それでは、起業や経営に関してよく勘違いされがちな10のポイントを一つずつ見てみましょう。
誤解1. 新規ビジネスにはどこにもないようなユニークなアイディアが必要だ
成功しているビジネスの中でも全く新しい発想で創り出されているケースは意外と少なく、その多くが既に世の中にあるものに対して少しだけ新しいアイディアを取り込む事で、今までには無いイノベーションを生み出しビジネスチャンスに活用している。今の時代、全く新しいものを創り出そうとすると時間もコストもかかる割りには、誰も必要としていないものが出来てしまう可能性が高い。誰も考えつかないアイディアにこだわる必要は無い。同じアイディアを100人が思いついても、実際に行動に移すのはその内10人、そして成功させられるのは1人しかいない。「何をやるか」よりも、「どうやるか」の方が重要である。
誤解2. 優れたビジネスアイディアが市場に受け入れられればお金はすぐについてくる
提供する商品やサービスがヒットしたと思っていても、それが安定した収益になるにはかなりの時間が必要になる。したがって、起業家にはかなりの忍耐力が必要となる。一瞬で儲かるようなビジネスは、一瞬にしてなくなってしまう事も多い。ビジネスを行う上で重要なのは、将来大きな報酬を受け取る為に、それまではしばらくの間”積み立て”を行っているという考え方。継続的に経営を成り立たせる為には、一時の金儲けではなく、市場に普遍的に必要とされる企業を作り上げる必要がある。
誤解3. 一流の経営者になるには、豊富な知識と知性、高い教育を受ける必要がある
経営学やMBAなど、起業する為に多くの知識を身につけるのは良い。しかしながら、実践で最も頼りになるのは実経験から得られた柔軟性である。理論武装で固めるのも良いが、起業の成功を左右する大きなファクターはコミニュケーションや、統率力、粘り強さなどのソフトスキルである。アメリカではスティーブジョブスやマークザッカーバーグの様に大学を中退して起業し、成功する経営者がとても多い。でもそういう人達は必ず経営者として必要な能力を走りながら身につけていく。会社の経営に関しては学校やセミナーで身につける事は難しい。
誤解4. 会社を始めるには大きな資金力が重要である
起業を志す方々の実に多くが何の疑いも無くその第一歩として投資家等からの資金調達を目指す。そしてそれがうまく行った時点で一つの結果が出たと勘違いし、安心してしまう。実は、立ち上げ初期にはお金がない方がユニークな発想でコストを抑え、給料以外のファクターで従業員を惹き付ける必要があるので、起業家としての技量が鍛え上げられる。そうしていればいざ儲かり始めたときでも初心を忘れずに持続性の高い経営を行う事が出来る。よくシリコンバレーで会社を始めるには最低でも500万円、理想的には3000万円程集めるのが良いとされる説があるが、僕はbtraxという会社をたった50万円で始めた。そして、今まで借金や追加の資金調達をせずにここまで来たが、未だ倒産する気配は無い。
誤解5. お金がほとんど無いので起業するのは不可能だ
自分の会社を始めたいが、お金が無いから無理だと思っている人は多いだろう。しかしながら、ビジネスを始めるイコールお金が必要とは限らない。仕事をしながら夜や週末の時間を使って少しずつ始める、Slow Startのコンセプトも良いし、プロジェクト毎に必要な資金を公募出来るKickstarterやCampfireなどのクラウドファンディングサービスを利用するのも良い。実際自分も最初は、オフィスは自宅、スタッフはインターン、1年以上自分には給料無しで、主な資金調達方法は発注に対するクライアントからの支払いだった。起業=ビックビジネスと考える必要は無い。現在は有名な会社でも最初はガレージからスタートしたケースが多い。
誤解6. 自分の信念を持ち続けて諦めなければ必ず成功する
ビジネスを続ける事で最も重要なのは、あきらめない事である。これは間違いない。しかしながら、信念を貫こうと思うが故に、下手すると無意識のうちに自分のアイディアや価値観、やり方に対して固執しすぎてしまっているケースがある。会社を経営していると時代の変化や、世の中の流れで元々強く持っていた考え方が根底から覆される事も多々ある。そんな時には一度外からのアドバイスを聞き、客観的な角度から考え方や、やり方を見直してみる必要がある。ビジネスにとって強い信念と柔軟な対応は最も重要な双璧である。絶対にあきらめない信念を持ちながらも、必要であれば臨機応変にピボットできる柔軟さを持ち合わせる事。
誤解7. 一度軌道に乗ればその後は順調に進む
