゙忠告には理由がある”
まだ三ヶ月ほど前の9月下旬、ニューヨーク滞在中の私のところへ日本の友人清水さん
ご夫婦が東京からやって来ました。
目的は他でもない鮭釣りです。
サーモン・フイシング(鮭釣り)は四、五年前に厳寒のアラスカはアンカレッジの
沖合いでダイナミックな釣りを敢行し、制限の5匹を釣り上げた経験があります。
ゆうに1メートルある大魚でエネルギッシュに泳ぎ回るのをボートに釣り上げる(網で
すくい上げる)のに大変苦労したのを今でもおぼえています。
さばいてもらった魚の身はニューヨークとロスの娘夫婦たちのうちへ空輸して大変喜ば
れたものでした。
さて今回の釣り場はニューヨーク市から車で6・7時間ほど行った(それでもニュー
ヨーク州内)カナダとの国境にも近いオンタリオ湖(五大湖の一つ)の湖畔から少し
離れたプラスキーという田舎町です。
山に囲まれた何の変哲も無い素朴で典型的なバックイースト(東部)の村という感じの
ところですが、この町の真ん中をその名もサモンリバー(鮭川)なる川が貫き流れてい
るのです。
さほど急流でもない清流のいたるところで流れの速い獺とよどみがほど良いコンビネイ
ションをなし素晴らしい釣り場を露呈しています。
早朝の日の出を待って釣りが許可開始されますが、その一、二時間前にはすでに暗闇を
ぬって川の両岸の水の中に釣竿を手にした釣り人が四、五メートルおきに立ち並び開始
時刻を待っています。
寒い夜気の中、腰の深さぐらいの冷たい水の中で立ったままです。
良い釣り場場を確保せんがための前哨戦です。
ゴム製のつなぎの防護服を着ているとはいえ夜中の清流の中ではさすがに冷えることで
しょう。
まさに’釣りキチ’共の祭典です。
上流、下流1キロぐらいの川べりにおよそ300人ほどの釣り人が一斉に釣り糸を垂ら
しフライングさせてる光景は壮観そのものです。
彼らのほとんどが近隣の町から車でやって来た白人達ですが、遠くの州から来ている者
もいます。
黒人の釣り人はほぼ皆無で、東洋人は我々3人だけでした。
私はそれほど釣りにファナテイック(酔狂)ではありませんが、友人の方はかなりの
プロで一昨年前にも此処へやって来て二、三匹釣っています。
日本へ持ち帰れないので現地の子供達にくれたら大喜びしたとのことです。
9月中旬ごろから産卵期を迎えお腹をはらました鮭が群れをなして川を上ってきます。
そう長くは無い期間ですので、鮭釣りに興味のある方はインターネットで Pulaski,
NYのsalmon fishing を検索してみてください。
釣れる人は一日に2、3匹も釣れていますが、なかなか難しく大半の人は一匹も釣れま
せん。
餌に食らい付くというより針で引っかけるのですが、大半は逃げてしまい釣り上げるの
が難しいのです。
私も2日間で3匹釣りましたが(引っ掛けましたが)糸を手繰り寄せている途中で3匹
ともに逃げられてしまいました。
友人の清水君は数匹に逃げられてしまいましたがなんとか1匹は釣り上げました。
しかしベテランの彼にしては2日がかりで1匹というのは不満で遅くまでねばっていま
した。
釣った鮭は翌日ロングアイランドはハンプトンの娘の別荘に持って行きバーベキューデ
にし、卵は清水君がイクラに仕上げて暖かいライスに乗せて美味しいイクラご飯となり
ました。
翌日はロングアイランドに延々と連なる葡萄畑のワイナリーを訪ね各種のワインを試飲
しました。
また今年の2月には寒い東京の冬を逃れて中米コスタリーカの首都サンホセにある私の
別荘に清水さんご夫妻が訪ねてきました。
街路樹のヤシの葉はサワサワとそよぎ、頬を撫でる涼風が爽やかな日本の初夏の気候
です。
今回の旅の目的は太平洋岸の浜辺に押し寄せる大海ガメの産卵の観察です。
それと、鯛やすずき、カツオの磯釣りです。
