昨日の再開『ひろぐ』に
違和感を持った方が多いと聞く!
理由はどういうわけか
語尾の「!」が反映されていなかったせいだ!
なぜだろう?
今回は反映されるのだろうか?
はてさて!
豪華な応接椅子に座る私は
めまいがするほど緊張していた!
「どうぞお食べください」
と言われて差し出されたチョコレートは
たいそう高級そうな包み紙に包まれており
私がかつて手にした物の中では
たまたま宿泊した海外の高級ホテルで
使い切ったと見せかけては
毎日せっせと旅行かばんに詰めていた
良さそうな石鹸に似ていた!
やがてびっしりとスーツを着た男性が現れ
「どうぞお飲みください」
とクリスタルグラスを私の前に置いた!
テーブルに当たって軽く鳴ったチューンという音は
我が家でよほどの事があった時にだけ使う
水晶のグラスと同じ音だった!
グラスの中には見た事もないピンク色を帯びた
透明の液体が半分ほど入っていた!
「これは何ですか?」
と聞くと”ピーチのなんとか”だと説明してくれた!
うまく聞き取れなかったが
まぁ桃のなにかなのだろう!
チョコレートは一切食べないし
”桃のなにか”を飲みたくなる事も決してない私だが
スーツの男性が去ったのを見計らって
ほんの少しだけ”桃のなにか”を飲んでみた!
「んふっ!」
となった!
間違いなく近所のスーパーで買った物ではない
かなり偉い人々の飲み物なのだろうが
私の味覚にはあまりにも高尚過ぎるものだった!
しかし
自分の中の緊張を少しでも減らそうと思い
もう一口だけ飲んでみたのだった!
2014年12月24日!
釈迦の誕生日は知らないが
その日はキリストが生まれる前日だ!
死んだら黙ってても坊主が来てお経をあげるのに
生きている間はキリストの誕生日を祝うよう
日本人は心がけている!
なのでその日はクリスマス・イブと呼ばれている!
ほんの先月の事だが
私は「カミさん」とあまりうまくいっていなかった!
その日の数週間前から
人前でしか口をきいていなかった!
夫婦というのはどれだけ経験を重ねても
”完璧”を見つけられないものだ!
クリスマスと正月は
あまりに時期が近すぎるので
祝うのはどちらか一つにしよう
と常々思っている私なのだが
クリスマスを機に何か贈り物をする事で
また「カミさん」を
ほんの少しでも笑顔にできればと思い
私は意を決して「Cartier」なる店を訪れた!
アルファベット表記しているのは
なにも格好をつけているわけではない!
世間ではその会社を
「カルチェ」とか「カルティエ」とか
複数の名前で呼ぶものだから
私には判断がつけられないのだ!
私としては
「カーティアー」か「カルティエール」な気がするのだが
どうやらその選択肢は与えられていないらしい!
何かの折に「カミさん」は
「Cartier」の指輪を買っていた!
海外旅行の時だったのか
日本のどこかだったのか
私には全く記憶がない!
しかしずいぶん高い買い物をしたという事は
記憶している!
「カミさん」は私にその指輪を見せてくれた!
私は驚いた!
指輪の上からいくつものマイナスのネジが刺さっている!
ネジで指に固定しているような
そんな指輪だった!
なんでもそれぐらい強く
贈ってくれた人の想いを
大切に指につなぎ留める
という意味があるのだと「カミさん」は教えてくれた!
しかし私の目には
頭蓋骨や頚椎をネジで留めた
フランケンシュタイン博士の怪物をパロディにした
ジョーク・グッズにしか見えなかった!
それでも「カミさん」は
そのフランケンな指輪を大切にはめていた!
洗顔や入浴の際には
傷ついたり変質したりしないよう
いちいち外しては洗面台に大切に置いていた!
洗面台の
絶対に落ちたり転がったりしない場所に
いつもちゃんと置いていた!
何年も何年もそうしていた!
なのにある時その指輪は無くなった!
理由は簡単だ!
昨年我が家に加わった新しい家族は
絶対に落ちたり転がったりしない物を
意地でも落としたり転がしたりする事に
心血を注ぐ生き物だからだ!
「いつかきっと洗濯機の下とかから出てくるよ。」
「カミさん」はそう言って
ねこの「FUTURO」を決して恨まなかった!
自分が気に入った物を
「FUTURO」も気に入ったのだとして
決して落胆すした顔を見せなかった!
しかしふと洗面所にいる「カミさん」を見ると
化粧をするついでに
洗濯機の裏を覗いたり
顔を洗うついでに
排水溝を見つめたりしていた!
その時の「カミさん」は
とても寂しそうに見えた!
