結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年12月20日 Vol.247
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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『数学ガール6』の話。
現在、章がまとまるごとにレビューアさんに送付する段階に来ています。 といっても、まだ送付できたのは第1章のみ。 現在は第2章に集中してまとめているところです。
第2章は先週末に送るぞ!……と意気込んでいたのですが、 プライベートな出来事があれこれ起こったため、 今週に持ち越しとなりました。 今週末までには、何とか!……と意気込んでいる状況ですね。
自分が書いた文章を読む他者(レビューアさん) が存在する緊張感は、 仕事を進める上でとても大事だと実感しています。
じわじわとがんばります。
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オファーをお断りするメールの話。
最近、結城あてに雑誌の記事や、書籍や、 講演のオファーがよくやってきます。 たいへんありがたいことなのですが、 スケジュールの関係でお断りすることも多いです。
結城にお仕事を依頼している人というのは、 編集者だったり、企画を立てている人だったりします。 そういう方々は予算やスケジュールや人繰りのことを考えた上で、 結城にオファーメールを出していると想像します。
ですから、引き受けるのか引き受けないのかわからない状態のまま、 ずるずると引っ張るのはよくないと結城は考えています。 結城が引き受けないとなったら、相手は別の策を考えたり、 他の人を探す必要があるかもしれないからです。 ですから、引き受けないとしたら、 できるだけ早く返事をするように心がけています。
とはいえ、できるだけ早く返事するといっても、 知らない人から仕事の話が来てお断りするときに、
「断ります」
とだけ書いたら、さすがに問題がありますね。
私はできるだけ「お声がけいただいてうれしいのですが」など、 自分の正直な気持ちを添えるようにしています。 実際、お仕事をオファーしていただけるのはうれしいことですから。
ひとこと添えるというのは、 依頼した人という「読者」のことを考える行為だと思っています。 つまり、自分がいま書いているメールの読者は誰なのかを想像するということ。
お互いに話したことがあり、 仕事の内容について率直なやりとりしているときには、 儀礼的なことはほとんど書かず、 短く率直に書くことも多いです。
仕事相手に結城は、
「以下、誤解を避けるために率直に書きます」
というフレーズを使うこともよくあります。 もちろん、率直に書いたら怒り出しそうな人には使いません。
メールはすなわち相手とのコミュニケーションですから、 相手次第、状況次第で臨機応変に考えないとまずいと思っているのです。
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誤りの指摘の話。
「ロマンティック数学ナイト」という数学イベントがあります。 このイベントは、社会人向けの数学個別指導教室を運営している 「和から(わから)株式会社」が企画したもので、 次回が第4回目となります。
◆ロマンティック数学ナイト
http://romanticmathnight.org
結城はイベントには直接参加していませんが、 代表取締役の堀口智之氏からのお声がけがあったため、 ボランティアの問題出題で企画を応援しています。
次回の開催はクリスマスイブとのこと。 作成した問題をPDFにして先日運営さんに送付しました。
ややあって、運営さんから、
「出題、まちがってませんか?」
というメールをいただきました。 そのメールをいただいたとき、結城は内心、
「いやいや、問題でミスがあってはいけないので、
送付前に30回以上も見直したし、自分で解いてみましたよ。
まちがってるわけないですって」
と思いました。正直なところ。
しかしながら結城は、自著の 『数学文章作法 執筆編』の中でこんなことを書いています。
「誤りの指摘に対して、
著者はそれが本当に誤りなのかどうかを判断します」
(『数学文章作法 執筆編』第6章より)
誤りだと指摘されたことがあったら、 著者は「本当に誤りなのか」を判断する。 自分でそれを実践できなくちゃ、恥ずかしいですよね。 ということで、指摘されたところを確認してみました。 すると……まちがっていました!
凡ミスではあるのですが、誤りは誤り。 さっそく修正して運営さんに再送したという次第。
他者の目というのはなんと貴重なことでしょう。 まったく、誤りの指摘というのは「傍目八目(おかめはちもく)」です。 事前に誤りを指摘してもらったことで、 結城はイベントでの出題で恥をかかずに済んだともいえますね。
「誤りの指摘に対して、
著者はそれが本当に誤りなのかどうかを判断します」
これって、わざわざ言うまでもないほど当たり前に聞こえます。 でも、それを「実行する」のは本当に大事なことなんですね。
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クリスマス・イブの話。
ことはちゃん(いのちのことば社) @kotobasha が、 こんなツイートをしていました。
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クリスマスQ&A(Q16)クリスマス・イブは「クリスマスの前の日」?
