結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年9月18日 Vol.338
はじめに
結城浩です。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
10月刊行になる『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』の表紙がやって来ました!
もちろん今回もイラストはたなか鮎子さん、装丁は米谷テツヤさんです。
いつもの「秘密ノート」ではミルカさんとテトラちゃんとユーリの三名が表紙になりますが、今回は「四名」の数学ガールがいますね!
さて、今回も恒例の《サイン本無料プレゼント》の企画を行っています。以下のページをごらんの上、ぜひご応募ください。
◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』《サイン本無料プレゼント》
https://snap.textfile.org/20180916170229/
先週は、やってきた再校ゲラを読んでいました。今週末には再校ゲラ読み合わせがあります。現在は最終チェック中。さすがに再校ともなると大きな修正はなくなり、とても細かい部分の手直しが多くなりますね。完成は間近です!
ぜひ、応援してくださいね!
◆『数学ガールの秘密ノート/行列が描くもの』
https://bit.ly/hyuki-matrix
* * *
では、今回の結城メルマガも、どうぞごゆっくりお読みください。
目次
- 例題は解けるのに、模試の問題が解けない - 学ぶときの心がけ
- Amazon Pollyを使って簡単音声合成
- 大学一年生、数学科に進むか迷う - 学ぶときの心がけ
- 「ひとりSlack」で知的生活のパワーアップ(3) - 仕事の心がけ
- オーバーエンジニアリング - 再発見の発想法
例題は解けるのに、模試の問題が解けない - 学ぶときの心がけ
質問
数学を勉強しています。でも、なかなか問題を解けるようになりません。
教科書の例題などは解けます。でも、模試や問題集の問題は解けません。
自分の勉強のやり方が悪いのでしょうか。
オススメの勉強法などありましたら教えてください。
回答
ご質問ありがとうございます。
教科書の例題は解けるとのことですね。あなたは教科書の例題を解いたとき、自分として「理解したぞ」と感じていますか。それとも「理解していないし、何が何だかわからないけど、教科書に書かれている通り手順を進めたら解けた」と感じていますか。
どんな勉強法をしようとも「理解したぞ」といえるかどうかが重要です。どんな勉強のやり方をとろうとも「自分は理解しているだろうか」と振り返ることがなかったらその勉強のやり方は効果激減です。あなたは、そう考えて勉強していますか。《自分の理解に関心を持つ》という原則を適用しましょう。
数学の教科書の例題というのは、数学的な概念をあなたに伝えたり、数学的なものの考え方を伝えるためにあるものです。その例題を通じて、教科書は「何か」をあなたに伝えようとしています。あなたはその「何か」を捕まえているでしょうか。
「何か」というのは、たとえば「二次関数」や「因数定理」や「三角関数の加法定理」といったもののことです。教科書には単元があり、さらにひとつひとつの概念を細分化して詳しく説明していますよね。その一つ一つのことです。表面的な数式の操作や、教科書に書かれている字面を丸暗記することが「捕まえる」ことではありません。そうではなくて、自分が「なるほど、これはこういうことなんだ」と納得することです。
教科書の例題が伝えている「それ」を、自分のものとして理解し、自分でその概念をいじって遊びましょう。その概念を十分にあなたが理解したかどうかが重要です。問題集や模試で出てくる問題は、要するにあなたの理解を確かめようとしているのですから。
模試になると、複数の概念を組み合わせて問うてきます。概念の合わせ技がやってくるのです。ということは、例題を通して一つ一つの概念を自分のものにした上で、組み合わせる方法も練習する必要がありますね。さらにはスピードも要求されるかもしれません。
模試の問題を解いたあと、解説を読みます(読んでいますよね?)。書かれている解説は理解できますか。解説の文章を読んで「なるほどね」と思えますか。そして、自分の理解のどこが足りなかったかをていねいに確認していますか。
初めて出会う問題が解けるか解けないかというのは大したことではありません。それよりも問題を解く体験を通して自分の理解の間違いや不足を修正することが大事なのです。ですから、問題の解きっぱなしは意味がありません。自分の理解を検証するというところに模試の「命」があります。
どんな勉強法をあなたが選ぼうとも、学ぶときの基本姿勢は《自分の理解に関心を持つ》ことです。解けたかどうかだけではなく、自分の理解が正しいかどうかにいつも関心を持ちましょう。
自分の理解を検証するためには、数学的な概念ひとつひとつに対して「自分の理解はこうである」と言えることが大事になります。その意味では、先生に質問しに行くのはとてもいい経験になります。模試の解説を読んでわからないとき、あなたは先生に質問しに行ったことはありますか。そこで先生に「自分はこう思うのですが、解説にはこう書いてあります。ここがわからないです」と説明するのは非常にいい勉強法です。
先生にいちいち聞くのはちょっと……とためらう場合には、自分自身に説明するのでもいいですよ。頭の中で「理解した」と思うだけではなく、何をどのように理解したかを自分に向けて言葉で説明してみるのです。あなたを慕っている後輩に説明するという仮想的なシチュエーションを想像してもいいでしょう。あなたがきちんと説明できれば、その概念を理解できているといえます。でもどこかで説明がしどろもどろになるようなら、その部分は理解できていないといえるでしょう。誰かに説明しようと試みるのはたいへん効果的な勉強法です。
数学で学ぶ内容はたくさんあるんだから、そんなふうに丹念に学んだら膨大な時間が掛かってしまう!……と躊躇する人は多いのですが、実はそうではありません。というのは学習は加速するからです。特に数学は、基本的な重要概念を深く理解すると、無数の問題に対処できるようになる性質があります。逆に、深く理解しないと多数のことを丸暗記しなければならなくなり、たいへん苦痛です。
《自分の理解に関心を持つ》という原則を心にとめてがんばってみてください。そしてこの原則は、数学に限らず他の科目の学習にも効くのです。ぜひ、試してみてください。
関連した内容はVol.331にも書きました。
◆Vol.331 高校二年生、簡単な問題以外がさっぱり解けない - 学ぶときの心がけ
https://bit.ly/hyuki-mm331
http://ch.nicovideo.jp/hyuki/blomaga/ar1638417
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