最近我が家に訪れている不景気のせいで
すぐに代わりの物を買ってあげるという事は不可能だった!
なので私は自分の散財を控えて
ある時期から少しずつお金を貯めてみた!
「カミさん」が失った指輪には
確かダイヤモンドがついていた!
しかし12月の半ばを過ぎても
私のわずかな小遣いの蓄えでは
同じ物には手が届かなかった!
だがせめて
似た物でも買ってあげられたら!
そう思い
私はできるだけのお金を銀行から引き出し
大きく大きく深呼吸をしてから
「Cartier」なるお店の中に入ったのだった!
”桃のなんとか”を二口飲んだ後は
たまたまポケットに入っていた
飴を口の中に投げ込んだ!
どこかの中華料理屋か何かで食後にもらった物だった!
何味かもわからないような奇妙な飴だったが
そんな安物の方が緊張をほぐすのに効果的だった!
なにしろそれまでは
呼吸もうまくできていなかった!
財布すら持たない私は
財布の中に常に数十万円を入れた人々が集うお店に
なるべく入らないように生きてきたせいだ!
「何かお探しですか?」
と聞いてくれた女性の店員さんに
「なんか・・・なんかネジで留めるのありますよね?」
と尋ねたところ
「時計の部品ですね!」
と返された!
「いやいや!
指輪なんです!」
「Cartier」は時計も売る店である事を
その時初めて知った!
できるだけ失くした指輪に似た物で
なんとか予算に合う物を
その店員さんと時間をかけて選んだ!
サイズがわからなかったのだが
以前遊びで「カミさん」の指輪を
自分の小指にはめてみた事を思い出し
私の小指を基準に選んでみた!
やがて支払いを終えた私は
指輪の包装と
領収書や保証書の発行みたいなものを
お店の奥の応接椅子で待っていた!
チョコレートと”桃のなにか”が置かれた
しっかりとした木製のテーブルの向こうの飾り棚に
真っ黒い鋳物の「虎」が置かれていた!
私は待つ間
舌で飴を転がしながら
「虎」を見つめた!
「通常のラッピングですけどよろしいですか?」
戻って来た女性の店員さんが私に小箱を見せた!
私はしばらく黙ってから言った!
「あなたの後ろにある虎に載せてみて下さい!」
彼女は「はい?」と聞き返した!
「その虎の背中に箱を置いて下さい!」
「はぁ」と言いながら
彼女は小箱を「豹」の背中に載せた!
後で聞いたところ
それは「虎」ではなく「豹」であり
「Cartier」のシンボルだったのだそうだ!
そもそも真っ黒い鋳物で縞柄など無いのに
なぜ私はそれを「虎」だと確信したのだろう?
いやいや仕方がないではないか!
不動産屋などの事務所の棚に置かれているのは
大抵が「虎」だ!
「いいえうちのは豹です!」
などと言う不動産屋は奇妙過ぎて信用ならない!
「えーっと・・・こんな感じですか?」
うまい具合に小箱が背に載った!
なるほど!
これはいい案かもしれない!
「あのう失礼ですけど
これはどうなさるおつもりですか?」
奇妙な儀式に付き合わされ困惑する店員さんに
私は事情を説明する事にした!
「実はね!
カミさんが大事にしていたこれと似た指輪を
ねこがどこかに失くしちゃったんです!」
「うわぁ!
そうなんですかぁ!」
「だからね!
今思いついたんですけどね!
今夜その指輪を
ねこの背中に背負わせて
ねこから渡してもらおうと思うんです!」
しばらくぽかーんとした後に
店員さんはとても気持ちのいい笑顔を見せてくれた!
「すごいです!
それ素敵ですね!」
そして彼女はこう付け加えた!
「もしサイズが合わなかったらすぐに交換しますんで
またいらして下さい!
その時にプレゼントが成功したかどうかを
是非教えて下さい!」
私は小箱の入った紙袋を受け取り
そのお店を出て
また大きく深呼吸した!
外はとても寒かったので
暖かい店内から出た私の息は
まるで『ゴジラ』のように
白く強く吐き出された!
続いて私は
何の緊張もない百円均一のお店に向かった!
指輪の小箱を「FUTURO」に背負わせるための
特殊道具を作る必要があったからだ!
そこで私は
小型犬用のリードをつなぐ
”たすき”のようなバンドを購入した!
「カミさん」の指輪のサイズはわからなくても
「FUTURO」の全身のサイズはわかる!
そのバンドはちょうど「FUTURO」のサイズだった!
さぁ帰ろう!
かなり家まで近づいた私の目の前で
自転車に乗っていた女性がタクシーに轢かれた!
なかなか高価な買い物をした紙袋を
私は道端に放り投げて彼女を介抱した!
