ひろぐ

妖怪あんねんあんねんの恐怖!〜老人達の秘密基地〜

2014/05/12 03:48 投稿

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『円谷英二と特撮の軌跡展』
を訪れる前に
怪獣「ぼんちおさむ」ちゃんから
「LINE」メッセージがあった!

「大王!
 大正で飲まへん?」

なんだか私のニックネーム「大王」と
「大正」がごっちゃになるような
そんなメッセージだった!
「大正」というのは
大阪市にある「大正区」の事だ!
「大正区」と言えば
大阪の中でも「沖縄」からの移住者が
とんでもなく多い街で
区民の1/4が「沖縄」出身者と
なんらかの縁を持つというような事が
Wikipediaにも明記されている!
となれば
「大正で飲まへん?」
という彼の言葉は恐らく
”沖縄料理店で食事をしよう”
という誘いだろうと理解した!
「マブヤー」を心に宿す私には
願ってもないディナー・イベントだ!
私は「おさむちゃん」が指定した時刻に
「ケムール人コーヒーカップ」を提げて
JR大正駅へと向かった!

「もうな!
 歩いてすぐやねん!」

と言って先導してくれたのだが
”リトル沖縄”と呼ばれる商店街とは
まったく方向が違っていた!
むしろ飲み屋が並ぶ繁華街とは
正反対の方向に向かって歩いていた!

「え?
 こっちに何かありますか?」

「あんねんあんねん!」

漫才ブームの”ひょうきん族”時代に
小学生から中学生を過ごした私だ!
考えてみれば
「ぼんちおさむ」ちゃんに誘われて
飲みに出かける事は光栄の極みだ!
だが既に10年以上も仲良しを続けていると
この怪獣の先導になど
決して従ってはいけないという事を
本能的に察知してしまう!

「いやいや何もありませんって!
 ほらぁ!
 どんどん真っ暗になってるじゃないですか!」

「いや!
 あんねんあんねん!」

辺りは街灯も減り
どんどんと暗くなった!
前方に夜の運河が寂しく見え始め
気がつけば防波堤の外側を
流れる運河に沿って歩いていた!
左手に防波堤を見ながら
右手に並んでいるのは
古くからある船舶関係の木造倉庫だった!
使われている物なのか
既に廃墟なのか
その暗がりではわからなかった!

「これ変ですよ!
 何もないですよ!」

「あるて!
 うん!
 あんねんあんねん!」

だがよく見ると!
それら倉庫のいくつかには
なにやらにぎやかに
ネオンサインが明滅しているではないか!
その様はまるで
何かもののけにでも化かされて見ている
幻覚のように思えた!

「ほらぁ!
 見てみぃ!
 あるやろ?
 あんねんあんねん!」

いけない!
「おさむちゃん」の度重なる奇行と
人間ばなれした奇声から
薄々感づいてはいたのだが
彼は何か危険なものに取り憑かれている!
その正体は恐らく
「水木しげる」先生もまだ作画を終えていない
近畿地方に棲息する
「妖怪あんねんあんねん」だ!

「ほらな!
 あんねんあんねん!」

このまま彼について行けば
私までが一緒に
神々が集う浴場で働かされるかもしれない!
しかし見てみたい!
この建ち並ぶ船舶倉庫の中で
ネオンを輝かせる謎の建造物の
中部をどうしても見てみたい!

「ここもええとこやで!」

ある一軒の前で「おさむちゃん」がそう言った!
その言い方はどう考えても目的地ではない!
なのに「おさむちゃん」は悠然とドアを開け
あたかも住宅展示場でも案内するかのように
私を中へといざなった!

・・・なんだここは!

私が知っている中で
そこに一番近い建造物は
「USJ」で「JAWS」に乗船するのを待つ
あの「アミティ村」のセットだった!
それは古びた木造のボートハウスを
その情緒を損なう事なく
酒場に改築した店舗だった!
数名の店員達は
「あぁ師匠!」
という程度の挨拶だけで
すぐに自分の仕事に戻ってしまう!
一方の「おさむちゃん」も
「おぅ元気?」
と言ったぐらいで私に店の説明を始める!
テラスに連れ出してもらうと
そこにはボートが3隻係留されていた!
どうやら「USJ」のような
ただのセットではない!
実際にボートハウスとして使用されているのだ!

「ほんならねー!
 ありがとー!」

「おさむちゃん」は店員達に何かのお礼を述べて
私をまた店の外へと連れ出した!

