ペンと紙さえあれば
インクの続く限り
紙のある限り
落書きというものをしては
いくらでも一人でへらへらしていられる私なのだが
残念な事に他人の絵を鑑賞する能力がない!
私の書斎「LEVEL 4」と言えば
”作家の書斎なのに本棚がない”
という事でも知られているが
今こうして書斎の壁を見渡してみても
そこに絵画と呼べるような物は無い!
あるのは「昆虫標本」や
「お前後藤だろう!」
と書かれた「藤波辰爾」選手のサインや
恐らく全日本人のうち4人ぐらいしか見ていないであろう
メキシコ産怪獣映画のポスターなどが
壁を埋めている!
「カミさん」は絵画を理解する知識人であるため
寝室にはシャガールなどを貼ってくれているのだが
実を言うと私にはその絵の見所が
まるでわかっていない!
「私ならこの空いているスペースに
”プテラノドンみたいなの”を描くだろうにな!」
といった目でしか見る事ができない!
そんな私なのだが
たった2冊だけ!
年に数回開いては
見とれてしまう画集がある!
一つは生物学者「エルンスト・ヘッケル」による
「放散虫」のスケッチ集
『Kunstformen der Natur』
(邦題は『生物の驚異的な形』)だ!
この書はあくまでも生物学の研究書なのだが
それと同時に
”一枚の紙にどれだけ合理的により多くの生物を描けるか?”
という不思議なテーマに挑み
驚異的な結果を残している!
そのため書店や図書館などでは
しばしば生物学ではなく
美術のコーナーに置かれたりもしている!
少しでも興味があれば彼の名前
「Ernst Heackel」
でインターネット画像検索をしていただきたい!
なんとも不思議な生物スケッチが
どっさり見られる事だろう!
そして初めて彼の絵を見る方は
「ややっ!」
と言うに違いない!
2冊と言ったもう1冊もまた
画集とはいえ美術書ではない!
私が見とれてしまうその2冊目の画集は医学書だ!
『戦国時代のハラノムシ』
と題されたその画集は
私の落書きとほぼ同じタッチで
奇妙な怪獣達がどっさり描かれている!
しかしそれらは全て戦国時代に
『針聞書(はりききがき)』
という題名の医学教本に描かれたものだ!
現在も使われる病名「疳の虫(かんのむし)」など
当時は原因不明とされた病気の症状に対して
「それはね!
体のこの部分にね!
こういう虫が住んでいるから起こるのですよ!」
と解説した上で
とんでもなく面白い姿の”虫”たちが
およそ60匹ほど描かれている!
そのあまりにもユニークな画集は
医学書と呼ぶよりもむしろ
円谷怪獣図鑑か
ポケモンのモンスターボール貯蔵庫に近い!
『針聞書』の原本は
福岡県太宰府市にある福岡国立博物館1階に
無料展示されており
ガラスケースの中に開かれて置かれたその本は
確か1ヶ月か1週間に1ページぐらいめくられるはずだ!
常設された売店には
『針聞書』に描かれた怪獣達の
Tシャツやバッジやぬいぐるみなどなど
様々なグッズが販売されている!
(そういう物は書斎「LEVEL 4」に大量に保管されている!)
そんな2冊を”画集”と呼んで大切にしている私に
シャガールを鑑賞する能力などあろうはずがない!
なのにだ!
「絵画展に行こう!」
という話が私と「カミさん」との間で
一瞬にしてまとまった!
自宅からてくてく歩いて向かった先は
「BK」こと「NHK大阪」のビルにある
「大阪歴史博物館」だった!
絵画展のタイトルは!
『幽霊・妖怪画第全集』!
映画『サスペリア』の「サントラ盤」を聴いただけで
涙を流して逃げ回るという「カミさん」だが
どういうわけか幽霊画が見たいと言う!
そんな物を見たらきっと祟られるぞ!
と言って脅したのだが
へいちゃらだと宣言した!
なので一緒に行ってみる事にしたのだった!
幽霊画は怖かった!
ほとんどの幽霊画が
片手を懐に入れるなどして隠していた!
