを受け、各社5月末にはコンプガチャの提供を停止した。このことが各社の経営成績にどこまでの影響を及ぼしているのか注目を集めているが、その経緯もあわせ客観的な視点で各社の財務状況をレポートしたい。この記事は,各社が投資家向けに公表している最新の決算報告と広告代理店・クライアント向けに発行している媒体資料を主要な情報ソースとし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券リサーチ資料「ソーシャルゲームの正体を探る」などを参考にしている。それらのデータに基づき、できる限り公平な視点で、各社の業績やサービスを比較することを心がけている。
■ 各社の最新四半期(2012年4-6月期)、全社業績比較について
まず、各社の最新四半期決算資料に基づき、企業としての財務分析からはじめたい。
【2012年4-6月期 全社売上および利益の比較チャート】
上記チャートにおいて、「前期比」とは2012年1-3月期との比較、また「利益率」は営業利益率を示している。急成長を示していたGREEだが、今四半期はコンプガチャ廃止の影響などにより対前期比で売上87%、営業利益84%と落ち込んだ。この件で、田中良和社長は記者会見で「コンプガチャ問題への対応に追われ、新規のゲーム開発が遅れた」と間接的影響を認めたが、足元の有料課金収入のペースは回復に向かっているとしている。一方で、前四半期より好転したDeNAは、引き続き売上113%、営業利益99%と成長性でライバルを上回った。また、mixiは売上こそ前期比93%と減少したが、営業利益110%は成長した。堅調に成長を続けていたCyber Agentも、対前期比で売上94%、営業利益で57%と今四半期は落ち込みが目立った。なお、DeNA(ビッターズ事業など)、mixi(Find Job事業など)、Cyber Agent(広告代理事業など)の3社には、SNS以外の事業も行っている。それらを除き、SNS関連事業だけを抽出して、課金売上と広告売上に分解して比較すると次のようになる。
【2012年4-6月期 SNS事業売上の比較チャート】
課金売上では、mixiとMobageが前期比で増加した。mixiは売上比率でついに課金が広告を上回り収益構造が変換した。広告売上はフィーチャーフォンと比較してスマートフォンでの売上効率が悪いことが影響し、GREEを除く各社ともダウントレンドとなった。なお、ここ4年間の4社売上を時系列で俯瞰すると次のようになる。
【2008年7-9月期 〜 2012年4-6月期までのSNS関連売上の時系列推移】
SNS関連の売上で比較すると、GREEの下降とmobageの上昇により、再びMobageがトップに返り咲く結果となった。Ameba及びmixiに関しては前期同様の順位となっている。なお、この記事内で1Qとは1-3月期、4Qとは10-12月期をあらわしている。GREEの売上減少は、コンプガチャ機能の規制およびRMT(リアルマネートレード)対策の影響などが要因として考えられる。特にコンプガチャ機能については、消費者庁が景表法違反と正式な見解を発表し、7月1日以降は罰則対象となっている。この発表を受け「ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会」(NHN Japan、グリー、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、ミクシィ、ドワンゴの6社が参加)の主導で、5月末までに「コンプガチャ」機能の廃止意向を表明された。
しかし今後、各社の業績に影響する可能性があるのが有料ガチャの「確率表示」だ。前述のソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会が「ゲー ム内表示等に関するガイドライン」で9月1日から有料ガチャアイテムの出現確率を「表示することが望ましい」と発表した。既に確率表示の含 みを持たせたボックスガチャ等の有料ガチャを実装しているゲームも登場しているが、この「確率表示」により、ユーザーの有料ガチャ購入意欲が どのように動くかが分からないため売上へのインパクトを懸念する声も多い。有料ガチャの「確率表示」、ボックスガチャについては三菱UFJモルガン・スタンレー証券「ソーシャルゲームの正体を探るⅦ」のレポートを文末に転載しているので参考にされたい。
■ スマートフォン広告売上に関する考察について
