ひろぐ

長い話と短い音楽〜みにまむす船上ライブ

2013/04/14 20:54 投稿

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「沖縄国際映画祭」での激戦の疲れがあったせいか
すっかり『ひろぐ』をほったらかしてしまった!
とは言え別に自宅にこもって寝込んでいたわけではない!
相変わらずすさまじい勢いで遊んで暮らしていた!
なにしろ「お花見」シーズンだ!
心地よい春の陽気に
引きこもってなどいられるものか!

そんな中でも
すべりにすべる「グッチ」のトークから
決して逃れる事のできないイベント
「みにまむす」による船上ライブ
『春だ桜だ みにまむミステリーツアー』
はたいそう愉快なお花見となった!

既に先週の話になってしまうが記しておこう!

JAGバンド「みにまむす」による
移動式ライブと言えば
昨年参加した「路面電車」によるものが
恒例となっていたのだが
何を思ったか今回は
なんと船の上でのライブだと言う!

「みにまむす」の音楽は大好きなのだが
そのパーカッショニストである
「グッチ」のフリートークは
とてもではないが聞けたものではない!
私は毎年新年を迎えるたびに
宴会場「味園(みその)」
その勇敢なる犠牲者となり
戦い続けている!
「路面電車」ならば路線上の折り返し地点で
休憩ポイントもあるため
電車を降りてしまえば
「グッチ」のしゃべりを聞かずに済む時間もあるのだが
トイレまで備えた船の上となれば
その休息を得る事は不可能だ!
もしも逃れようと思えば
川に飛び込むしかない!
このイベントはある意味
”壮絶な戦い”が予想された!

我が家と”乗り場”が近所であったため
私はその日の天候をよく知った上で家を出た!
かなりな寒さを感じたので
その日は完全な冬の防寒着に身を包んでみた!
乗客はそうとは知らない人達がほとんどで
集まったみんなが首をすくめて震えていた!

そんな乗客である私を迎えてくれたのは
かわいらしい海女(あま)さん達だった!
”船だから海女さん”
というよくわからない演出だが
なんだかどきどきさせてくれる美人さん達だったので
私は乗船前からすっかりひろいでしまった!


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船は予定時間からずいぶん遅れての到着だった!
なのにそれを待つ事が楽しくて
誰も文句など言う人はいなかった!
「みにまむす」は実に素敵な顧客をもっている!
”船出の際に使用します”
と言われて紙テープを渡された!
そのテープの端を
陸に残る海女さんに渡した!
船が出発すると
テープを握った海女さんが
別れを惜しんで泣いてくれた!
これまたよくわからないが
なかなかひろぐ演出だ!
なので私も泣いた!
行って参ります!

はてさて!
出航した船上での
音楽と「グッチ」トークの割合は
およそ2:8だった!
その数字は
4:6と言われる
さだまさしコンサートを
はるかにしのぐ比率と言わざるをえない!
何かを思い出したように演奏は始まるが
長い曲などレパートリーにない「みにまむす」だ!
すぐに曲が終わって
また「グッチ」のトークを聞かなければならない!
観光ガイドよろしく
「大阪」の街を説明する「グッチ」なのだが
無駄に元気よく話す内容は
何年経っても相変わらずである!

「えー右に見えますのがね!
 えーっとね!
 あれは何だ?
 裁判所かな?
 裁判所ですか?」

とにかく尋ねて来る!
ガイドが乗客達に問いかけて来る!
知らないのならば言わなければいい!
なのに目につく物をとにかく説明しようとする!
そして語尾は必ず疑問型で終わる!
なので乗客は首をひねるしかない!

「あ!
 みなさん!
 あの奥の建物を見て下さい!」

たまに断定型で説明したかと思えば
陸にいた方がよく目立つ
建設会社のビルだったりする!
そしてそこに務めていた友人の話などする!
更には!

「その昔あの会社に向かって
 過激派グループが
 手製のロケット弾を撃ち込んだ事があります!
 その発射場所が
 今みなさんの目の前にあるこの中洲ですよ!」

前夜の悪天候で桜は散りつつあったにしても
船からのんびり見上げたい景色はいくつもあった!
楽しく陽気な音楽を聴きながら
桜吹雪の中を抜けつつ情緒を感じたりしたかった!
なのに!
「グッチ」が無理矢理にでも見せようとするのは
ロケット弾を発射した犯行現場だった!

「どうですか皆さん!」

どうもこうもあるか!
点火はしてあげるから
お前がそこから飛んで行け!

「あの公園では高校生の頃に泣きました!」

「ここにはよく自転車で来ました!」

「役所の撤去命令で
 ここらの生活者は全て追い出されました!」

そんな個人的な話と憂鬱な社会事情とを並べては
ほんのわずかな時間だけ
「みにまむす」の音楽を聴かせてもらえる!
まるでマラソンの給水ポイントだ!
短い演奏がさっさと終われば
乗客達はまた「グッチ」に挑まねばならなかった!