頭を打った様子もなければ
出血も骨折もしていなかった!
救急車が来るまでの間
ふと運転手さんを見ると
轢かれた女性よりもつらそうな顔をしていた!
それはそうだ!
掲げた”あんどん”を見れば個人タクシーではなく
有名会社のタクシーだった!
恐らく明日には退職か休職の処分は免れられまい!
年の瀬の稼ぎ時だと言うのに
キリストの誕生日を境に
仕事がなくなってしまうのだ!
私は倒れた女性にもいっぱい話しかけたが
運転手にも一言なぐさめの言葉をかけた!
「大丈夫やで・・・
人は殺してないから・・・
生きてたらこの子にもあなたにも
絶対いい事があるから!」
運転手は目に涙を浮かべて私にうなづいた!
やがて救急車が来た!
周囲を探したら
ずいぶん離れた所に
ずいぶん値の張るお店の紙袋がひっくり返っていた!
さーて!
書斎「LEVEL 4」で工作の時間だ!
小型犬のバンドと!
メッセージを書いた「Cartier」の箱を!
テープでがちがちに留めてみると
なかなか立派なバックパックが完成した!
ビニール袋を握り潰したり
紙を破いたりして
「FUTURO」が気になる音を出しながら
待つこと数十分!
彼はまんまと私の書斎「LEVEL 4」にやって来た!
「なにしてるんすか?
なにか楽しい音がしたんすけど
私も参加できるもんですかい?」
そんな表情で小さな鈴を首元で鳴らしながら
「FUTURO」はまん丸の目をして私に近づいて来た!
「ええ!
もちろん参加できますとも!
君が来るのを待っていたんですよ!」
私は素早く「FUTURO」の身体に
バックパックを装着させた!
「うわ!
なんすか!
なんすかこれは!
なんすかー!」
「FUTURO」は「LEVEL 4」の床でのたうち廻った!
私からこういう事をされると
すぐにリビングにいる「カミさん」に
助けを求めに行くと予測していたのだが
そこには大きな誤算があった!
「FUTURO」には”根性”というものがなかったのだ!
しばらく転げ廻った後!
あろう事か床に倒れたまま
動かなくなった!
「FUTURO」は私に
”外さなきゃ動かない”
という交渉を始めたのだ!
お願いだ!
行ってくれ「FUTURO」君!
私の想いと君の反省を
「カミさん」に届けておくれ!
しかし「FUTURO」は
ふてくされと根性なしの両パワーを全開にし
まったく動かなくなってしまった!
仕方がないので
私は彼を抱いて
リビングにいる「カミさん」を訪ねた!
そして・・・
床に座ってテレビを見ていた「カミさん」の前に
彼を置いた!
彼はそこでも再びのたうち廻りを披露した!
「ん?
なにこれ?」
「カミさん」は
「FUTURO」が何かを背負っている事に気づいてくれた!
箱に書かれたメッセージを読み
それが私と「FUTURO」からの
クリスマス・プレゼントである事にも
気づいてくれた!
「カミさん」は「FUTURO」をバックパックから解放した!
「FUTURO」はやっと立ち上がり
紙包みが破られる大好きな音に注目した!
やがて!
箱の中から指輪が取り出された!
「カミさん」は何も言わず
じっと指輪を見つめた!
そして静かに自分の薬指にはめた!
しばらく黙っていたその末に!
「ちょっとゆるい・・・。」
とつぶやいた!
そしてその次の瞬間に
私の大好きな笑顔で微笑んだ!
私は言った!
「明日一緒に交換に行こう!
この話を聞きたがってくれている人がいるから!」
大役をやってのけた「FUTURO」は
その横で
破られた包み紙とリボンに大喜びしていた!
奇跡を期待するならば
それはキリストが生まれたクリスマスではなく
死んだキリストが三日後に復活した
復活祭の方だ!
だから私は世間でよく言う
”クリスマスの奇跡”などまったく信じない!
私はしばしの間「カミさん」を悲しませた!
なんとかそのお詫びをして
どうしてもまた彼女の笑顔を見たかった!
それを奇跡になど任せてはおけない!
いっぱいの大切な想いを伝えるならば
日時など選ぶ必要はない!
伝えたいと強く思った時に
いつでも伝えるべきだ!
そう言いつつもなんだかそれが下手になった!
だからたまたまクリスマスを選んでみた!
そしてその記事を
今日書いてみた!
読者諸君にこのへんてこな話を
伝えたいと思ったのが
今日だったからだ!
それが誰かを傷つける言葉でないのだとしたら
誰かを笑顔にさせる言葉なのだとしたら
その言葉は今日届けよう!
そんな事を思ってひろぐ今日なのであった!