「こんなんがな!
 何軒も並んでんねん!
 見てみぃ!
 あんねんあんねん!」

私は目にした物があまりにも面白かったので
へらりへらへらと笑いながら
また運河に沿って歩いた!
こうなったら
「妖怪あんねんあんねん」に
どこまでも化かされる事をひろいでみよう!
暗い運河沿いの道を遠くまで見渡すと!
本当だ!
木造倉庫を改装した
そんな酒場がいくつも並んでいる!
一つなどは入口だけが陸上にあり
店舗は運河の上に浮かんでいたりする!
それはおよそ日本とは思えない風景だった!

「ここやここや!」

辿り着いた目的のお店は
入った瞬間から「バリ島」の空気にあふれていた!

とだけ書けば
「バリ島」の置物やアートなどで飾られた
「あたしは他の女子とは違うの!」
と言い張る”普通の女子”が通う
お酒よりもカレーがおいしいような酒場
を想像してしまうだろう!
(しないか?)
だが私は「バリ島」をよく知っている!
熟知までとは言わないが
多少の「バリ語」を話すほどまでは
「バリ島」に精通している!
そんな私が感じる本物の「バリ島」の空気を
その店は持っていた!
バリ人かもしくは
よほど深く「バリ島」を知る者が
その店を建てたであろう事はあきらかだった!

店内を一気に貫いて
「おさむちゃん」はテラスに出た!
そこにはいくつもテーブルが置かれ
横ではドラム缶を半分に切ったような器具の上で
おいしそうな肉が燻煙を上げていた!

「大王はビールでええの?」

「あー・・・はい!」

本当にここは日本なのか?
という不思議な感覚に襲われた私は
ビールのグラスを握りしめたまま
きょろきょろしていた!
そのためすぐに「おさむちゃん」を見失った!
どこだ?
ややっ!
どこに消えた?
やっぱりか!
やっぱり「妖怪あんねんあんねん」の仕業か!
もうじきポヨンというような音が聞こえた時
私は泥水の入った牛乳瓶を手に持ち
荒れ果てた廃墟の中で我に帰るのだ!

「大王ー!
 こっちやでー!
 ちょっと寒いけどー!」

「おさむちゃん」独特のシャウトが
下の方から聞こえた!
見下ろせば「おさむちゃん」は
係留された船に乗り込み
お店のスタッフと
あれが無いだの
これがどうだの
言い合っている!
私はまた彼が
何か無茶をしているのではないかと心配になり
船の近くまで降りてみた!


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「なにやってるんですか!」

「うん!
 ええねん!
 大丈夫や!
 ほんならまぁ乗って!」

何を言っているんだこの人は!

「え?
 ちょっとごめんなさい!
 これは?
 どういう事ですか?」

そんな私の質問を
まったく聞く気がない!

「乗ったー?
 はいほんなら!
 しゅっぱーつ!」

嘘のようだが本当の話だ!
写真が無ければこの『ひろぐ』は
私による空想小説と思われるだろう!
「おさむ」ちゃんはなんと
船の操縦を始めたのだ!


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「向こう行ったら道頓堀やねんけどな!」

操縦を続けながら
運河が二股に分かれる所で説明を始めた!

「道頓堀まで行こう思ったら
 大阪市の許可がいんねん!」

いやいや!
その前に!
あなたに船を運転する許可が降りているのか?

「ちょいちょいこないして遊ぶねんけどな!
 まだちょっと寒かったな!」

どうやら違法ではないらしい!

「はい!
 間もなく中之島でーす!」

既になかなかの距離を航行した!
いつもならばフォークを持たせるだけでも
周囲に緊張感を与えるこの怪獣が
船舶操縦の間だけは
実に真人間だった!
なんなら5分に一瞬ぐらいは
「加山雄三」に見えたほどだ!

”若大将”による操縦でUターンを決めた船は
やがて先程の酒場に帰港した!
着岸はなかなか慎重な作業なのだろうが
船長である”名乗りの若大将”は
ある所でアクセルを0まで落とし切り
見事に惰性だけで
浮桟橋に船を横付けした!
すごい腕前だ!
普段であれば緊張すると
「うっ」と呻きながら
瞬発的に数センチ飛び上がる人なのだが
着岸作業の際にはどういうわけか
ちゃんとした人間と見間違うほど
落ち着き払っていた!

「はいとうちゃーく!」


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上陸した私は
それまで起こった全ての事象を回顧し
呆気に取られながらビールを飲み
おいしそうに焦げ目のついた
シンプルな肉料理を味わった!


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「・・・なんだったんですか?
 今日のこのイベントは何なんですか?」

「え?
 船乗ろう言うてへんかったっけ?」

聞いてない!
まったく聞いてない!
私が聞いていたのは
「大正で飲まへんか?」
だけである!