どうやら幽霊には
”片手しか見せてはいけない”
という今では無くなったルールがあったようだ!
どの幽霊画も掛け軸に掛けられた作品だったが
一体どういう天候でどういう気分の時に!
どういう集まりでどういうお茶菓子に合わせて
あれを床の間に掛けたのだろうか?
もしもおじいちゃんの家に
あんな物が一枚でもあったとしたら
私はおじいちゃんごと嫌いになっていただろう!
足下がうっすらとしかない
狂気に満ちた表情の鬼ばば様が
女性の生首を持っていたりする!
”ようこそいらっしゃいました”
と招いてくれたお宅の床の間に
もしもあれが掛かっていたら
気になって気になって
お茶を飲む事もできないはずだ!
そんな不安も恐怖も
”妖怪コーナー”では全て吹き飛んでしまう!
妖怪はいい!
妖怪は愉快だ!
中には大笑いしてしまうようなのもいた!
大笑いしたせいで
「黙って見なさい!」
と「カミさん」に叱られたりした!
なるほど!
そういうのもきっと妖怪の仕業だ!
多分「妖怪カミさんおこらせ」のやった事だ!
幽霊画も妖怪画も
ほとんどの作品は江戸末期に描かれたものだった!
それは日本の歴史の中で
最も穏やかで裕福な時代だったと聞く!
恐らく今の日本よりも
ずっとずっと平和だったに違いない!
”侍に切られても文句を言えない”
いわゆる
”切捨御免(きりすてごめん)”
が武士の特権として認められていた江戸時代に
どうにも怯えがちな現代人だろうが
当時生まれた「落語」や「歌舞伎」では
悪い侍や悪い城主などに
とんでもなくひどい目を見せている!
「我が藩のあの描き方はどうだ!」
と言われて一刀両断にされても
文句の言えない法律だったにも関わらず
「落語」に武士が登場すれば
ほとんどが馬鹿キャラクターだ!
つまりもうそんな無茶な特権を行使する武士など
恐らく存在せず
国民は言いたい事やりたい事を自由に楽しみ
民主主義を満喫していたに違いない!
そんな余裕の中で生まれたのが
いつ掛けるかわからない幽霊画の掛け軸や
数々の楽しい妖怪の姿だったのだろう!
そんな物を生み出しては
大人も子供も男も女も
みんな一緒になって楽しんでいたのだろう!
妖怪の創造は
戦国時代に医学書として『針聞書』が生まれたのと同様だ!
日常生活の中で誰にでも起こる
科学ではまだ解明されていなかった現象を
形に表したのが妖怪だ!
夜中に時折聞こえる家屋のきしみや
信頼していた人に突然裏切られる事など
どうにも原因を説明できない恐怖や悲しみがあると
それを妖怪という形にして
納得していたに違いない!
そして
「ああ今夜もあの妖怪が遊んでいるのだな?」
「あの人の心にあの妖怪が住み着いてしまったのだな?」
と思う事によって
不安や悲しみを取り去っていたのだろう!
それは心に余裕のある人にしかできない事だ!
心に余裕のある時代にしか
生まれ得ない文化だ!
今の世の中を見渡してみるといい!
次の地震はいつどこで起こる!
地球はこうやって終わる!
新型ウィルスが人類を滅ぼす!
江戸時代には実在の不安を
妖怪にして楽しむ事ができていたのに
今の世界では
根拠のない不安を作り出しては
それを聞いて怯えている!
断言しよう!
これは”貧しい心”のやる事だ!
”切捨御免”が認められていた江戸時代だからと言って
決して怖い世の中ではなかったはずだ!
街を歩くにも電車に乗るにも
子供を学校に通わせるにも
コンピューターや携帯電話を使うにも
水を飲むにも食事をするにも
なにかしら怯えて過ごさなければいけない
今の世の中の方が
よほど恐怖に満ちた貧しい時代である!
貧しい時代の貧しい心からは
妖怪や落語や歌舞伎のように
百年後も楽しまれているであろうものは生まれない!
なのでせめて私は
裕福な心で生きてみようと思う!
