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フェスで発生するコミュニケーションと“ボード”の活用

2012/10/09 09:30 投稿

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今年も数多くの夏フェスが開催された。開催地域や規模は違えど、全てのフェスは “音楽体験を共有する場” であり、大きな “熱量” を生む場だ。これまで、フェスの“場”で生まれていた熱量はその場限りのもので、終わってしまえば来場者個人が胸にしまって持ち帰るしかなかった。しかし今ではコミュニケーションツールとしてのソーシャルメディアを通じて、熱量はオンライン上へも伝播し、参加しているアーティストはもとより、フェススタッフ、来場者、または非来場者を巻き込んでいくことが出来る。

 

ソーシャルメディアはそれ自体で成立するものではなく、ライブやイベントといったリアルな “場” の存在と両軸をなすものだ。リアルな “場” の熱量をいかにソーシャルメディア上で伝播させるのか、またソーシャルメディアで伝播した熱量からいかにリアルな “場” へ人を誘導するのかという点の設計が、フェスのみならず個別のアーティストのライブやイベントにおいても重要なポイントだ。

 

今回は、フェスで発生するコミュニケーションをSummerSonicを例に以下のように分けて見ていきたい。

 ①   来場者から発生するコミュニケーション

 ②   フェスアカウントから発生するコミュニケーション

 ③   アーティストから発生するコミュニケーション

 

 

①来場者から発生するコミュニケーション

〜“事件”が“驚き”という感情にのって伝播した〜

 

今年のSummerSonicはいくつかの“事件”に見舞われ、“驚き”という感情に乗って様々な言葉が溢れた。その中で話題の中心になったのが“ももいろクローバーZ”であった。

 

初日の大阪公演は激しい雨と落雷に見舞われ、来場客に対して屋内避難命令が出される事態となった。メインステージではちょうどPerfumeのパフォーマンス中であったが、約2時間の中断を余儀なくされた。

 

このステージ進行の遅れにより、別ステージのトリで出演予定だった“ももいろクローバーZ”は、出順が変更となり、ジャミロクアイがメインステージでパフォーマンスする時間の裏となっていた。そのジャミロクアイが出演キャンセルになったことで、行き場をなくしたメインステージの来場者がももクロのステージに大挙押し掛ける事態となったのだ。

 

ももクロが伝説を作った件  6,400RT

 

この事件はNAVERでもまとめられ、ももクロの楽曲もてがける“ヒャダイン”氏の以下のツイートは2,500を超えるRTがあった。

 

ももクロちゃんがサマソニでぶちかましたみたいですね!何やら雷雨でキャンセルしたジャミロクワイのお客さんがももクロステージに流れこんだとか!漫画のBECK読んだことないけど、これをBECK状態というらしいですね。アウェイをホームに変える5人、凄いなあ。  

ヒャダインor前山田健一アカウント(フォロワー:約12万)

 

他のステージのアーティストがキャンセルになったことで客が押し寄せる状態が、マンガ「BECK」のシーンを彷彿とさせるということで、ソーシャル上には、「BECK状態」というバズハードが発生した。情報の伝播は、必ず“感情”がエンジンとなる。この場合は、雷雨による避難命令やジャミロクアイのキャンセル等、様々な偶然が重なった結果ももクロに生じた奇跡的な事態が“驚き”という感情を生み、広く伝播した上で「BECK状態」というワードに帰結した。

 

 

〜ChibaとTokyoの違いを認識していたあのアーティスト〜

 

アーティストのパフォーマンスを目にした来場者によって発信されたツイートのうち、最もRT数が多かったと見られるツイートはGreen DayのステージMCから生まれたこのツイートであった。

 

千葉県にあるサマソニ会場で、あらゆるアーティストが“Tokyooooo!!!”と叫ぶなか、Green Dayだけは“Chibaaaaa!!!”と叫んでいた。彼らは東京と千葉の違いを認識している。

 

恐らく今始めて見た人も、いいね!と押したくなるであろうこのつぶやき。発信者は来場していた一般客であり、面白さとともにアーティストへの共感を呼ぶこのツイートは16,000RTされ、3,000を超える数のお気に入り登録に入っている。 

 

このツイートのバイラルによってフォロワー数の増加があったとは思うが、現在700程度のフォロワー規模のユーザーである。一般人としては少なくないが、前出のヒャダイン氏に比べればその規模は3桁違う点で、拡散の力を感じざるを得ない。

 

〜俺流の楽しみ方、 “マイタイムテーブル”の共有〜

 

来場者同士のコミュニケーションを活性化させるものとして、SummerSonicのみならず、近年の夏フェスで一つの役割を担っているのが、「ためてぼ天国」だ。これはフェスのタイムテーブルをもとに、自分が見たい、又は見る予定のアーティストをチェックすることで、“マイタイムテーブル”を作成してソーシャル上で共有出来るというサービスだ。

 

FujiRockやSummerSonicなど、ステージが複数に分かれるフェスでは多くの来場者が自分なりのタイムスケジュールを考える。来場者はこのマイタイムテーブルを通じた“自己表現”が出来るという点で、共有へのモチベーションは高かったことは想像に易い。同様に、来場者でごったかえす現地で、自らの居場所を共有する機能のついたアプリ「festime」も多く活用されており、コミュニケーションを加速させるツールとしてのアプリの存在は欠かせないことがわかる。

 

②フェスアカウントから発生するコミュニケーション

 〜公式アカウントの運用〜

 

FujiRockやSummerSonicを始め、多くのフェスが公式のFacebookページの運用、Twitterアカウントの運用を通じて、オフィシャルな情報の発信を行っている。ファン規模の大きなFacebookページをいくつかピックアップすると以下のようなアカウントがある。

 