さてそこからだ!
通常のお客さんが皆帰って行った後
残っているのは常連客
いや!
それ以上にこのお店と関わりの深そうな
そんな人達だけとなった!
店のオーナー!
お店にお酒を卸している酒屋の店主!
そしてそこいら一帯を仕切る
「しんちゃん」なるモヒカン刈りの老人!
他にも次々と現れたくせ者達は
誰も皆かなり強烈な個性を携えた
悪童達だった!
聞けば皆が60歳を越えており
「しんちゃん」に至っては70歳を越えていた!
彼らの思い出話に耳を傾けてみれば
近隣の店舗関係者によって開催された
”水鉄砲サバイバル大会”において
「しんちゃん」は店の屋根の上によじ登って
決死の応戦を見せたそうだ!
近隣の親睦のために
そんな大会を催す発想も衝撃的だが
「しんちゃん」の活躍においては
「大正のチャック・ノリス
と称されてしかるべきである!

「ここはな!
 元々は船の道具置き場でな!
 傾いてぐだぐだの廃墟やってん!
 それをな!
 ここにおるみんなでトンカチ持って
 この店にしてん!」

なんと「おさむちゃん」も
それに加わっていたと言うのだ!

「建築家なんか誰もおれへんかったもんな!」

「そうやで!
 みんな手探りや!」

店内は赴きのある焼き板による床なのだが
驚くべき事に
どうやら床として張ってから
バーナーで焼き目を入れたと言う!
新築の自分の家だと思えば
決してあってはならない順序だ!
時には炎を上げ
時には建てた物をまた壊し
ああでもないこうでもないと
みんなで建てた店舗なのだと言う!


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「表の電気もう消しとけ!
 知らん客とか来たらおもんない!」

「そうや!
 消せ消せー!」

そう!
そこは店舗とは名ばかりで
実際は”老人達の秘密基地”だったのだ!
酒を酌み交わし
さっきまでいた客はしょうもなかっただの
このおいしくないチーズは誰が持って来ただの
テラスに成っている玉ねぎを食べてみようだの
とにかく仲間とそこにいる事が
楽しくて仕方が無いといった老人達がそこにいた!
彼らのその楽しむパワーは
おしゃべり好きな私ですら
話すタイミングを逸してしまう迫力だった!
ふと真面目な顔になって
何やら建築資料のような物を取り出して
論じ合っているのに聞き耳を立てれば
どうやら
「おさむちゃん」が長年放置している別荘を
みんなで勝手に改築し
新たな秘密基地を作る悪巧みだった!

私はその店
いや秘密基地で
実にわかりやすい人生の目標を目にした!
60代70代になっても
子供のように目を輝かせ
子供では決してできない遊びに興じる彼ら!
彼らこそが私の目指すところである!
そこでは有名芸能人である事など
何の役にも立たない!
発想力と行動力を一番いっぱい持っている者が
ガキ大将になれる!
挑む物事が変われば
また違う者がガキ大将となる!
結局みんながガキ大将になる!
そんな世界だった!

「こないだテレビの取材が来よってなぁ!
 うっかり受けてしもたんや!
 ほんならそれ見た客から
 予約とか入りよんねん!」

「なにしてんねん!
 そんなんしたらあかんでぇ!」

「そやねん!
 もう二度と取材なんか受けへんわぁ!
 宣伝なんかしたら忙しいだけや!
 いらんねん客なんか!」

なので私もここで店名を記す気などは全くない!
そこは「妖怪あんねんあんねん」によって連れ込まれた
魔界の一部だったという事にしておこう!

「今日は帰りにこれ貼っとこかな!」

「おう!
 貼っとき貼っときー!」

店主が見せた貼り紙には
力強い文字で

「雨なので休みます!
 明日はOPENします!」

と書かれていた!

「明日も雨だったらどうするんですか?」

と尋ねてみた!

「そんなら貼りっぱなしにしといたらええやん!
 今日来てこれ見た奴は
 明日も雨やったらどうなるか学んでるやろ!」

爆笑したのは私だけで
周囲の老人達はただ真顔で私を見ていた!

帰宅後に書斎「LEVEL 4」にて
コーヒーなどをひろいでいたら
なんだか無性に歳が取りたくなった!
「葉巻」の缶を開けたら煙が出て来て
70歳になっていたりしたら
きっと
「やった!」
と思えたに違いない!


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そうそう!
今年7月!
15年ぶりに復活する
大馬鹿イベント「大田王(だいたおう)」
そのホームページが完成したようである!
まだまだ内容は薄いが
これからきっと本番に向けて
盛り上がって行くのだろう!
より早い情報を求める方のためには
Facebookページも用意されている!
是非フォローして書き込みなどでも
遊んでいただきたい!

大田王ホームページ

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