イブは「前日」ではなく「夕方(イブニング)」のこと。
古代ユダヤでは、一日は日没から始まるとされており、
キリストの誕生日であるクリスマスも、
24日の夕刻から25日の夕刻までとされた。
#クリスマスあるある言いたい
https://twitter.com/kotobasha/status/806414272318226432
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一日が日没から始まっていたという話は知っていましたが、 「イブ」が「イブニング」のことだというのは知りませんでした。 ということは、クリスマス前々日のことを「クリスマス・イブ・イブ」 と呼ぶのは厳密には正しくないのですね(私はよく言っちゃう)。
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「しやせまし、せずやあらまし」と思うこと。
結城の昔話。
むかしむかし、「Perlクイズ」という無料メルマガを発行してたんですよ。 私がお題を出して、 購読者がPerlでコードを書くという購読者参加型のメルマガ。 今にして思えば解答者がたいへん豪華でした。
そういう無料メルマガを出したきっかけは忘れてしまいましたが、 たぶん、
「こういうの、やってみたいな」
という素朴な気持ちだったんじゃないかと思います。 そして「やってよかったな」と思います。 たいへん自分の勉強になりましたし、 とても楽しかったのを覚えています。 本にもなりました。
自分の「やりたいこと」は、 時間が経つとどんどん変化していくものです。 何かを「やりたい」と思ったら、 思い切って「やってみる」のがいいですね。
ネットでのちょっとした企画は、費用もほとんど掛からず、 すぐに始めて、すぐに終わることができます。 うまく宣伝すれば、たくさんの人を巻き込んで楽しいことができます。 失敗しても、それもまたいい経験です。
兼好法師は徒然草98段で、
「しやせまし せずやあらまし とおもふことは
おほやうはせぬはよきなり」
(しようかな、しないほうがいいかな、
ということはだいたいしないほうがいい)
と言っています。 でも、現代なら「やろうかな。どうしようかな」と思ったら、 まずは、やってみるのが吉じゃないかなと思います。
「やりたい」と思うタイミングが重要。
「やりたい」と思うことには、自分の気持ちが向いています。 そこには、自分にとって必要な要素が隠れている可能性が高いです。 それを確かめることは、 決して無駄にはならないんじゃないでしょうかね。
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問いかけ形式のタイトルの話。
先日「風邪のひきはじめに葛根湯は効くか?」という記事を見かけました。
◆風邪のひきはじめに葛根湯は効くか?
http://www.asahi.com/articles/SDI201612094378.html
この記事を一読して、心の中にもやもやとしたものが残りました。 医学的な内容がどうこうというわけではなく、 文章の書き方の話として気になる点があるからです。
この記事のタイトルは、
「風邪のひきはじめに葛根湯は効くか?」
のように問いかけ形式になっていますね。
しかしながら、記事を読んでいくと、 この問いかけに対する答えは明確に書かれていません。
記事の末尾の方では、以下のように書かれています。
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結論を言うと、
風邪のひきはじめに飲んで風邪の悪化を予防する
と証明された薬はいまのところありません。
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この「結論」はぼんやりとした答えを与えていますが、 タイトルの「風邪のひきはじめに葛根湯は効くか?」 に直接答えているわけではないと感じます。
「効くか?」という問いかけに対する答えというのは、 ざっくりいえば、以下の三種類のどれかです。
・効く。
・効かない。
・効くとも効かないともいえない。
たとえば、もしも以下のように書かれていたなら、 タイトルに対する答えが書かれていると言えるでしょう。
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ですから、風邪のひきはじめに葛根湯を飲んでも、
それが効くとはいえません。
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ここでのポイントは、タイトルで使った言葉である、 「風邪のひきはじめ」や「葛根湯」や「効く」 などを再度使って答えを書くところにあります。 同じ言葉を使って答えを構成すれば、 タイトルでの問いかけへの答えが書かれていることが明確になります。
もちろん、文章の書き手としてそこまで言い切るのは本意ではない、 という場合もあるでしょう。補足事項が重要だったり、 前提条件の方に重きが置かれたりする場合はあります。 その場合でも、問いかけに対する答えはきちんと書き、 その上で、補足事項や前提条件を強調することがよいと思います。