 •Fuji Rock Festival

 •Summer Sonic

 •WIRE

 •Big Beach Festival

 •a-nation

  

夏フェスのFacebookページでは、年明け以降の“開催決定告知”に始まり、出演アーティストの発表、グッズ情報などを発信していくのが一つのパターンとなった。直前には、会場設営やアーティストの来日情報がファンの心をかき立てる。また当日には、ライブ速報に近い形で、パフォーマンスの終わったアーティストの写真やセットリストの公開等も行っている。

 

また、WIREのTwitterアカウントでは、モバイル端末との相性の良さやリアルタイム性を活かし、フェス当日の会場内の情報(トイレの情報から落とし物情報まで)や、グッズの売り切れ情報の発信など、来場者に対するアクティブなサポートも積極的に行われ、これも一つのパターンとなっていくだろう。

 

〜リアルいいね!〜

 

厳密には来場者のアカウント発信ではあるが、フェスの場に仕掛けられた装置として、来場者の熱量を拡散させる「リアルいいね!」の活用も見られた。会場にFacebookアカウントへのログインが可能な端末を設置し、ユーザーがその場で自らのFacebookアカウントにチェックイン投稿が出来る仕組みだ。まさに熱量を現場からソーシャルメディアへのダイレクトな伝播を支える仕組みといえる。

 

渋谷を10日間ジャックして開催されたa-nationのタウンフェス”Music Week”では、その会場に「face nation」というブースが設けられた。ここでユーザーは、Facebookアカウントにログインした上で、用意された巨大な“a”マークを持って写真を撮ると、その写真が自分のアカウントにアップされる仕組みとなっていた。また、撮影に参加することが“抽選への参加”にも繋がっており、ハズレ無しに様々な景品が当たる。“◯◯をゲット!”という文言が写真とともにアップされるため、それを見た非来場者の参加モチベーションを促進させることも見込める。

 

また、「apbank fes」でも宮城みちのく会場に限り、リアルいいね!のブースが展開された。こちらは事前登録制で、登録者には自らのソーシャルアカウント情報がインプットされたバンドが配られ、フェス当時に会場内に設置されたリアルいいね!の機械にタッチすればアカウント上に投稿がされる仕組みとなっていた。  

 

③アーティストから発生するコミュニケーション

 

一つ課題となるのは、アーティストのアカウントを、フェスとしてどれだけ巻き込めるかという点だろう。アーティストのアカウントは“アーティスト対ファン”という構図になりがちであり、フェスという枠組みの中で共有されていない感がある。

 

フェスの公式アカウント上に、写真や動画、セットリストなど、アーティストコンテンツをリアルタイムでの露出させるのは非常に難しいのが現実だ。最も熱を発生させるコンテンツではあるので、可能な範囲で(マネージャー等からの許可が得られる範囲で)写真の公開やセットリストの公開を行っているという状況がある。ただ、こうしたコンテンツも事前にアーティストサイドからフェスサイドへの許可が出ていれば、即時性を持って豊富なコンテンツを出せるだろう。

 

〜熱量を一カ所で集約して可視化する〜

 

興味深いのは、来場者やフェスアカウントを問わず、フェスから発生したコミュニケーションを1つに集約し、“可視化する”というプラットフォームの登場だ。SummerSonicではオーディオテクニカによるSocial Boardというサービスが展開された。ソーシャルメディア上につぶやきや投稿という形で個々に伝播した熱量を一カ所に集約して可視化する役割として効果的に機能することで、非来場者や“一見さん”的なユーザーも含めた熱量の共有やコミュニケーションの拡がりが期待出来る。

 

個別のアーティストでもSUPER☆GiRLSがオフィシャルサイト上に、やはりソーシャルメディア上で語られているつぶやきや投稿を集約して可視化するガジェットを埋め込んでいるが、発信元を問わず、拡散された熱量を“ボード”の上で集約して可視化するという仕組みは様々活用出来るのではないだろうか。

  

フェスにおいてもアーティストコンテンツをこうしたボードの活用を通じて発信、集約していくことが出来るだろう。例えば、2011年のMTV VMAsのサイト上では、BUZZ、PAPARAZZI、HOT SEATといったページが設けられ、アーティストのソーシャルアカウントやアーティストコンテンツが、アワードの枠組みの中に上手く取り入れられている。詳細は以前のブログを参照されたいが、例えばHOT SEATというページでは、会場のマップが表示され、その上にノミネートされたアーティストの座席がプロットされている。アーティスト名にオンマウスすると該当アーティストの最新のつぶやきが表示されるといった作りになっている。アーティストのアカウントへバナーリンクを貼るといったレベルから一つ踏み込んだ設計であり、一つのボードの形といえる。

 

フェスにおけるボード活用では、アーティストがしっかり“ボードの乗っている”ことが重要だ。つまり、アーティストアカウントが個々に発信を行いつつも、フェスという枠組みの中にそのアカウントが取り入れられ、アーティストコンテンツの発信が即時性をもって行われていくことが求められる。そして同じボードに来場者のつぶやき等が乗っていくことで、よりコミュニケーションの熱量は増し、拡散がされるだろう。

 

参加アーティストのアカウント一覧や、最新のつぶやきのみならず、ライブ写真やセットリストといったコンテンツがしっかりとボードの上に乗せられるためには、当然参加アーティスト及びマネジメントサイドの協力体制はかかせない。参加アーティストがステージだけでなく、コミュニケーションのボードにも足並みを揃えて上がっていくことで完成する“コミュニケーションボード”が、フェスにおけるコミュニケーションを一層深化させるだろう。

 

 

データ協力:ホットリンク「クチコミ@係長」

 

 

 

 

image via flickr  risaikeda

参照ブログ: 

• a day on the planet groundcolor blog  

 • jay kogami’s posterous

 

 


by 矢野 悠貴

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