こういう記事があった。

クラウドソーシングの向かう未来は?クラウドワークス騒動まとめと考察

クラウドワークスというのはインターネットを使った求人だ。これこれこういう仕事があるからやりませんかという依頼をクライアントが出し、それを見た人が応募してお金をもらうというシステム(インターネットサービス)だ。

このシステムで労働搾取が起きやすいのである。理由はいろいろあるが、けっきょく供給が需要を上回っているのである。求められる仕事に対して働きたい人の数が多い。だから価格が破壊され、非常に安い値段で働くことになる。

ではなぜ供給が需要を上回るかといえば、それはそういう働き方をしたい人が多いからだ。ノマド的に働きたい人が多いのである。「自分の好きな時間に好きなだけ働く」というスタイルが好まれている。これがある意味お金にも勝る。だから低い報酬でも働いてしまうのだ。

ではなぜ多くの人が「自分の好きな時間に好きなだけ働く」ことを好むかといえば、それ以外の時間が自由にならないからだ。それは、他の仕事をしているという場合もあるだろうし、プライベートが忙しいということもあるだろう。クラウドワークスで働く人は、基本的に他の何かで時間を縛られている。だからクラウドワークスの提供する仕事をありがたいと思ってしまう。

ここに現代を読み解く鍵がある。端的にいって、現代人は時間に縛られている。
しかし、昔に比べると格段に便利になった世の中で、どうしてそんなに時間に縛られているのか?
一昔前は、家事にとても時間がかかった。移動するのも時間がかかったし、連絡を取るのが一苦労だった。何もかもが時間がかかった。
しかし現代は便利な家電、発達した交通網、あるいはスマホなどで、家事や雑事に追われる時間は極端に少なくなった。だから、現代人は時間がむしろ余るようになったはずではないか?

実は、ここに大きな問題が潜んでいる。現代のいろんな問題は、この「時間が余るようになった」ということに起因している。

例えば、矛盾するようだが現代人は時間を持て余すようになったからこそ、時間に縛られるようになった。
どういうことかというと、人間は暇であることに絶えられない。それは、DNA的にそうなっている。稀に「暇でも大丈夫という」人がいるが、実は、彼らは単に暇を感じていないだけであって、暇というものの定義が他者と違うのである。人は誰しも、暇になると不安が押し寄せてくるから、その精神的重圧に耐えきれない。

だから、人は暇を感じないように生きようとする。これはある意味便利な習性で、だからこそ人は勤勉に働くことができる。
ところで、現代はさまざまなものが便利で、隙間時間が数多くできるようになった。すると、人々はそれに不安を感じるようになった。特にこれまで忙しくしていた人たちにとっては、それはあまり経験したことのない種類の不安だったので大きな恐れを感じた。
それで、その恐れを感じたくないがため、やがて過剰にスケジュールを埋めるようになったのだ。あらゆる手段を使って自分を忙しくさせようとするようになった。

そういうふうに、現代の便利さは「暇になるのが恐い」という人たちを多数生み出した。そういう人たちは、ちょっとの隙間時間も恐いから何かで埋めようとする。それも、何か有意義なもので埋めようとする。もちろん、そういう時間にゲームなど遊びを楽しむ人もいるが、生真面目な人はそれが絶えられないので、より生産的なことをしたがる。

そういうときに、仕事というのは最強の暇潰しなのだ。もちろん「勉強」という手段もあるが、これは成果が見えにくいため今一つ生産性を実感しにくい。それに比べると仕事というのはするたびに報酬という目に見える成果を得られるので、満足度が高い。いや、不安解消度が高いのである。

そういう暇が恐い人たちというのは、ぼくが若い頃にもぽつぽつといた。その頃、放送作家のある知人は「忙しい」が口癖だった。「休みたい」という口癖もあった。「もう○○時間寝てない」「もう○○日休みがない」というのもよく言っていた。

それで、最初は本当に忙しいのかと思って気の毒がっていたが、そのうちそれがあまりにも頻繁なので、やがて周囲からこう呼ばれるようになった。
「忙しぶってる」
彼は、本当に忙しいところもあったろうが、それ以上に忙しぶっている要素が大きかった。なぜかといえば、そうやって忙しぶることで、自分自身に暗示をかけ、暇になることの恐怖を抑えていたのだ。
そういう人がいつから現れ始めたのかは分からないが、クラウドワークスが搾取の温床になりやすい背景には、そうした現代人の暇に対する恐怖があるだろう。

つまり、クラウドワークスが提供している真の価値は、報酬ではなく「時間の有意義な潰し方」なのである。だから、クラウドワークス以上に有意義に時間を潰せるサービスが現れれば、供給は下がるので価格は上がっていくはずだ。