前述のSNS事業売上比較チャートを見ると、GREE以外、各社において広告売上が減少している。その一因としてスマートフォンのネット広告掲載料金の低価格化などがあると推測される。各端末ごと(PC、フィーチャーフォン、スマートフォン)のPV(Page View)、広告売上、平均広告CPCのデータが入手できるAmebaを例に、それぞれの端末ごとの、総PV及び総広告売上高との比率を時系列で追ってみたい。なお、平均CPCなどは媒体や時期により変動性があることや、今回は一企業のデータを対象としていることなどから、あくまでも参考値として捉えて頂きたい。広告売上はPC・フィーチャーフォンでダウントレンド、スマートフォンはアップトレンドとなっている。特に目につくのは、フィーチャーフォンはPVの低下以上に売上低下が激しい点、それにスマートフォンはPV増加に対して広告売上の増加割合が低い点だ。各端末の平均CPCを見てみると、スマートフォンの平均CPCは1クリックあたり57円となっており、PCの177円、フィーチャーフォンの75円と比較して安い。これらが各社の広告売上の低迷要因となった可能性が高いと言えるだろう。
【サイバーエージェント 広告平均CPC 】
*サイバーエージェント発表資料を元にループス・コミュニケーションズ制作
【サイバーエージェント 端末別 PV及び広告売上比率】
■ 各サービスのARPU比較について
続いて,ARPU(Average Revenue Per Users、会員ひとりあたりの月売上高)を比較をしてみたい。次のグラフは、それぞれの売上高を各社が発表している国内の登録会員数で割ったものだ。参考まで、最新の各社登録会員数(国内のみ)は、mixi 2241万人、GREE 3019万人、Mobage 4307万人、Ameba 2400万人。すでに各社とも海外における売上も発生しはじめ、アクティブ会員比率もサービスによって異なるため、このARPUはあくまで参考値として捉えていただきたい。
【2011年4-6月期 〜 2012年4-6月期 ARPUの時系列比較】
4社中トップとなったGREE、ARPUは¥443であった。続いてMobage ¥321、Ameba ¥85、mixi ¥49と続く。前四半期との比較では、mixiのみが113%と上昇傾向であった。他社の前期比を掲載すると、GREE 87%、Mobage 100%、Ameba 85% となっている。コンプガチャの射幸性がARPUを引き上げの主な要素であったため、コンプガチャ廃止により一時的にARPUおよび売上が低下することが予測されていた。射幸性を抑えることが業界全体の取り組みになった今、射幸性よりもゲームそのものの面白さをきちんとファンに訴求し、ライトユーザーからヘビーユーザーにスムーズに移行させる仕組みを設計することが重要になるだろう。
*ARPUなどソーシャルゲーム関連の調査報告書として有効なデータがまとめられた、「東京ゲームショー2011 来場者調査 報告書」もあわせてどうぞ。
■ 各サービスのスマートフォン対応と海外展開について
各社とも積極的にスマートフォン対応をすすめている。4社のうち、機種別ページビューを公開しているmixiおよびAmebaの最新状況は以下のとおりだ。ページビュー比率ではmixiで 17% 、Amebaで 26% 程度だが、mixiにおいてはスマートフォンがPCのページビューを超え、mixiユーザーの 54% はスマートフォンから利用している。またAmebaにおいてはアクティブユーザーでスマートフォン 270万人と、フィーチャーフォンの166万人を超えることとなった。さらに6月に、Cyber AgentはスマートフォンAmebaをコミュニティプラットフォームとして改訂し、アプリAPIもオープン化させた。ゲームメーカーも現在18社が参入を予定しており、さらなるアクセス拡大が見込まれる。次期には本格的なスマートフォンの普及が更に加速されることが感じさせられる。
【2012年3月 機種別ページビュー比較】
海外展開の状況だが、GREEは5月よりGREE Platformをグローバルに提供開始した。今後は英語に加え、韓国語、中国語など14ヶ国語に対応する予定とのこと。また、今期の海外での売上も前四半期と比較して1.5倍となり、今期は「MODERN WAR」や「CEBERUS ABE」など4タイトルがAppStoreトップ100位以内にランクインした。DeNAは、内製・協業、サードパーティー双方向でタイトルのラインナップ強化を発表しており、次期中に少なくとも14タイトル以上リリースすることを発表した。Amebaは、今期海外SAP事業の売上高が、前四半期比380%増と急拡大としており、4月22日に米国GooglePlayにて発売を開始した「Rage of Bahamut」が15週連続で売上ランキング1位を獲得している。
*参考情報として、「ソーシャルゲームの正体を探る Ⅳ」で試算された国内ソーシャルゲーム市場規模の予測に関しましてはこちらの記事を参照ください。
