インターネットというのはスピードが速い。圧倒的に速い。
そのスピードの速さに、やがて発狂する人々が現れるだろうと予測する。


「ムーアの法則」というのがある。半導体の進化は、指数関数的に為されるというものだ。
実際これまで、約18ヶ月ごとに2倍になってきた。これがいつまで続くかは分からないが、今後も、コンピューターはますます速くなるだろうと言われている。

これと似たような現象が、インターネットの世界でも起きている。インターネットの世界で何が起きているかと言えば、「一つの話題について人々の飽きるスピード」が速くなっているのだ。これもだいたい、18ヶ月ごとに2倍のペースで速くなっている。

8年前――ちょうどはてなブックマークが始まった頃は、一つの話題で10日間は持った。
しかし6年半前には、だいたい5日しか持たなくなった。
5年前には2日半しか持たなくなり、3年半前には30時間くらいしか持たなくなった。2年前には15時間しか持たなくなり、そして今は、ほとんど7時間くらいしか持たなくなった。その日の昼頃に盛り上がった話題でも、夜になるとほとんどの人が飽きてしまって、すぐに忘れ去られるような事態になってしまったのだ。

なぜそうなってしまったか、理由は分からない。
しかし、それがどのような事態を招いたのかということなら、よく分かる。
それは、一種の狂乱状態を引き起こしたのだ。またそれによって、発狂してしまう人たちが現れ始めたのである。


インターネットというのは、話題になった瞬間にはパッと燃えあがるように火がつくので、興奮が大きい。スピードが速い分だけ、アドレナリンもより多く放出される。
しかもそれが、またパッと収まってしまうために、そのアドレナリンの余韻というものが、より強く心に刻みつけられるのだ。より強く、快感の記憶として脳裏に刻まれやすい。

簡単に言うと、中毒になりやすいのだ。それは麻薬のようなものである。
例えば、ランナーズハイという状態がある。へとへとになるまで走っていると、脳内から麻薬物質が出て気持ち良くなるという現象だ。
しかしこれは、そこに至るまでの導入部分が長いので、なかなか中毒症状にはなりにくい。そのため、それに溺れて身を滅ぼすという人もなかなか出てこない。ランナーズハイ中毒で死んだという人を、ぼくは寡聞にして知らない。

しかしながら、麻薬のそれは全く違う。麻薬は、打てば瞬間的に効くから、そこで得られる快感もまた大きくなる。しかも、それはパッと冷めてしまうために、快感の余韻もやっぱり大きくなる。

そのため、すぐにまたその快感を味わいたくなるのだ。だから、やめられなくなるのである。
そうして、中毒症状に陥ってしまうのだ。それは、麻薬自体に中毒性があるのはもちろん、そのスピードの速さも、そうした中毒性の一端を担っているのだ。

これと同じ現象が、昨今のインターネットにも現れ始めている。その中毒性に冒されてしまったインターネットジャンキーが、現れるようになったのだ。

そうしたインターネットジャンキーは、自分の提供した話題にパッと火がつくことの快感が忘れられなくなっている。それは忘れられるのも速いから、次から次へと花火を打ち上げないと、不安になったり、焦ったりするようになっている。

そうして、次から次へと話題になるような花火を打とうするのだけれど、当たり前の話だが、人間はそれほど数多くの面白いネタを持っているわけではない。面白い話を仕入れ続けられるある種の特殊な技能がない限り、それはすぐに種切れを起こしてしまう。

そういう種切れを起こしながらも、しかし中毒にかかっているために話題になることの快感を忘れられない人々は、やがてどのような行動に走り始めるか?
それは、自分で自分の実を切り刻むようになるのである。自分の体を切り刻んで、それをネタとして差し出すことで、話題になろうとするようになるのだ。

彼らは、普通の人ならやらないような突拍子もない行動を起こしたり、普通の人なら隠しておくような自分の秘密をさらけ出すようになる。
そうして、自らの生活やその後の人生に支障をきたすことも省みず、その刹那にだけ話題になろうと必死になるのだ。たった7時間の話題を得るために、その後の数十年間の人生を大きく左右するような行動さえ、起こすようになるのである。

それはまさに、自分自身の肉体を傷つけながら今この瞬間の快楽を貪る、麻薬患者とそっくりだ。ぼくは断言してもいいのだが、そのうち、インターネットの話題を得たいばっかりに、自分の人生にかかわるような重大事さえ、ネタとして差し出す人間が現れるだろう。
例えば、インターネットで花嫁を募集し、その人と実際に結婚してしまうような人物さえ現れるはずだ。彼は、その一部始終をインターネット上でのネタにし、そこで話題になることで、自らの中毒における飢餓感を満たそうとするのである。

しかしながら、最も怖いのは、やがて彼に襲いかかるだろう、その副作用だ。