清水さん夫婦と私と私の元女房のマリアに友達のコスタリカ人の運転手の合計五人の
グループでサンホセを出発しました。
4時間ほどの距離である、先ずはアレナル火山の麓を流れる温泉川に向かいます。
火山の麓に鬱蒼と茂るジャングルを貫いてひとすじの川が流れています。
ふもとで沸いた熱い温泉湯がそのせせらぎに合流して程よい暖かさの温泉川となって
います。
水量も豊富で浅いところで川幅7、8メートルもあり、上流下流見渡せる視界に
百数十人が湯に浸っている一大露天風呂の川というおもむきです。
川床のあちらこちらからもブクブクと温泉が噴き出しており、なんとも言えぬ、自然の
中の温泉郷です。
きっと江戸時代以前の日本の温泉郷もこんなおもむきだったのでしょう。
温泉浴の人々はほとんどがアメリカ、カナダ、ヨーロッパからの若者達で和気あいあい
としたムードが漂っています。
数年前に来た時はこの川のずっと上流で、せせらぎがまだ冷たい小川のその傍に温泉が
噴き出していました。
その温泉が石で囲まれた窪池となって程好い露天風呂となっていましたが、湯に浸って
いると小さい川魚が冷たい小川の方からスーっと泳ぎ込んで来て、お湯にビックリして
慌てて飛び上がってUターンして戻るというハップニングに笑ったものでした。
次の日は太平洋岸の白浜のビーチ近くのモーテルに宿を定めました。この辺の砂浜に
海亀が大挙して産卵に来るのです。
我々五人は深夜の12時前に月明かりで足場を確かめながら道のない草地を横切り
ビーチへ出てきました。
水際から2、30メートルほど離れたヤシの木陰に陣取り腰を下ろしていました。
しばらく待っていると、水際にくろぐろとした大きな塊が海の中から出現しノソノソと
こちらに向かって歩いてきます。
我々の5メートルほど前まで来たところで歩きを止めてしばし休息というか周りの様子
を伺っています。
全長1メートルあまりの大きなウミガメです。
やおら手足のヒラを使いバシッバシッと砂を掘り始めました。
採掘作業がものの30分も続きます。
ウミガメの巨体が砂の窪地に沈みます。
今度は後ろ足を使いお尻の下にさらに深い穴を掘っています。
20分ほどもするとかなり大きなたて穴ができました。
この間ウミガメは一切休息しません。
大海亀がノソノソと砂浜に這い上がってくる頃に海岸パトロールの警備員がやって来
ました。
彼らはコスタリーカ国立大学の生物学科の学生でボランテイアでウミガメの産卵を監視
しています。
彼らの忠告に従い、見物客は皆静かにウミガメの傍に座り無言で携帯のライトも禁止
です。
彼らの灯す赤い薄ライトの下でウミガメがたて穴に卵を産み落とし始めました。
ピンポン玉ほどの大きさで、真っ白です。
次から次に産み落としています。
30分ほどもするとなんと6、70個の卵が穴いっぱいに産み落とされました。
産み終えると当然のことながらウミガメは砂をかけて卵を隠します。
多い時には100個近くの卵を産むそうです。
卵からかえった子ガメが砂の中から頭を出して砂の上に這い上がり、ゾロゾロと水際
へ歩いていく様をテレビなどで観た人は多いと思いますが、なんとも言えぬユーモラス
な光景ですね。
この産卵光景を観察してる間にもゾロゾロと他の大ウミガメが海から這い上がって来て
いました。
このウミガメの卵は精がつくというので高額で取引きされますが、違法行為なので警察
の監視が厳しいです。
さて、次はいよいよ熱帯ジャングルが連なりマングローブの木根が海岸を埋め尽くして
いる入江をぬって鯛釣り、バス(すずき)釣りに出かけます。
なんと2メートルにも及ぶ大トカゲが現れ、獰猛なワニが襲ってきました。
ボートが危く転覆しそうです。
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