傑作漫画『サイボーグ009』の中で
とんでもなく好きなエピソードがある!
それは「サイボーグ0010」が登場する回だ!
「0010(ゼロゼロテン)」というのは
悪のサイボーグ兄弟二人に付けられた番号である!
兄がプラス電子を操り
弟がマイナス電子を操る!
電極となった二人が空間に起こす強力な電流によって
「009」以下のサイボーグ達が大苦戦する話だ!
ところがこの強敵「0010」に関しては
作家「石ノ森章太郎」氏によって
美しいまでに悲しい仕組みが描かれている!
プラスの兄とマイナスの弟!
悪の道を歩みながらも
彼らはお互いを心から気遣い
共に支え合って生きてきた!
しかしその両者の性質上
二人にはあまりにも悲しいルールが科せられている!
兄弟は触れ合う事ができないのだ!
それを察した正義のサイボーグ達は
最終的に兄弟二人を激突させ
ショートさせる事によって倒すのだが
ラストシーンはあまりにも悲しい!
死を悟った兄弟は地面を這いずってお互いに近寄り
そっと手を握り合って絶命するのである!
生前には決してできなかった”ふれあい”を
死ぬ事によって果たすのだ!
私は子供の頃にこのエピソードを読み
こっそり部屋で泣いた記憶がある!
その涙の一部には
卍固めや腕ひしぎ逆十字固めといった密着技で
私を連日苦しめる実兄「よっと」への
怒りも込められていたかもしれない!

「恐竜」と人間の関係は
悲しい事に電流兄弟「0010」と同じものだ!

例えば人間である我々が
ある朝目覚めたら
「ティラノサウルス」が歩き回る
白亜紀にタイムスリップしてしまったとする!
(断言しよう!
 ジュラ紀には「ティラノサウルス」はいない!
 だから「ティラノサウルス」がいる時点で
 そこは『ジュラシック・パーク』ではない!
 「クレタセウシック・パーク」だ!)
「恐竜」の時代にタイムスリップとは
なんともわくわくする話だ!
さて何をしよう?
まずは手なづける小型恐竜を探そうか?
隠れる洞窟を探すべきかもしれないぞ?
いやいや食べ物を探さなければ飢え死にしてしまう!
そんな事を案じているうちに
頭上から巨大恐竜の大きな口が!
さぁどうやって逃げようか!

・・・残念ながらどれも必要のない心配だ!

白亜紀の二酸化炭素濃度は現世の約八倍である!
人間はそこにいるだけで
恐らく数十秒で死に至る事だろう!
なので「ティラノサウルス」に食べられるのは
絶命した後の事となる!

「恐竜」にしてもそれは同じだ!
のび太がタイムふろしきによって現世で誕生させた
フタバスズキリュウのピー助は
現地球の二酸化炭素濃度の低さによって
出生からわずか数十秒で
死んでしまうというのが
夢のない理論的見解である!

つまり「サイボーグ0010」のように
我々と「恐竜」とは
生きて触れ合う事ができないルールなのだ!

しかし”会いたい”と願う心は
これまで多くの奇跡と感動を生み出して来た!
13歳の少年マルコは母に会うため
12,000キロの旅を達成した!
シェットランド・シープドッグのシロは
雌犬マリリンに会うために
3キロの海を泳ぎ切った!
私は「大場久美子」様に会うために
東京まで新幹線で走った!
そんな”会いたい”が起こす奇跡を
誰もが信じているからこそ
人々は「福井県立恐竜博物館」に向かうのである!
そうか?
そうだ!


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かくして到着した「福井県立恐竜博物館」!
私はこれまで
「北九州市立いのちのたび博物館」
を最高の「博物館」と賞賛し続けてきたのだが
古生物研究という観点で評価すれば
「福井県立恐竜博物館」は
他と比べ物にならないほど抜きん出ていた!
平日の昼間に訪れたため見学者は少なく
内部の設計を眺めるだけでも
猛烈に圧倒された!


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この博物館のユニークな点は
他の博物館が”子供だましのギミック”として嫌いそうな
「ロボット恐竜」が
常にどこかでがおがお叫んでいるところだ!
そのせいで館内には幼子の悲鳴が響き渡っていた!
恐らくその幼子達が成長した時
「自分が小さい頃にはまだ恐竜は生きていた」
と証言するかもしれない!

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私はこの博物館を訪れる事が決まった際に
「恐竜くん」と連絡を取った!
「福井県立恐竜博物館」を訪れるならば
何か特に観察すべきポイントがあれば
是非とも教えて欲しい
とメールをしたためた!

「恐竜くん」は
「比較」というテーマをくれた!
多くの骨格標本が並んでいる博物館の利点は
”見比べる”という観察が可能な事だ!
骨格標本の展示数で言えば
「福井県立恐竜博物館」は日本一である!
「比較」つまり
”何が同じで何が違うのか?”
を観察する事によって発見はある
と「恐竜くん」は教えてくれた!
私は彼のアドバイスに従い
ひたすら”比較”した!

されど何から何まで”比較”しても
何の発見もない!
何か”比較”するテーマが必要だ!
「恐竜くん」は私に
”噛む力の比較”というヒントをくれたので
私は「下顎骨(かがくこつ)」に焦点を定めた!
わかり易く言えば「したあご」の骨だ!
特に人間で言う”えら”の部分
(肺呼吸する人間にえらなど無いのだが)
が面白い!
そこが大きく発達していた「恐竜」は
噛む力がより強かったはずだ!
普段であれば
「走れば勝てる!」
と豪語していた「ティラノサウルス」が
どれほど恐ろしい生き物だったのかを
悟る事ができるいい機会となった!
一方で小型の草食恐竜の”えら”は
薄く弱々しい!
恐らく私の黄金の右フックで打ち砕く事が可能だ!
間違いなく群れを作って
怯えた暮らしをしていた事だろう!


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遊べるコーナーも多く
時折こんな写真を撮影してはひろいだ!

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「恐竜」以外の「化石」も素晴らしかった!
なにより私の心を揺らしたのは
何と言っても「イカの化石」だ!
私は「イカの化石」を見ると心が震える!
あれほど水分に満ちたべらんべらんな生き物が
どういう偶然を重ねて石になったのか?
その確率の低さは計り知れない!
どんな無謀な考えであっても
それを実現する可能性はゼロではない
という意味で
「イカが石になる」
ということわざができてもいいはずだ!
昔のイカは足に”ふぁさふぁさ”があったようだ!

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そして!
例え固い生き物だからと言って
こんな事があっていいのか?
こんな「化石」があっていいのか?
これに関しては「かに」がすごいのか
クリーニングした技師がすごいのか
もう私にはわからない!

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時間的な制約がある事は
事前に理解していた!
なので私は故意に名残を沢山残して
「福井県立恐竜博物館」を出た!
必ずまた訪れると確信しているからだ!
当然次回は温泉旅館に一泊しての来館だ!

我々は「恐竜」に会う事はできない!
しかし”会えない”と断言されるほど
”会いたい”という気持ちは強くなっていく!
例えば死んでしまった肉親や友人に会いたい時
あなたはどうしているだろうか?
その人を想う事で
頭や心をいっぱいにして
あたかもその人が
まだあなたのそばにいるように感じた時
悲しみを幸せに変えて
涙を止めているのではないだろうか?
私には当然「恐竜」と過ごした思い出など無いし
流すべき涙もない!
しかし!
「恐竜」の骨や復元模型を眺めながら
”会えない”絶望を
幸せに変えてはひろいでいる!
「恐竜」のことを想うと
無条件で嬉しくなってしまう理由はそこにあるのだ!

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