結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2016年4月5日 Vol.210
はじめに
おはようございます。
いつも結城メルマガをご愛読ありがとうございます。
四月です! 春です!
桜の季節……なのですが、 ここ数日体調を崩して家にこもっていたので、 あまり桜を見ることができていません。
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最新刊の話。
『数学ガールの秘密ノート/場合の数』の準備は着々と進んでいます。 すでに結城の手から原稿は離れ、編集部の手からも離れ、 お仕事の中心は印刷所の方に移りつつあります。
結城に残っている仕事は、 刊行と同時に書店さんに送られる本にサインをすること。 これは4月半ばになるでしょう。
毎回毎回、本を作るたびに思うのですが、 著者の側で「さ、これで原稿はだいたいできあがったな」という状態から、 書店さんに並ぶまでのギャップはとても大きいですね。
恐らく「原稿はだいたいできあがったな」という状態でも、 多くの読者さんが読んであまり大きな問題は起きないと思います。 話の流れが大きく変わることは少ないからです。
でもその状態から、 編集さんやレビューアさんの指摘を受けて、 微妙な調整を何度も繰り返していく。 「てにをは」を直し、図版を作り直し、問題を入れ換える。 そうすることで、目に見えない品質向上が積み重なっていく。 ぎりぎりまで「最後の詰め」として、改善を続ける。
(てなこと書いていたら、 編集部から最終チェック用のPDFがやってきました。 図版に一箇所ミスがあったという指摘と、 「付けよ」は「付けよう」のミスではないかという指摘。 編集部もぎりぎりまで「最後の詰め」を行っています)
この最後の詰めがあるかないかで、 「文章を読んだ読者に、意味が伝わる」 という状態から、 「文章を読んだ読者が、言葉にできない何かを得る」 という状態に変わるのかもしれない。
そしてまた、最後の詰めがあるかないかで、 ロングセラーとして生き残る本になるかどうかが変わる。
そんなふうに思います。
◆『数学ガールの秘密ノート/場合の数』
http://note7.hyuki.net/
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大学入試の話。
平成28年度鹿児島大学の入試で、 結城が書いた『数学文章作法 基礎編』からの出題がありました。
出題されたのは、一般入試(後期日程)の「小論文」(工学部)。 問1から問3までのうち、問2が結城の文章からの出題です。 結城が書いた「解説文」を踏まえて設問(1)と設問(2)に答えるように指示があります。
設問(1)は、結城が書いた「悪い例」と「改善例」が提示され、 「上の改善例では悪い点をどのように改善しているか」 という出題。設問(2)は、 ある図形の作図手順を文章で説明せよという出題です。
問2を抜粋したPDFを以下にリンクします。
◆平成28年度鹿児島大学入試問題より(問2)
http://img.textfile.org/2016-03-31_exam.pdf
◆『数学文章作法 基礎編』
http://mw1.textfile.org/
結城の文章は過去にも入試などで何回か題材になっています。
法科大学院全国統一適性試験(2011年)では、 「長文読解力を測る問題」として『暗号技術入門』からの出題がありました。
佐賀大学医学部の入試問題(2011年)では、 『数学ガール』の第3章「ωのワルツ」からの文章が引用され、 数式の穴埋めと下線部分の数学的記述を図示せよという出題がありました。
いずれにしましても、 私が書いた文章を《入試》という大切な場面で使っていただけるなんて、 たいへん光栄なことですね。
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会話の話。
最近、Amazon プライムビデオでPeeping Lifeという短いアニメ連作を見ています。 味わいを伝えるのが難しいので説明はしませんが、 日常の中の会話を微妙にねじっておかしみを産むというコメディです。
結城が気に入ったのはリアリティについて。 普通のドラマだと、登場人物の発言がぶつかることってほとんどないですよね。 Aさんが話しているときはBさんが聞き、Bさんが話すときはAさんが聞く。 両方が同時に話すときというのは、そういう劇的な効果を狙ったときだけ。
でもこのPeeping Lifeでは、 登場人物の会話はしょっちゅうぶつかります。 ちょうど、それは私たちの日常会話と同じように。 そして、無意味のように見える「間」もあきます。 これもまた私たちの日常会話と同じ。
Peeping Lifeのストーリー自体はたいしておもしろくはないのですが(失礼)、 この会話のぶつかりや「間」が自然で、ついつい見てしまいました。 ほんとうにリアルな他人の会話をのぞいている気持ちになるのです。 このタイトルPeeping Life(生活ののぞき見)の通りです。
一個一個の物語は短いので、 移動のちょっとした時間にiPhoneで観ていたのですが、 Peeping Lifeを見過ぎた影響で、 電車の中の何気ない会話が全部Peeping Lifeに聞こえてしまう という不思議な気分になりました。
特に「おもしろいですよ!」とお勧めするものではないのですが、 いちおうご紹介。
◆Peeping Life(シーズン1)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/B00U20SKA0
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サイコロの話。
普通のサイコロは正六面体で、目は1,2,3,4,5,6です。 向かい合わせになった面の《目の和》は7になります。 ところでこのルールを満たすサイコロの作り方は、 ちょうど二種類ありうる……というのは、 頭の中で想像できますか。
二種類あるのは想像できるし、実際に作ることもできるとして、 「三種類はありえない」ことは証明できますか。
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校正モードの話。
自分の原稿を校正していると、頭が「校正モード」になります。 どんな文章を読んでも、その内容よりも表現の方に意識が向かうモードですね。 頭が校正モードになっていると、Webページや小説などを読むのが苦痛になります。 内容に没入することができず、文章を修正したくなるから。
頭が校正モードのときには、無意識的に「自分がすでに知っている知識を使わずに、 文章から得られる情報のみを使って読み進む」ことが多くなります。 つまり、自分の知識で行間を読むことなく、 虚心に文章を読むことで、文章の良くない点を見つけるわけですね。
自分の原稿を校正するときはそれでいいのですが、 情報収集のために文章を読もうとするとたいへんです。 自分の知識を使わないために、意味がよく理解できず、 何度も読み返すはめになるからです。
先日読んだ技術記事ではAとBという二つの異なる用語を、 一つの概念に対して割り当てていました。ひどい話です。 たとえば「Aは○○である。そこでBを△△する」 と書いてあるAとBが同じものを表してる。 これは意味を取るのが難しい。
異なる用語を一つの概念に割り当てたり、 あるいは逆に一つの用語を異なる二つの概念に割り当てると、 意味を取りにくい文章ができあがります。 ……「そんなこと、当たり前だろう」と思いますよね。 でも、そういう文章は多いんですよ。 なぜかというと、書く人が用語の使い方を意識しないから。 もしくは、文章を読み返さないから。
文章の一部を指さされて、 「この用語Aは、用語Bと同じ概念を表していますよ。 用語を統一した方がいいんじゃないですか」 と言われれば、多くの書き手は文章を直すでしょう。 ポイントは、誰からも指摘されなくてもその「直し」ができるか。
言われてみれば当たり前のことでも、 言われなければなかなか気付きません。 言われなくても気付けるか。直せるか。それはとても大切で、 しかも難しい。意識的な練習が必要ですね。
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では、今週の結城メルマガを始めましょう。
どうぞ、ごゆっくりお読みください!
目次
- はじめに
- まず、書きましょう - 文章を書く心がけ
- 愛する人と交わす最後の言葉
- 数学の問題を出す楽しみ
- お金の話 - 仕事の心がけ
- おわりに
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