ドラッカー学会の理事に佐藤等さんという公認会計士の方がいらっしゃって、ドラッカーの読書会を開いたり、セミナーを運営したり、「実践するドラッカー」という本をシリーズで出されるなど、ドラッカーの普及に多大な尽力をされている。
ぼくは、『もしドラ』を書いた直後の2009年暮れに行われたドラッカー学会で初めてお会いし、そこから親しくさせていただいているのだが、その佐藤さんが塾長を務める「ナレッジプラザ」というビジネスセミナーが北海道の札幌で行われたので、参加してきた。
このセミナーの目玉は、なんといってもドラッカーの著作のほとんど全てを翻訳している上田惇生さんの講演があることだ。ぼくは上田先生とご無沙汰してしまっているということもあって、ぜひお目にかかりたいと考え、参加した。
結果、上田さんの講演はもちろん、それ以外の方々の講演も、刺激的で、示唆に富み、いろいろ考えさせられるものだった。そうしてぼくは、そこでさまざまなものを受け取った。
中でも特に、「自分をタレントの『嵐』だと思わなければならない」ということに気づかされた。そこで今回は、そのことについて書いてみたい。
ドラッカーの「マネジメント」は、ドラッカー自らが「基本と原則」と銘打ったように、非常に基礎的なものなので、取りあげられる考え方はいつもだいたい同じである。
例えば「顧客は誰か?」や「あなたにとって成果とは何か?」という問いを、自分自身に問いかける。それに対する答えを見つけようとする中で、さまざまなことに気づかされ、経営が改善されていくのだ。
この方法は非常に示唆的で、かつ簡単でもあるので、すぐにでもやってみたくなる。
ぼくも、講演を聞きながら、つい自分が運営する「YouTubeチャンネル」に、その考え方を当てはめてみた。というのも、これまで、YouTubeチャンネルの運営をドラッカー的に考えたことがなかったことに、このとき気づかされたからだ。
ぼくは、2014年の4月からYouTubeチャンネル「HuckleTV」を運営している。7月10日までの3ヶ月ちょっとで、計73本の動画を配信し、最近ではほぼ毎日新作をアップしている。
ただ、登録者数は245人と、いまだ低い水準にとどまっている。なかなか伸びてこない。
そこで、そういう苦境を脱するために、ドラッカーの考え方を自分に当てはめてみようとしたのだ。
まず、『「HuckleTV」にとっての顧客は誰か?』ということを考えた。「顧客は誰か?」と問うことは、ドラッカー経営学の中でも基本中の基本だからだ。
ただし、それを問うとき、他の経営学者は「自社が提供するサービスと、現在の市場とを分析し、両者の折り合いがつくところをターゲットと想定せよ」と教える。しかし、ドラッカーのやり方は少し違う。ドラッカーは、「予期せぬ成功に着目せよ」というのだ。今いる顧客の中で、自分が想定していなかった人物こそ、本物の顧客だ――というのである。
そこでぼくは、今の「HuckleTV」をどういう人が見てくれているのかを考えた。そして、そこにおける「自分が想定していなかった人物」は誰かを考えた。
すると、そこで出てきたのは全く予想外の答えだった。というのも、今の「HuckleTV」を見てくれているのは、ほとんどがぼくの「ファン」だったからだ。ぼくや、ぼくの会社である「源氏山楼」のファンだった。ぼくという存在を、一個の「タレント」として見てくれている人たちだった。
そういう人たちが、「HuckleTV」を面白がって見てくれていた。楽しみにしてくれていたのだ。
これは、一見当たり前のことに思えるかもしれない。ファンが応援しているタレントの番組を見るのなど、当然のことだ――と。
しかしながら、実はそれはちょっと違う。
例えばぼくの「本」は、ぼくのファンだけが買うわけではない。ほとんどはファン以外の人が買う。あるいは岩崎夏海クリエイター塾の生徒も、必ずしもぼくのファンだけが受講生というわけではない。それ以外の人の方が、むしろ多い。
そこから分かるのは、「YouTube」という媒体は、タレントとファンとを強く結びつける効果が強い――ということだった。動画というのは、何よりファンが見たいものなのだ。だから、YouTubeで登録者数を増やしていくためには、ぼくやぼくの会社のファンを増やす必要があったのだ。
ぼくはこれまで、そうした視点が全くなかった。YouTubeも、本と同じように「面白いもの」を作れば多くの人が見てくれる、と勝手に思っていた。
しかし、それは間違いだった。YouTubeには、本以上に「ファンが見て面白い」と思うような特性があるのだ。
そう考えると、他のYouTubeチャンネルも、登録者数が多いのはファンが多い人たちであった。YouTubeは、タレントとファンとを強く結びつける媒体だったのだ。
そこでぼくは、こう思った。
「ぼくやぼくの会社は、タレントの『嵐』のように振る舞わなければならない」――と。
なぜなら、ファンというのは「スターとして振る舞う人」についてくるからだ。ファンは、輝きのある人についていく。そしてスターは、そういうファンの期待に応えるため、自ら輝こうとし、その輝きを伝えていこうとする。何よりスター自身が、スターであろうとするところからスタートするのだ。
ぼくやぼくの会社には、そういう考え方がこれまでなかった。ぼくはこれまで、スターであろうとしたことなど一度もなかった。
しかし今日から、その考え方を導入することにしたのである。ぼくやぼくの会社は、自分たちを「嵐」だと位置づけることにした。そうして、その方針に則って、これからYouTubeチャンネルを運営していくことを決めたのである。
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