20兆円の潜在市場、錯綜する企業の思い
野村総合研究所の試算では国内におけるO2Oの潜在市場規模は20兆円以上に達するとも言われている。これは、単なる既存市場の開拓にとどまらない。これまでネット・非ネットで分断されてきた小売、サービス市場が連続的に融合することによって、ビジネスの競争環境が一変する可能性があるということだ。オフラインのビジネスにオンラインからの誘導という新たな導線が単に「加わる」だけでなく、オンラインのECビジネスにまでその影響が波及すると考えられる。
大きな可能性を秘めたO2Oだが、国内での有名事例といえば、例えば、マクドナルドとコカ・コーラがマイJクラブで行ったクーポン・キャンペーン、ローソンの自社メディアやソーシャルメディアからLoppiへの誘導施策、無線LANスポットの活用でユーザーの買いまわりを促すセブンアンドワイのセブンスポットなど。あくまでも特定企業における個々の取り組みが多かったように思われる。
一方で、昨年話題となったfoursquareなどのジオ系サービやアプリは企業に対して非常に多くの選択肢を提示したものの、デファクトスタンダードが確立するまでにはほど遠い、群雄割拠の時代が続いている。
「提供形態」の違いに着目した分類
次の図表は、現在の主だったO2Oソリューションを「サービス提供形態」の違いによって大きく分類したものだ。
この分類は「提供形態」という観点のみに基づいてかなり乱暴にわけたものなので、同じカテゴリでも細かくみていくとそれぞれ特徴を持ったサービスとなっている。あくまでもひとつの切り口として捉えていただきたい。また、対象は「オンライン to オフライン」のソリューションになっている。 「『続きはWebで』に代表される『オフライン to オンライン』」のみを対象としたものは除外した。
以下、それぞれの分類を簡単に説明しよう。
本気の取り組み、「独自開発」型のO2O
前述したような、ローソンやマクドナルド、セブンアンドワイなどが独自の取り組みとしてシステムからインフラまでを開発する形態は図中右側に位置する。
この方法は中長期的な企業戦略として進められることが多いため、諸々含めたトータルのコストとしては最も多い部類に入るだろう。その反面、自社の流通や既存店舗、オウンドメディアなどあらゆるリソースと密接に連携でき、設計次第ではあるが顧客データも高い精度で取得できるという強みがある。自社の顧客リレーションシップ施策と直接関係するため、当然取り組みは長期に渡る。
施策の中でmixiやFacebook、Twitterといったソーシャルプラットフォームを利用することがあるが、この分類においてはあくまでも顧客接点のいちチャネルとしての位置づけにすぎない。どのチャネルに手を出したとしても、ここに分類される施策は、最終的に全てのチャネルを自社の顧客基盤に集約することが目的となる。
手軽だが使いこなすには工夫が必要、「プラットフォーム」型
それに対して、図中左側「プラットフォーム型」は、オンライン部分仕組みをすでにユーザー母体を持つプラットフォームが受け持つことで、O2O施策を実行する企業との役割分担がなされる。
本サイトの読者にとっては、Facebookが提供するFacebookクーポンが最もわかりやすい例と言えるだろう。企業は、巨大な会員データベースを持つFacebookというプラットフォームを通じてユーザーにクーポンを発行し、店舗でバーコードや通し番号を使ってその利用状況を把握する。
昨年ジオメディアとして注目を集めたfoursquareや、株式会社ゆめみが日本での展開を始めたマイタウン、ライブドアのロケタッチ、はてなココ、コロプラなどもこのカテゴリに属する。
さらには楽天やヤフーのような巨大プラットフォームも含まれるため細かい仕様は様々だが、この切り口に共通する点としては、顧客基盤をプラットフォーム側に依存することが挙げられる。自社の顧客基盤とは異なる接点への展開となるため、新規顧客獲得の可能性を秘めている一方、プラットフォーム内での露出獲得方法が課題として残る。また、顧客情報をどこまで自社で保持できるかという点にも留意したい。
システム部分をアウトソースする「ASP型」O2O
最後に、その中間的な立ち位置として「ASP型」というものを分類してみた。これは、オンラインとオフラインをつなげる仕組みの部分をソリューションベンダーに依存するものの、顧客基盤自体は自社で保有する。もしくは自力で集客するという形式だ。
B to B向けには大小様々なソリューションが出回っているようだが、ネットで見つかるようなソリューションは現時点ではそれほど多くないようだ。この形態は、ある程度の顧客基盤や集客力を持った店舗・ブランドで、自前でシステムを構築するほどの予算やノウハウはもっていないというケースでは有望だろう。また、イベントやキャンペーンなどごく短期間で利用したいケースでも選択肢になりうる。
