ひろぐ

父と語るプロレス

2014/05/22 13:24 投稿

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私の書斎「LEVEL 4」には
作家の書斎としてあるべき物が無い!
ここを訪れる多くの友人が
あまりにも「秘密基地」な室内を見て
そのばかばかしさに圧倒され
違和感に気づかずに部屋を出てしまう!
これに関しては
私から言い出さないと
どうやら誰も気づかないようだ!

書斎「LEVEL 4」には
本棚がない!

まぁ本棚と呼べば本棚な物はあるのだが
そこに納められているのは
世界を旅して買い集めた膨大な量の
「ゴミ映画」DVDだ!
オフィス・ラックがあり
数十冊の書物が立ち並んでいるのだが
それらは全て図鑑や「生物の写真集」だ!

例えシャンデリアを吊るした豪華な洋間でも
ソファとテーブルを置かずに
トレーニング・マシンを5台置けば
その部屋の名前は”ジム”だ!
例え装飾の美しい宝石箱でも
中に入れるのが胃薬ならば
その容器の名は”薬箱”だ!

書斎「LEVEL 4」には本棚がない!
つまり!
ここには本がない!

本が無い理由は単純だ!
本を読まないからだ!

ここ数年
私は自分に「失読症」の疑いを持っていた!
書く事に関しては今もこの通り
何の問題もないのだが
読む事に関してはかなり問題がある!
自分で書いた物であっても
たまに文字に見えなくなる時があるのだ!
読書家である「カミさん」
入浴中に一冊を読み終えるほどの速読家だが
もしも私が本を一冊読むとなると
それは必死の挑戦だ!
そんなわけで正直に話せば
私が生涯読み終えた本は
10冊に満たないかもしれない!

そんな私に”本を貸す”というのは愚行だ!
友人である「やま~ん」
私に本を貸してくれたのは
確か昨年の今頃か?
いや!
ひょっとしたら一昨年だったかもしれない!
せっかく貸してくれたのだから
少しでも読もうと勇気を出したのだが
表紙を開ける事すらに恐れをなし
その本は長い間
書斎「LEVEL 4」のデスクの上に
のっているだけだった!
何度か埃を拭き取った記憶もある!

そんな自分の中でどんな衝動が生まれたのかは
いまだにわからない!
ある晩の私が
なぜその本を抱えてベッドに向かったのか
理由はまったく分析できていない!

『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』

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どうにも物騒なタイトルのこの本は
かなりのページ数とかなりの文字数だった!
読書をする私を見て驚いた「カミさん」に
その中身をちらりと見せると
二段組の小さな文字と
その本の分厚さを見て更に驚いていた!
当の私には
”薄い本”と”分厚い本”の区別もつかない!
なにしろ10年ぶりぐらいに
本という物の文字を読み始めてしまったのだ!

「あんたに全部読めるかぁ?」

「カミさん」はそう言って私をからかったが
私は毎晩
床に就くたびに
夢中でこの本を読んだ!
夜が明けて
ある時などは昼が近づいても
私はこの本を読み続けた!
電話帳並に登場人物の多い
ノン・フィクション小説だったが
全てのページに興奮しながら
膨大な量の文字を読み進めた!
ゆっくりゆっくり・・・

”昭和の巌流島決戦”と呼ばれた
伝説のプロレス試合
力道山vs木村政彦!
その試合が尋常な見世物ではなかった事は
子供の頃から漫画や雑誌で知っていた!
大人になってからはインターネットで
実際にその試合を動画で見る事もできた!
おかげで改めて謎が深まった!
最初は当たり前の「プロレス」をしている二人なのに
突然「力道山」が暴れ始め
「木村政彦」にやってはいけない事をする!
現在の「総合格闘技」では
禁じ手とされている行為を
次々と始める!
そしてそのまま「木村政彦」は失神する!

一体何があったのか?

数年前に大ベストセラーとなった本なので
今更私がこの本の内容を詳しく紹介しようとは
決して思わない!
なにしろこの本は
”鬼の木村”と称された無敵の柔道家
「木村政彦」の
破天荒でショッキングな人生を
どこまでも詳しく追った作品だ!
私はこのドキュメンタリー小説に
毎夜心を震わせた!
そして2ヶ月ほどかけて
最後の一行まで読み終えた!
なんなら裏表紙に書かれた値段まで読んだ!

ひろいだ!
すごい本だった!