最後に、7月23日にアップデートされた三菱UFJモルガン・スタンレー証券「ソーシャルゲームの正体を探るⅦ」に記載されている「コンプガチャ全面停止における業績への影響及び、ユーザーがソーシャルゲームに求めるものに関する考察」が大変参考になるためここに転載したい。
射幸性ではなく、ゲーム性の競争に着目
有料ガチャアイテムの「提供割合の表示」は、業界として“相当の覚悟”
ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会は 2012 年6 月22 日、「ゲーム内表示等に関するガイドライン」(運用開始:2012 年9 月1 日)で、有料ガチャアイテムの提供割合(≒出現確率)を、「表示することが望ましい」とした。実際に、レアカードの提供割合(≒出現確率)が例えば0.1%と明確に表示されれば、射幸性(=偶然の成功や利益を狙う度合い、ギャンブル性)を煽り難くなるのではないか。少なくともライトユーザーは有料ガチャを回すのを躊躇すると思われる。即ち、提供割合を表示すると、売上は減少すると考えられる。それにも関わらず、利用者がより安心・安全に楽しめる環境の向上を図るために、ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会が、“痛み(≒売上減)”を伴うガイドラインを策定したのは、“相当の覚悟”として、評価していいだろう。
カードの種類と枚数がみえる「ボックスガチャ」だが、射幸性上昇の可能性も
有料ガチャアイテムの提供割合の表示は、一部のゲームで、「ボックスガチャ」を使って、先行して行われている。但し、提供割合は0.1%や1.01%など数字で明記されている訳ではないため、ユーザーが計算しなければならない。仮に、具体的な数字として、例えば、ウルトラレアの提供割合が1.35%と表示されたら、特にライトユーザーが受けるインパクトは小さくないと思われる。「ボックスガチャ」では、カードの種類毎に規定の枚数がボックス内に用意されており、ユーザーには自分のボックス内のカードの種類と残り枚数が見えている。そして、課金してガチャを回すと、一定の価値があるレアカードを必ず獲得することができ、希少性の高くはないカードを引けば引く程、希少性の高いカードの獲得確率が高くなる。結果的に、「ボックスガチャ」では、射幸性(=偶然の成功や利益を狙う度合い)が上がる可能性があるとMUMSS は考える。
射幸性の引き下げによるARPPU の低下で、短期的に売上は落ちると思われる
“コンプガチャ騒動”では、コンプガチャの射幸性がARPPU(Average RevenuePer Paid User)を引き上げ、高額請求の要因になったとMUMSS はみている。ソーシャルゲーム運営事業者は、コンプガチャを廃止し、射幸性を落とすので、短期的にはARPPU が低下して売上は落ちると思われるが、中期的には、課金ユーザーを増やし、売上を伸ばすシナリオを株式市場に示すことが重要であるとMUMSS は考える。逆に、ガイドラインに沿って運営しても、業績への影響がないのなら、コンプガチャ廃止によって落とした射幸性を他の手法(例えば、上述した「ボックスガチャ」)でリカバリーしている可能性もある。その場合は、ユーザーから消費者庁にクレームが寄せられるリスクが残り、ソーシャルゲーム関連株が投資家に幅広く受け入れられるのは難しいとMUMSS はみている。射幸性を落とした後は、ソーシャルゲームは本当に面白いのか、即ち、「射幸性よりゲーム性」が問われるとMUMSS は考えている。
ソーシャルゲーム業界が策定した「ガイドライン」では、「提供割合の表示」に注目
コンプガチャは違法という消費者庁の判断、業界も自主的にガイドラインを策定
消費者庁は2012 年5 月18 日、「コンプガチャ」は景品表示法の禁止する「カード合わせ」に該当するとの考え方を公表、6 月28 日には、「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準を改正、7 月1 日から施行している(図表1)。他方、ソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会は5 月25 日に「コンプリートガチャガイドライン」を策定し、6 月22 日には「コンプリートガチャ等に関する事例集」も作成、更に、「ゲーム内表示等に関するガイドライン」と「リアルマネートレード対策ガイドライン」も策定した。利用者がより安心・安全に楽しめる環境の向上を図るための取り組みである。
記事執筆 協力) 岡村 健右
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