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やがて我々の乗る船は
前夜の豪雨による増水のため
船で抜けるには危険な状態の橋に出くわした!
一見して船がくぐれそうな高さではない!
「ジェームズ・ボンド」と地元の巨漢が戦って
ボンドが急にしゃがんで敵だけが船から落ちる
そんな水面と橋の位置関係だった!
なのに「グッチ」は
”我々の船長ならば行ける!”
と豪語した!
不安な顔色を見せた船長だったが
「グッチ」は行ける行けると言っては
自分だけが興奮した!
困り顔の船長だったが
腕のいい彼はその橋をくぐる方向へと舳先を向けた!
乗客も「みにまむす」も
みんなが本能的に頭を低くした!
そして低い橋の下に入ると
見慣れない光景におおおーっとうめいた!
これはなかなか面白い体験だった!
しかしそこで!
必要以上に興奮した「グッチ」が叫び始めた!

「皆さん!
 これはまたとない機会です!
 今なら橋の下に触れる事ができますよ!
 さぁ!
 みんなで触りましょう!」

これは確かに珍しい機会なので
乗客はうっかり「グッチ」に従い
みんなで橋の下に触れた!
ゆっくりと進む船の中から手を上げ
みんなで橋の下を大きく撫でた!
そして無事にその橋を抜ける事ができた!
一同からは歓声が起こった!

しかし!

橋を無事に抜けきった我々からは
一斉にブーイングが起こった!
橋の下に触れた手が
何かの成分で真っ黒になったのだ!
そしてあろう事か
当の「グッチ」までも

「うわー!
 なんだこれー!
 汚ーい!」

とか叫んでいる!
お前が触れと言ったのではないのか!

わずかな音楽と
膨大な「グッチ」トーク!
延々続くよくわからない話と
ほんの少しだけの音楽!
我々は一体何のためにこの船に乗ったのだろう?
どうにかこの2つを
2槽の船で分けてやってもらう事はできないものか?

そんな無情な時間が続く中!
ちょいと面白い事が起こった!
乗客の中には
私のワークショップ「Royal Plant」のメンバーも
数名いた!
私はそんな中の「ルチア」という子と
乗り場で偶然会ったつもりで一緒に乗船していた!
ところがだ!
バイオリニストの「まるむし」君が
すいっちょすいっちょと
『オー・ソレ・ミオ』を奏で始めた時だ!
声楽を学ぶ「ルチア」が突然立ち上がって
イタリア語で歌い始めたのだ!
これには観客みんなもびっくりしたが
誰より私が驚いてしまった!
道理で挨拶しても
なにかもじもじしていると思った!
久しぶりにいいものを見て
大きな拍手の起こった船上だった!
(その様子を動画でどうぞ!)
https://www.youtube.com/watch?v=NJiQ3tphWzo&feature=youtu.be

誰も興味を示さない中で
自分と奥さんの不仲を延々と語る「グッチ」!
もしも許してもらえるならば
ベランダに黄色いハンカチを上げてくれと頼んだ
という意味不明なくだりには
誰もがそっぽを向いた!

やがて「グッチ」は
「有名人のお宅拝見コーナー!」
と不可解なタイトルを無駄に大声でコールした!
船の上から誰か有名人の家が見えると言う!
誰の家でも構わないので見たくなった!
そうすれば少しは「グッチ」の話から逃れられると感じた!
しかし!
やがて見えてきたマンションを指差して
「グッチ」は叫んだ!

「はい!
 皆さん!
 あれが!
 あれが僕の家です!」

しまった!
そうだった!
一度遊びに行った事があった家だ!
「ゴミ捨て」をした時だ!

「あーっ!
 皆さん!
 見て下さい!
 ハンカチが!
 黄色いハンカチがーっ!」

黄色い物をどっさり吊るした「グッチ」家のベランダでは
彼の奥さんが
フライパンとフライ返しを振って
上下運動していた!
それはここ数年見た中で
最も馬鹿げた光景だった!

「ありがとー!
 許してくれてありがとー!
 はいみなさん!
 写真を撮って下さい!」

どこの世界に自分の家と自分の嫁さんを見世物にする
観光ツアーがあろうか!
・・・ある!
「みにまむす」の「グッチ」が
それをやる!

(船上で音楽を聴くわずかなひとときを動画でどうぞ!)
https://www.youtube.com/watch?v=NNUzACw8wYg

下船して「ルチア」とカプチーノを飲み
やがて乗船した場所に戻ってみると
「みにまむす」が片付けをしていた!
近寄ってみると何かもめているようだった!
更に近寄って聞き耳を立ててみた!

「いつ演奏させてくれんねん!」
「俺らは楽器持って立ってるだけか!」
「やってへん曲が何曲あったと思てんねん!」
「何もでけへんかったらかめっちゃ寒かったわ!」
「そもそもお前はなんやねん!」

散々言われている「グッチ」が
大きな声でみんなに言葉を返した!

「なんだよー!
 ならそう言ってよー!
 間をもたせなきゃと思ったんだよー!
 俺だって好きで喋ってるんじゃないんだからさー!」

冷たい風の吹く川べりで
最後のその言葉を聞いた私は
そのまま川に「グッチ」を突き落としてやろうかと思った!
しかしそこを我慢できるのが大人だ!
ふと見れば
「みにまむす」のメンバーも
ぐっと唇を噛んで悔しそうにしていた!

様々な形式や趣向でライブを行うバンド
「みにまむす」!
いずれは最も特殊な形式
”グッチがしゃべらない”
というライブを見て見たいものだ!

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