この「力道山vs木村政彦」は
当時人気絶頂にしてまだ正体不明であった
「プロレス」というジャンルに関して
”プロレスとはなんぞや?”
という議論を生み
一般新聞が「プロレス」を扱わなくなる
直接的なきっかけになったと言う!

「力道山」が日本中を沸かせた「プロレス」が
全ていわゆる八百長だった事は
この本が出版されるずっと以前から
誰もが知っている!
そしてこの「力道山vs木村政彦」も
八百長試合として組まれた事は
はるか昔から有名な話だ!
引き分けが予定されていた試合だったのに
「力道山」が突然その段取りを破ったという事も
私のような「プロレス」ファンには
あまりにも深く知られている話だ!
しかしそれが暴露された時
多くの被害者が生まれた!

実父「ごんぼちゃん」がその一人だ!

1935年に生まれた「ごんぼちゃん」は
10歳で第二次大戦の終戦を迎えた!
そしてテレビを一般家庭に普及させた
直接的原因と言われる
「日本プロレス」中継が放映開始されるのが
「ごんぼちゃん」19歳の時である!
精神年齢の低下と過保護の標準化で
今ならば少年と呼ばれる歳だが
当時であれば立派な青年だ!
そんな青年「ごんぼちゃん」は
他の青年達と同様「プロレス」に熱狂した!
「力道山」が身長190cmを越える
巨大な外人選手を倒す姿を見て
「ほら見ろ!
 戦争では負けたかもしれないが
 素手ならやっぱり僕らにかなわないのだ!」
と感じたはずだ!
そしてその感動は
「自分にも何かもっと大きな事が
 できるのではないか?」
という希望を与えてくれたはずだ!
「ごんぼちゃん」だけにではなく
日本に暮らす全ての人々に
そう思わせたはずだ!
その証拠に「日本プロレス」中継開始と
”高度経済成長”の開始と言われる年は
同じ1954年である!
”高度経済成長”が「プロレス」を生んだのではなく
「プロレス」が”高度経済成長”を生む
最大の要因であったと私は信じて疑わない!

なのにある時!
その原動力であった「プロレス」が
全て嘘であったと知らされた!

不治の病で苦しむ人に
毎日飲み続けていた薬が
実はただの風邪薬だなどと
どうして言えようか?
「ごんぼちゃん」はこの
夢と希望の裏切りによって
心を大きく傷つけられた事だろう!

「プロレスなんて全部八百長なんだよ!」

テレビで「プロレス」中継が始まると
幼い私に「ごんぼちゃん」はそう言った!
時代は
「アントニオ猪木」
「ジャイアント馬場」に変わっていても
「ごんぼちゃん」の心の傷は
癒えてはいなかった!
だが!
その否定的な言葉の後に
必ずこうつけ加えた!

「けどな!
 タイトルマッチだけは本気なんだ!
 だってほら!
 勝つと負けるじゃギャラが違うから!」

父親が言うのだから間違いない!
なので私も
タイトルマッチと冠が付く試合となると
座布団を抱きしめながら
真剣にテレビに見入った!

「ごんぼちゃん」は信じていたのだ!
「力道山vs木村政彦」は
日本初の日本人選手権として行われた!
つまりは今で言うタイトルマッチだ!
”すべては八百長”と明かされた後にも関わらず
「力道山vs木村政彦」が本物であったと
信じ続けていたのだ!
そしてそれを自分の息子にも
伝えようとしたのだ!

まぁある意味あの試合は本物だった!
だがどちらが強いかを決める真剣勝負などでは
決してあり得なかった!
「木村政彦」は
「え?
 なに?
 ちょっと!
 どうしたの?」
といった表情で
顔面を殴られ続けて失神する!
その異常な結末の謎に関して
私ごときがいくら「ごんぼちゃん」に語っても
納得はしてもらえないだろう!

「ごんぼちゃん」が抱き続けた
「力道山」や「プロレス」に対する夢を
今から打ち砕きたいなどとは決して思わない!
むしろ心から応援したい!
だが!
あの”昭和の巌流島決戦”と呼ばれた試合が
一体何であったのか?
それは「ごんぼちゃん」の中でも
混沌としているのではないだろうか?
私はこの
『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』
という本を
どうしても「ごんぼちゃん」に読ませたくなった!
柔道家「木村政彦」を中心とした本なので
ページの多くは「プロレス」ではなく
柔道が占めるのだが
私はこの本を読んだ実父「ごんぼちゃん」と
改めて
「プロレスとはなんぞや?」
を語り合いたいと思うのである!

父の日には
物騒なタイトルの本を
送りつけてみよう!

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