たとえば、補足事項として、
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しかし、飲んでも効かないというのは、
葛根湯に限った話ではなく、
市販の総合感冒薬でも同じなのです。
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などと続けば、読者の納得感は増すでしょう。 著者が問いかけにきちんと答えを与えることで、 読者は著者が書く文章に対して一種の「信頼」をおくからです。
「問いかけ形式のタイトルを使ったときには、 その問いかけにきちんと呼応した答えを書く」というのは、 《読者のことを考える》という原則に合致しています。 なぜなら、問いかけ形式のタイトルを見て読み始めた読者の多くは、 その問いかけに対する答えを求めて読み進めているからです。 文章の最後まで来たのに明確な答えらしきものが書かれていなかったら、 一種の失望感を抱くでしょう。
著者がせっかく専門知識を持っていたとしても、 ちょっとした言葉遣いで読者の納得感が得られないのはもったいないですね。
なお、宣伝になりますが、 これに類した話は拙著『数学文章作法 基礎編』の第6章「問いと答え」 にも出てきます。
◆『数学文章作法 基礎編』
https://mw1.hyuki.net
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クーポンの話。
ドミノ・ピザがおもしろいキャンペーンをやっていました。 「年末クーポン大そうじ祭」と称して、 「ドミノ・ピザ以外のどんなクーポン券でも、期限切れでも、 割引します」というキャンペーンだそうです。
ライバルピザ会社のクーポン券はもちろんのこと、 任意のクーポン券が使えるという不思議なキャンぺーンです。
◆ドミノ・ピザ「年末クーポン大そうじ祭」
http://www.dominos.jp/topics/161205_m.html
結城は最初、 このキャンペーンの意味がわかりませんでした。 でも、少し考えてみると、 とても頭がいいキャンペーンであることに気付きました。
実質上、単なる「年末セール」であるにも関わらず、 以下のようなメリットが生まれるからです。
・話題性を生む
・自社でクーポン券を印刷する必要がない
・他社のクーポン券を消費させてしまう
・顧客がどんなクーポン券を持っているか調査できる
こういう企画を考える人はとても頭がいいと思います。
ところで、こういう企画をすべての店がやりだしたらどうなるでしょうね。
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能力評価の話。
疲れているときや、凹むできごとがあったときや、 失敗したときや、頭がごしゃごしゃているときや…… 気持ちが萎えるときには、つい、
「自分には能力がない」
などと思ってしまいがちです。 でも、本当にそう思うなら、 自分の判断も信じない方がいいですね。
「自分には能力がない」という人は、 自分自身の評価自体もあてにしちゃダメです。 多くの人は、
「自分には能力がない」
といいつつも、
「自分には『自分には能力がない』と評価する能力はある」
と思うらしいのです。不思議です。
若いときも、歳とってからも、 人はどうしても自分の能力が気になるものです。
自分は、うまくできるのか、ちゃんとできるのか、 まっとうにできるのか。
もちろん物事は、うまくできるに越したことはありません。 でも、うまくいかなくてもいいんですよ。 ほんとに。
現在の自分の判断基準で「うまくいく」だけが人生ではありませんから。
うまくいくときもあれば、うまくいかないこともあるものです。
これまではだいたいうまくいってたのに、 あるときからガクッとうまくいかなかったりすることもあります。 確率変数みたいなもんで、散らばるのが普通です。 平均を見たり分散を見たりしつつ、 ジグザグ進むのが人生の妙味。
お互い、じっくり行きましょうね。
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約18年前の文章。 明日を悩む若い人へ。
http://www.hyuki.com/story/youth.html
約16年前の文章。 明日を悩む若い人へ。
http://www.hyuki.com/dig/nos.html
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それでは、今回の結城メルマガを始めましょう。
今回も前回と同じく、 いささか「もがいている」感がある号となりました。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- 楽しみつつネットで学ぶ
- ノブレス・オブリージュ
- 愚かな人ほど花を見る
- ネットリテラシーと数学ガールにおけるコミュニケーション
- 「自分の頭で考える」ということ
- おわりに
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