インクの続く限り
紙のある限り
落書きというものをしては
いくらでも一人でへらへらしていられる私なのだが
残念な事に他人の絵を鑑賞する能力がない!
私の書斎「LEVEL 4」と言えば
”作家の書斎なのに本棚がない”
という事でも知られているが
今こうして書斎の壁を見渡してみても
そこに絵画と呼べるような物は無い!
あるのは「昆虫標本」や
「お前後藤だろう!」
と書かれた「藤波辰爾」選手のサインや
恐らく全日本人のうち4人ぐらいしか見ていないであろう
メキシコ産怪獣映画のポスターなどが
壁を埋めている!
「カミさん」は絵画を理解する知識人であるため
寝室にはシャガールなどを貼ってくれているのだが
実を言うと私にはその絵の見所が
まるでわかっていない!
「私ならこの空いているスペースに
”プテラノドンみたいなの”を描くだろうにな!」
といった目でしか見る事ができない!
そんな私なのだが
たった2冊だけ!
年に数回開いては
見とれてしまう画集がある!
一つは生物学者「エルンスト・ヘッケル」による
「放散虫」のスケッチ集
『Kunstformen der Natur』
(邦題は『生物の驚異的な形』)だ!
この書はあくまでも生物学の研究書なのだが
それと同時に
”一枚の紙にどれだけ合理的により多くの生物を描けるか?”
という不思議なテーマに挑み
驚異的な結果を残している!
そのため書店や図書館などでは
しばしば生物学ではなく
美術のコーナーに置かれたりもしている!
少しでも興味があれば彼の名前
「Ernst Heackel」
でインターネット画像検索をしていただきたい!
なんとも不思議な生物スケッチが
どっさり見られる事だろう!
そして初めて彼の絵を見る方は
「ややっ!」
と言うに違いない!
2冊と言ったもう1冊もまた
画集とはいえ美術書ではない!
私が見とれてしまうその2冊目の画集は医学書だ!
『戦国時代のハラノムシ』
と題されたその画集は
私の落書きとほぼ同じタッチで
奇妙な怪獣達がどっさり描かれている!
しかしそれらは全て戦国時代に
『針聞書(はりききがき)』
という題名の医学教本に描かれたものだ!
現在も使われる病名「疳の虫(かんのむし)」など
当時は原因不明とされた病気の症状に対して
「それはね!
体のこの部分にね!
こういう虫が住んでいるから起こるのですよ!」
と解説した上で
とんでもなく面白い姿の”虫”たちが
およそ60匹ほど描かれている!
そのあまりにもユニークな画集は
医学書と呼ぶよりもむしろ
円谷怪獣図鑑か
ポケモンのモンスターボール貯蔵庫に近い!
『針聞書』の原本は
福岡県太宰府市にある福岡国立博物館1階に
無料展示されており
ガラスケースの中に開かれて置かれたその本は
確か1ヶ月か1週間に1ページぐらいめくられるはずだ!
常設された売店には
『針聞書』に描かれた怪獣達の
Tシャツやバッジやぬいぐるみなどなど
様々なグッズが販売されている!
(そういう物は書斎「LEVEL 4」に大量に保管されている!)
そんな2冊を”画集”と呼んで大切にしている私に
シャガールを鑑賞する能力などあろうはずがない!
なのにだ!
「絵画展に行こう!」
という話が私と「カミさん」との間で
一瞬にしてまとまった!
自宅からてくてく歩いて向かった先は
「BK」こと「NHK大阪」のビルにある
「大阪歴史博物館」だった!
絵画展のタイトルは!
『幽霊・妖怪画第全集』!
映画『サスペリア』の「サントラ盤」を聴いただけで
涙を流して逃げ回るという「カミさん」だが
どういうわけか幽霊画が見たいと言う!
そんな物を見たらきっと祟られるぞ!
と言って脅したのだが
へいちゃらだと宣言した!
なので一緒に行ってみる事にしたのだった!
幽霊画は怖かった!
ほとんどの幽霊画が
片手を懐に入れるなどして隠していた!
