Vol.322 結城浩/「ひとりSlack」を活用しよう/文章力/想像力を膨らませる/頭が良い人に嫉妬/企画書をまとめる/

結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年5月29日 Vol.322


はじめに

結城浩です。

いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。

関東ではあちこちで紫陽花(あじさい)の花を見かけるようになりました。

「あ、こんなところに紫陽花が咲いてる」

道を歩いていてそんなことに気がつきます。

私はそれと同時に「桜」のことを思い出しました。

一年間、気に留めていないけれど、春になると「桜」のことを思う。

一年間、気に留めていないけれど、梅雨が近づくと「紫陽花」のことを思う。

最近、あなたが思っていることは何ですか。

それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。


目次

  • はじめに
  • 目次
  • どうしたら文章力がつくのか - 本を書く心がけ
  • サービスを作るときに想像力を膨らませるコツ - 仕事の心がけ
  • 頭が良い人にすぐ嫉妬してしまう - Q&A
  • 「ひとりSlack」で知的生活のパワーアップ - 仕事の心がけ
  • 企画書をまとめながら考えていたこと - 仕事の心がけ
  • おわりに

どうしたら文章力がつくのか - 本を書く心がけ

質問

『数学ガール』とても楽しませて貰っております。

ところで、数学の内容はともかく私が気になるのは先生の文章力です。

理系の私は文章力が皆無なのですが、実は本を書いてみたいな〜なんて思うこともあります。

どうしたら文章力がつくのでしょうか。

ちなみに、読書についてはかなりの量をこなしてきました。

回答

ご質問ありがとうございます。

文章力をつけるというのは大きな話ですから、簡単にお答えしますね。

(1)文章をコンスタントに書きましょう。

(2)そして、書いたものを誰かに読んでもらいましょう。

この二点です。

素朴な方法として、決まった分量でまとまった文章を定期的に書き、自分で何度も読み返す。つまり(1)だけでも悪い方法ではありません。誰かに読んでもらわなくても書く練習にはなります。でも、「これでいいや」という思い込みが強い場合、自力で文章を改善することは難しくなります。ですから、忌憚ない意見を言ってくれる人に文章を読んでもらうという(2)も合わせることをお勧めします。

ブログなどで不特定多数の人に読んでもらうことも悪くありませんけれど、文章力をつけたいなら、書きっぱなしにしない方がいいですね。一つ一つの文章をしっかり読み返し、少しでも良くしたいと考える気持ちを持った方がいいです。ただし、それを厳しくしすぎると継続できませんから、自分で調整することも必要になります。結城が好きな方法は、書いたらまずWebで公開しちゃう!……そして公開したものを何度も読み返して、少しずつ直していく。これだと継続できますし、何度も読み返すことにもなります。

ところであなたは「他人に読んでもらう文章」を書いた経験はありますか。もしも他人に読んでもらった経験が少ないとすると、最初のうちはかなり理想と現実の差に苦しむかもしれません。率直にいうならば「適切な言葉が出てこない!」や「言いたいことがぜんぜん表せない!」に苦しむかもしれないということです。でもそれは誰しも通るところなので、がんばって乗り切ってください。そのためにも誰かに読んでもらうことが有効です。

美味しいフランス料理を味わえることと、美味しいフランス料理を作れることとは別の技能ですから、たくさんの読書をしたからといって文章がすぐにうまく書けるとは限りません。しかしながら、文章の良し悪しを判断できる力を持っているのであれば、それを自分の文章に適用することで文章力を向上させることができるかもしれません。

質問文で「理系の私は」という箇所が少し気になりました。「理系である」ことは「文章力がない」ことの免罪符にはなりません。むしろ現代社会では、いわゆる理系の人こそ、正確で読みやすい文章を書く力が求められているのではないでしょうか。想定した読者に対して、複雑で誤解されがちな事柄を解きほぐし、正確で読みやすい文章によって伝える力は社会にとって重要といえるでしょう。

なお、私の『数学文章作法』では説明文を書くときの基本的なことが載っていますので、ご参考に。以下のサイトには、目次から第一章の終わりまで全文読める《試し読みPDF》が無料でダウンロードできるページへのリンクがあります。

◆ 『数学文章作法』
http://www.hyuki.com/mw/

合わせて、こちらのページからたどれる「文章を書く心がけ」もお読みください。

◆結城浩の心がけ
http://www.hyuki.com/writing/

これまでの「結城メルマガ」で配信したもののうち「文章を書く心がけ」に関わる記事はこちらにピックアップしてあります。

◆「文章を書く心がけ」マガジン
https://mm.hyuki.net/m/m427a78a1adf7

こちらには「本を書く心がけ」があります。

◆「本を書く心がけ」マガジン
https://mm.hyuki.net/m/m715a102cda18

あなたが「本を書きたい」という気持ちを持つことは本当に素晴らしいことです。良い本はいつの時代にも求められており、真に価値のある仕事の一つです。それは未来を作る仕事の一つともいえます。

がんばってください。応援しています!


サービスを作るときに想像力を膨らませるコツ - 仕事の心がけ

質問

僕は将来、自分でなにかサービスを作って生きていきたいと考えています。

いまよりもずっと無知だったころは「こんな壮大なものを作りたい!天才の僕ならできるやろ!!」と考えていたこともありました。

しかし、プログラミングを勉強し、強い人を目の当たりにすると「こんな壮大なものを思いついたけど、あの天下のGoogleさんでも実現できていないなら僕には無理だ」と思うようになり、しまいには、壮大なものを思いつく「想像力」自体がなくなってきました。

「誰もやったことのないことをしてみたい気持ち」なら今でもあります。でも、サービスを作るに当たって「想像力」がないのはとても問題だと思っています。

想像力を膨らますコツはあるのでしょうか。

回答

ご質問ありがとうございます。

想像力を膨らませるには、意識して「制約を取り払う」ことが必要です。制約というのは「○○でなければならない」という縛りのことです。

想像力が膨らまない原因の一つは「既存の技術でできることから発想をスタートさせてしまう」ことにあります。既存の技術でできることから始めると、なかなか話は広がりません。広がったとしても誰でも思いつきそうなことや、どこかで見たようなものばかりが出てきがちです。

想像力を膨らませるためには「既存の技術で実現できなくてはならない」というところ、つまり制約をいったんストップさせる必要があります。

あなたの質問の中でも「自分が壮大なサービスを作る」というところに制約がほの見えます。つまり、「自分が作らなくてはならない」「壮大でなくてはならない」「サービスでなくてはならない」「作らなくてはならない」という制約のことです。「○○でなければならない」が見え隠れしますね。想像力を膨らませるときには、そういうものをいったん全部とっぱらって考えた方がいいのではないでしょうか。

さて。

そのように言っておいて変な話ですが、制約をとっぱらって考えるだけでも困ります。想像力を膨らませるだけでは、何も始まりません。想像力をできるだけ膨らませた。どんなことができたらいいかという話をできるだけ広げた。その上で「さて」と真顔に戻って、いま考えてきたことの中で本質的にすごいところは何だろうかと振り返るのです。いま考えてきたことを、既存(+α)の技術で実現できる範囲はどの程度だろうか。そのように見極める力が大事になります。

制約を取り払って想像力を膨らませ、真顔に戻って実現方法を考えましょう。

あなたの活動が世界を豊かな喜びで満たすことを期待しています。がんばってくださいね!