経営というのは将棋に似ている。
昔よく、囲碁をしたり将棋をしたりしている人が、「なぜするのですか?」と問われ「経営戦略を立てるのに役立つのですよ」と答えていた。
それを見て、ぼくは「本当か? 実際は趣味でやっているだけで、遊んでいる後ろめたさを隠すためにそう言い訳しているのだろう」と訝っていたが、大人になってみると「それは必ずしも嘘ではなかった」ということが分かってきた。
ぼくが大人になり、実際に会社の経営に携わってみて思ったのは、「経営は将棋に似ている」ということだ。これは、必ずしも最近になって思ったわけではない。もうだいぶん前から知ってはいたが、あらためて思わされたということだ。
では、どういうところが似ているか?
将棋というのは、まさに「戦略を教えてくれる」ということである。
将棋は、先の見通しが立たない中で指す。勝ち負けがはっきりしない中で指すのだから当たり前といえば当たり前だが、その手がいいか悪いかはっきりしない中で指すということもある。文字通り「暗中模索」というやつだ。
そういうときに、「はっきりはしないけどたぶんこの手を指せばいいのではないか」という「戦略」がある。いくつかあるのだが、そのうちの一つが「攻防の一手」だ。
「攻防の一手」とは、それが攻めにも守りにも効いている、ということである。将棋には攻めの局面と守りの局面とがあって、それらはたいてい別れている。「捨て駒」などという言葉もあるくらい、攻めるときはどうしたって守りが薄くなるし、逆もまたしかりである。
しかし、そんな中にあって時折、攻めにも効いているが守りもまた堅くなるという「一石二鳥」の手がある。そういう手は文句なくいいから、分からない局面でも積極的に指せるのだ。
経営も、これと一緒である。
例えばぼくは、経営を上手くいかせるためには、売れる本を作って売上げを上げなければならないと考えていた。つまり「攻め」である。
しかしながら、これは「攻防の一手」とはいえず、実際あまり気の利いた戦略ではない。
そこで、ぼくは考え方を改め「攻防の一手」はないかと考えてみた。そうしたときに思い浮かんだのは、「既刊本を売る」ということだ。もっと具体的にいえば、作ったはいいがあまり売れず倉庫の肥やしになっているものを積極的にプロモーションする、ということである。
既刊本は、もう既にそこにある本なわけだから、編集費も印刷代もいらない。制作費はタダである。しかも、売れずに眠っていると倉庫代もかかるのでコストにさえなる。
だから、これを販売することができれば、制作費がかからない、倉庫代が減る、お金が入ってくるの一石三鳥なのである。それは、新しく本を作って売り出すよりずっとリスクが少なく、しかも成功したときの利幅が大きい。
そうなると、これに着手しないことが逆に負けたも同然となってくる。経営とはそういうものなのだ。
しかしながら、経営も将棋も楽しいのはなんといっても攻めているときで、だから新しい本を作ることの魅力は大きい。ぼくのアイデアを反映させられるという喜びもある。
それに比べると、既刊本を売ることはぼくのアイデアで作った本ではないから愛着はないし、しかも売れ残っている本を売るというのには独特の面倒くささも伴う。何か失敗の尻ぬぐいをするような面白くなさがそこにはある。
しかし、そうした面倒くささや面白くなさを乗り越えていかないと、経営も将棋も勝てない。だから、もし勝ちたいなら、それは避けて通れないのだ。
ところで、みなさんは植物はお好きだろうか?
ぼくはそれほど好きではないのだが、ぼくの母、あるいはぼくの母の母は、植物が好きである。
二人に共通するのは、植物を図鑑で調べるのが好きなことだ。きっと、庭いじりなどをしていると知らない植物に出くわし、それを調べてみたくなるからだろう。ぼくは、そういう庭いじりが好きな人、あるいは女性は世の中にたくさんいると思う。
ところで、岩崎書店の倉庫にこんな本があった。
タイトルからも分かるように、これは子供向け、しかも「男の子向け」に作られている。
おかげで、植物が好きで、しかも図鑑を見るのが好きな大人の女性に届いていない可能性が高い。
だから、この本をそういう人たちに届けると、面白がってもらえるのではないかと思った。この記事は、そのために書いた。
『ぼくのマメ図鑑』の特徴は、マメについて写真ではなく美しい絵で紹介しているということだ。絵本で、ページ数も限られているので、必ずしも網羅的ではない。だから、調べたいマメが出てきたとしても、必ずしもここに載ってはいないかもしれない。その点、図鑑としての弱さは否めないだろう。
しかしその分、眺めて楽しいものとなっている。マメというのは、植物そのもの、あるいは生命そのものが凝縮されているから、なんともいえない魅力と美しさを誇っている。この絵本は、そんな魅力や美しさを表現することに重きが置かれている。だから、この絵本を読んでいただければ、マメの美しさに、あらためて気づかされるかもしれない。
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