字の発明によって衰えた人間の能力とは「記憶力」である。
字ができる以前、人は記憶を頭の外に残しておくことができなかった。だから、必要なことは全部覚えておく必要があった。

しかし字ができたことによって、記憶を外部保存できるようになった。だから、記憶する必要が少なくなり、その能力が落ちたのである。これまでのように全てを覚えておく必要がなくなったため、そこに脳のリソースを割かなくなったのだ。

では、それによって人間自体は退化したのか?
記憶力が低下したことで、何か問題は起きたのか?
そこで起きたことは、実は逆であった。人は、記憶に脳のリソースを割かなくなった分、発想力やひらめきに脳のリソースを割けるようになり、そちらの能力が上がったのだ。そうして、さらにさまざまなものが発明され、文明はより一層進歩したのである。エジプト文明やメソポタミア文明が花開いた根底には、そんな字の発明というものがあった。