どうやら幽霊には
”片手しか見せてはいけない”
という今では無くなったルールがあったようだ!
どの幽霊画も掛け軸に掛けられた作品だったが
一体どういう天候でどういう気分の時に!
どういう集まりでどういうお茶菓子に合わせて
あれを床の間に掛けたのだろうか?
もしもおじいちゃんの家に
あんな物が一枚でもあったとしたら
私はおじいちゃんごと嫌いになっていただろう!
足下がうっすらとしかない
狂気に満ちた表情の鬼ばば様が
女性の生首を持っていたりする!
”ようこそいらっしゃいました”
と招いてくれたお宅の床の間に
もしもあれが掛かっていたら
気になって気になって
お茶を飲む事もできないはずだ!
そんな不安も恐怖も
”妖怪コーナー”では全て吹き飛んでしまう!
妖怪はいい!
妖怪は愉快だ!
中には大笑いしてしまうようなのもいた!
大笑いしたせいで
「黙って見なさい!」
と「カミさん」に叱られたりした!
なるほど!
そういうのもきっと妖怪の仕業だ!
多分「妖怪カミさんおこらせ」のやった事だ!
幽霊画も妖怪画も
ほとんどの作品は江戸末期に描かれたものだった!
それは日本の歴史の中で
最も穏やかで裕福な時代だったと聞く!
恐らく今の日本よりも
ずっとずっと平和だったに違いない!
”侍に切られても文句を言えない”
いわゆる
”切捨御免(きりすてごめん)”
が武士の特権として認められていた江戸時代に
どうにも怯えがちな現代人だろうが
当時生まれた「落語」や「歌舞伎」では
悪い侍や悪い城主などに
とんでもなくひどい目を見せている!
「我が藩のあの描き方はどうだ!」
と言われて一刀両断にされても
文句の言えない法律だったにも関わらず
「落語」に武士が登場すれば
ほとんどが馬鹿キャラクターだ!
つまりもうそんな無茶な特権を行使する武士など
恐らく存在せず
国民は言いたい事やりたい事を自由に楽しみ
民主主義を満喫していたに違いない!
そんな余裕の中で生まれたのが
いつ掛けるかわからない幽霊画の掛け軸や
数々の楽しい妖怪の姿だったのだろう!
そんな物を生み出しては
大人も子供も男も女も
みんな一緒になって楽しんでいたのだろう!
妖怪の創造は
戦国時代に医学書として『針聞書』が生まれたのと同様だ!
日常生活の中で誰にでも起こる
科学ではまだ解明されていなかった現象を
形に表したのが妖怪だ!
夜中に時折聞こえる家屋のきしみや
信頼していた人に突然裏切られる事など
どうにも原因を説明できない恐怖や悲しみがあると
それを妖怪という形にして
納得していたに違いない!
そして
「ああ今夜もあの妖怪が遊んでいるのだな?」
「あの人の心にあの妖怪が住み着いてしまったのだな?」
と思う事によって
不安や悲しみを取り去っていたのだろう!
それは心に余裕のある人にしかできない事だ!
心に余裕のある時代にしか
生まれ得ない文化だ!
今の世の中を見渡してみるといい!
次の地震はいつどこで起こる!
地球はこうやって終わる!
新型ウィルスが人類を滅ぼす!
江戸時代には実在の不安を
妖怪にして楽しむ事ができていたのに
今の世界では
根拠のない不安を作り出しては
それを聞いて怯えている!
断言しよう!
これは”貧しい心”のやる事だ!
”切捨御免”が認められていた江戸時代だからと言って
決して怖い世の中ではなかったはずだ!
街を歩くにも電車に乗るにも
子供を学校に通わせるにも
コンピューターや携帯電話を使うにも
水を飲むにも食事をするにも
なにかしら怯えて過ごさなければいけない
今の世の中の方が
よほど恐怖に満ちた貧しい時代である!
貧しい時代の貧しい心からは
妖怪や落語や歌舞伎のように
百年後も楽しまれているであろうものは生まれない!
なのでせめて私は
裕福な心で生きてみようと思う!
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後藤ひろひと
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