結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年7月19日 Vol.225
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
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Vimの話。
結城はふだん、Vimというテキストエディタを使っています。 先日、formatprg という機能を知りました。 この機能は簡単にいえば、
指定した範囲のテキストを、
好きなプログラムに入力として与え、
そのプログラムの出力でもとのテキストを置き換える
というものです。通常はテキストの整形処理に使います。
この機能を応用すれば、 自分好みのテキスト変換を外部のプログラムで自由に行えることになります。
たとえば、Vimの内部からpandocを起動したり、 箇条書きのマル印を付加したり、インデントを着け直したり、 一部をHTMLに変換したり、LaTeXに変換したり、 などなど、自在にテキスト変換を行えます。 もちろん、プログラム次第ではということですが。
たとえば「範囲指定した一行目に item と書くと、 残りの行の先頭に item という文字列を入れる」 みたいなプログラムを作ることができます。
言葉で説明してもよくわからないですよね。 動画にしてみました。
◆Vim formatprg
https://youtu.be/YEwTkvlono8
もちろん、こういう処理はVimに内蔵されているスクリプト言語である Vim scriptを使えば実現できますが、 その処理を自分の好きなプログラミング言語で書けるのがうれしいのです。 たとえば、Rubyで書くと以下のようになります。
◆formatprgの例
https://gist.github.com/hyuki0000/db4572c5ece783755ff0875e05a10bcd
一般に「自分がタイプしやすいテキスト形式」と、 「自分が欲しいテキスト形式」とは異なるものです。 このformatprgを活用すれば、自分のタイプ量を減らして、 自分が欲しいテキストを作りやすそうだな、と思いました。
なお、formatprg を知ったのは、ssh0さん(@ssh0r0ta)による、 以下の記事がきっかけです。感謝します!
◆TeXで書くのめんどくさい部分は
markdownで書いちゃえば最強じゃないかな?【Vim + pandoc】
http://qiita.com/ssh0/items/679ac9dd3c33b0e5cd90
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整理の話。
iPhoneのKindleアプリでよく電子書籍を読みますが、 Kindleアプリで本読んでいる人って、 たくさんの本をどうやって整理しているんでしょう。
Kindleアプリで本を読もうとすると、 フラットにアイコンが並びます。 それで管理できるのはせいぜい数十冊くらいでしょうか。
Kindleには「コレクション」という蔵書をまとめる機能がありますが、 それでは、焼け石に水だと思うのです。
結城はいわゆる「自炊」をして、紙の本をPDFにしています。 さっき数えたら987冊ありました。 それはすべてDropboxの一つのディレクトリに入れてあるので、 いわばこちらもフラットに並んでいるのですが、 Kindleに比べて違和感はありません。
というのは、本はシンボリックリンクを使い、 ジャンルごとや仕事ごとに複数のグループに分けられているからです。 実際に読むときには987冊の中から目視で探すわけではありません。
UIの問題なのか、何なのかわかりませんが、 Kindleでたくさんの本をさばけるようになってほしいと思います。
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Web連載と学びの話。
Web連載「数学ガールの秘密ノート」は毎週金曜日、cakesで連載しています。 今週は新シーズン「広がる複素数」が始まって三週目になりますね。
◆Web連載「数学ガールの秘密ノート」
https://bit.ly/girlnote
Web連載の準備は毎日少しずつ進めています。 「今週はどんなことを書こうかな」と考えるのは楽しいものです。
先日、Web連載の準備のために参考書を調べていて、
「この概念なら、こういう用語の方がピッタリくるんじゃないかな?」
と気付いたことがありました。 そして参考書の次のページをめくると、まさにその用語が登場!
「なるほど! やっぱりそれでいいんだ!」
と感激です。数学って楽しいですねえ!
と、そこまではよかった。
やや悲しい出来事もありました。 それは私が感激した参考書のまさにそのページに、 私の書き込みがあったこと。 欄外に興奮した筆跡で「なるほど!」と書いてあったんです。 すっかり忘れていましたよ……。
Web連載の準備にはいろんなことをやります。 先日は、道を歩きながら、
来週のWeb連載に出てくる話の流れを、
全部《そら》で思い出してみましょう!
というコーナーをひとりで楽しんでいました。
連載記事に登場する数学的概念をひとつひとつ思い浮かべ、 それに対して数学ガールたちがどんな意見を出すか、 どんな質問が飛び出すか、 そういう数学トークに耳をすませるという「準備」です。
何もないところでそらんじることができれば、 理解している証拠なので、 結城はときどきそうやって自分を試します。
その「準備」は道を歩きながら行いますので、 本を調べることはできませんし、紙に書くこともできません。 ですから、思い浮かべた数学的概念の正しさは、 非常に簡単な《例》を使って確認します。 考えたことが正しいと暗算でも確かめられる例を作るのです。 そのような「準備」はほんとうに楽しい知的活動です。
結城がそんなふうに自分で考える数学的概念というのは、 数学者からみればそんなに難しいものではありません。 でも、難しいかどうかは重要ではないのです。 ただ、数学的な概念を思い浮かべ、 小さくて適切な例を作り、それをいじりまわすという活動自体が楽しいのです。 それは、パズルを解いているような、美術品を眺めているような、 工芸品を手に取っているような楽しみです。
数学的概念を操作することが楽しいのは、 自然界の法則に支配される必要がなく、自由に考えていいからです。 論理的な一貫性、つじつまが合っていれば、 常識とは離れていてもかまわない。プログラミングと似ていますね。 その意味で、前シーズンの「数を作る」というのは、 特に楽しいテーマでした。
結城は数学の専門書を書いているわけではないので、 あちこち論理をすっとばしますが、 私が感じているわくわくを少しでも読者に届けたいという気持ちで、 毎週書いています。 そしてもちろん、興味を持った読者がさらに専門的な本へ進んでもらえるなら、 望外の喜びといえるでしょう。
学ぶというのは、ほんとうに楽しい活動です。
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では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- esa社訪問記 - 仕事の心がけ
- 「思い込み」を殺すために
- 中高生が数学を学ぶ秘訣 - 教えるときの心がけ
- 孤独の中で決断する仕事 - 仕事の心がけ
- おわりに
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