事例 : 宝島社Sweet 「リアルいいね!」を使ったキャンペーン
今回、記事執筆にあたって「リアルいいね!」というソリューションを使ったプロモーションについて、凸版印刷株式会社より事例をいただいたので紹介したい。
同社は、オンラインの折込チラシサービス「Shufoo!」で培ったSOLOMOビジネスの知見を持つ。今回の「リアルいいね!」というFacebookのOpen Graphと密接に連動した汎用的サービスでは、期間限定のイベントなどスポットの需要をターゲットに展開しているようだ。
9月15日、4年連続ファッション誌ナンバーワンの宝島社「sweet」が、渋谷ヒカリエにて、「Sweet Collection 2012」を開催した。同イベントでは7社のスポンサーがブースを出展。来場者に各ブースをより多く廻っていただくため、「リアルいいね!」が採用された。
インビテーションカードに貼られたNFCタグを各ブースのリーダー端末にタッチすると、sweetのFacebookページの記事に「いいね!」がカウントされる。また個人のFacebookにも各ブースのスポンサー情報がシェアされ、友達にも「Sweet Collection 2012」およびスポンサー情報が来場者の友達にも伝播する仕組み。「リアルいいね!」参加者約700人が合計1600回以上のタッチをしたことで、回遊効果および、情報の拡散につながったという。
同社の「リアルいいね!」については以下の記事に REVLON、Gap JAPAN、ICONIQ UNKNOWN展などの事例が掲載されているので併せて参考にしていただきたい。
参考: 【連載】O2Oプロモーションの新たな潮流
オンライン×オフラインプロモーションの“キー”としてワークしはじめたNFC
NFC(近距離無線通信)が可能にしたサービス――欧米の先進事例
(凸版印刷のO2Oプロモーションのソリューションの紹介)
まとめ
本エントリでは、O2O、中でも「Online → Offline」のソリューションをその提供形態から分類し、それぞれについて考察してきた。
「オンライン」と「オフライン」の顧客動線に注目した考察としては以下の記事をお薦めしたい。
参考 : スマホ技術者も知らないと損する「O2O」の基礎知識 (@IT)
また、O2Oというソリューションをビジネス全体からバリューチェーンとして俯瞰した場合の分類は以下のエントリが役立つだろう。
参考 : 日米のO2O系サービス徹底比較:カオスマップ作りました (Finance Startups)
広義のO2Oは、文字通りネットとリアルをつなげる全てのソリューションが含まれるため膨大で捉え方の難しいソリューションではあるが、ビジネス利用という観点からは期待値とコストのバランスが重要となる。例えば、大きな投資をして大胆なイノベーションにつなげるか(自社での独自開発)、初期コストは抑えつつ競合と横並びの状況でコンテンツ等による差別化をしていくか(プラットフォーム型)、という判断が必要となるだろう。
また、プラットフォーム型のソリューションを選択する場合は、将来的に市場を席巻するサービスがどれになるかを見極める必要がある。プラットフォーム型ソリューションの強さとは、そのPFがどれくらい多くのユーザーに支持されているかということであり、スタートアップの場合はそれがネットワーク外部性を発揮できるほどに成長できるかどうかにかかっている。勝ち馬に乗れず、利用していたPFが競争に負けてしまえば最終的な目的である顧客との長期的な関係性構築は望むべくもない。
現在、WEBサービス、モバイルアプリなどを始めとする多様な形態でプラットフォーム型のO2Oソリューションが展開されている。群雄割拠の時代であれば、その見極めが難しくなるが、逆に得られるリターンも大きくなるだろう。プラットフォームが提供する機能が同じである限り、他社に先んじて先行者利益を獲得できなければ競合に対する差別化にはならないからである。
そういった意味では、バランスのとれたASP型は第3の選択肢として利用する側にとっては非常に望ましいと言える。自社で独自開発するよりは開発コストも低く、特定のアプリやプラットフォームに乗っかるよりは自社の顧客基盤としての強さに勝る。利用できる選択肢がまだまだ多くないのがユーザーとしては残念かもしれないが、オリジナリティを大切にする日本の広告主にとって、B to Bに特化したわがままの言える柔軟な提供形態はニーズにフィットしているとも考えられる。
今後様々なソリューションが生まれ、クライアント企業やひいてはユーザーに対してより適した選択肢が生まれてくることに期待したい。
by 許 直人
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