会社は立ち上げ時が大変なのは間違いないが、最もリスキーなのは一度軌道にのってからである。会社の成長に対して経営者の技量が追いつかなくなるのが理由。しかも、危機を乗り越え、収益が安定しだした後でも、スムーズに進む事の方が少ない。それはまるで船の航海の様に様に、常に嵐は定期的に、そして必ず起り続ける。外部からは順風満帆であるように見える会社でも、内部ではかなりのドタバタがあるはずである。水面を優雅に進む水鳥も、水面下では必死で水をかいている。そして実はむしろ楽に進んでいると思っているときこそが一番危ない。現状に安心し始めた時から会社の衰退が始まっている。自分も2年目で売り上げが安定した頃に、短期間で全てのスタッフが会社を離れてしまった苦い経験がある。どんなに上手く行っている時でも経営者の慢心は禁物である。
誤解8. 自分の会社を作れば自分が一番好きな事をずっとしていられる
最も好きな事をし続けたいと思って起業する人は多い。実際自分もそうだった。起業する前は、好きな時に好きな場所で好きな事が出来る、そして上司に頭を下げる必要が無い。まるで理想的な世界だと思った。しかし実際始めて見ると想像とはかけ離れた現実が待っている。経営者としてやりたい事もほぼ出来ない状態で、トラブル対応、事務処理、収支の計算、従業員への給料の工面、顧客への謝罪など、”経営” 以前に心配しないければ行けない事が山積みになる。そして、どんなに頑張っていても理不尽な事に次から次へと直面する。それを乗り越え、強靭なチームを形成し、収益を安定させて、やっと少なからずの時間を自分の最もやりたい事にあてる事が出来る様になる。逆に経営者はスタッフに最もやりたい事がのびのびと出来る環境を提供する為に、召使いのような立場である事を理解する必要がある。
誤解9. 伸びている業界のビジネスは儲かる
会社を始めるからには儲ける必要がある。自分がのたれ死んだ所でだれも文句は言わないが、従業員とその家族を路頭に迷わせるわけにはいかない。起業家としていつまでたっても儲からない会社を作るのは罪である。したがって、必然的に大きなリターンが望めるマーケット需要の高い業界を目指す事が多くなる。しかしどんなに流行っている業界でも必ず儲かる保証は無い。実際かなり儲かっていそうな会社でも、内情は大赤字だったりするケースも多々ある。一見儲かりそうなビジネスでも、やり方一つで炭にもダイアにもなる。マーケットの需要は大切だが、自分が最も情熱を傾けられる事をビジネスに転換した方が良い。誰よりもこれだけは負けないと思えるものでないと長続きしないし、競合には勝てない。常に流行のビジネスだけを追いかけて裕福になった人は見た事が無い。
誤解10. 本やセミナーで起業やビジネスに関する知識が豊富なのでバッチリOK
起業前に優れた経営者になるべく、関連する本やセミナーから多くの知識を仕入れようとする人は多い。確かにとても役に立つ知識ではあるが、経営は十人十色で他人と全く同じやり方をしている経営者は1人もいない。そして実際のところその時々で「出たとこ勝負」になるケースがほとんどである。誰かの真似をすれば必ずうまく行くという保証はどこにも無い。ビジネスには100のアイディアがあれば100のやり方がある。起業するのであれば、最終的に自分独自のスタイルを見つける必要がある。以前にスタートアップとロックバンドの共通点に関して書いたが、ロックスターがあししげく音楽学校に通い、教則本を読みあさってる姿は想像しにくい。経営はいつでもジャムセッション。
最後に:
“起業家”というと何かかっこ良い響きがある。しかし現実はそう甘く無い。かなりベタで泥臭い作業も多いし、周りが思う程儲らない事がほとんど。自分のやりたい事をするための自由を獲得するにはかなりの困難を乗り越える必要もある、かなりしんどい仕事である。 「会社を始めてみたい」と相談される場合はほぼ、「特にオススメはしないが、やってみたら? 上手くいかないと思うけど。」と答える様にしている。しかし、それでもどうしてもに起業家になりたいと思う事が出来れば本物かもしれない。もしあなたにもこころざしがあるのであれば、まずは始める事。小さな一歩を踏み出してみる事で、今まで知らなかった世界が見えてくる。成功したらGreat. そうでなくても他では得られない経験と知識が得られる。どちらにしてもラッキーだ!
筆者:Brandon K. Hill / CEO, btrax, Inc.
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