#33
2015年3月20日号
編集長東浩紀 発行ゲンロン
ゲンロン観光地化メルマガ3月20日号#33をお届けします。
2011年3月11日の東日本大震災から4年が経ちました。「浜通り通信」では、浪江町でタブレット事業に関わる吉永隆之さんにご寄稿いただきました。吉永さんのエッセイでは、IT技術が被災地復興に役立てられていくさまと、町の再生に打ち込んできた人々の努力を知ることができます。
弊社徳久倫康による柏崎刈羽原発取材レポートは今号が最終回。原発職員の方々とはどのような質疑応答が交わされたのでしょうか。柏崎刈羽原発の周辺にあるエネルギー関連の博物館・資料館の情報とともにレポートします。
黒瀬陽平さんの「311後の東北アート」で伝えられるのは、磐城平城の跡地の風景。そこから「『復興の挫折』の痕跡はどのように残せるか」という問いが発されます。
セルゲイ・ミールヌイさんの「チェルノブイリの勝者」は偵察隊員の被曝線量をひたすら記録していく将校の話です。淡々と続く記録の描写に、放射能はそこにいる人間一人ひとりに否応なく降りかかっていくという事実が滲んでいます。
様々な情報をお届けするゲンロン観光地化メルマガ、今号もお楽しみください。
目次
- 観光地化計画が行く #33 東浩紀
- 柏崎刈羽原発取材レポート #4 徳久倫康
- 浜通り通信 #22 タブレットで取り戻す、浪江の日常と人々の絆 吉永隆之
- 311後の東北アート #22 黒瀬陽平
- チェルノブイリの勝者放射能偵察小隊長の手記 #26 セルゲイ・ミールヌイ 保坂三四郎訳
- メディア掲載情報
- 関連イベント紹介
- 編集部からのお知らせ
- 編集後記
- 次号予告
観光地化計画が行く #33
東浩紀
@hazuma
震災から4年を迎えた去る3月10日と11日、南相馬市といわき市に取材に出かけた。開通したばかりの常磐自動車道を走り、南相馬市博物館を訪れ本メルマガでもお馴染みの二上英朗さんにご挨拶をし、同じくお馴染みの小松理虔さんにいわき市内を案内してもらうためだ。
といったわけで今回はその報告を書くはずだったのだが、突然体調を崩し、原稿が間に合わなかった。帰宅困難地域に位置し、「ゴーストタウン」と化した無人の町――そういえばかつてこの言葉を使って謝罪を強いられた政治家がいたが、言葉狩りをしても現実はなんら変わるわけではない――のなかにぽつんと開けた浪江インターチェンジ、津波により町を失い、防潮堤により海を失い、そしてまた高台移転により里山を失いつつあるいわき市豊間の集落など、今回の短い取材でも、復興とはなにか、あらためて考えさせられる光景をいくつも見ることになった。それらの印象については、次回の巻頭言であらためて取り上げたい。
ところで、このように巻頭言の原稿を落としている一方で、本メルマガが配信されているいま、ぼくは批評家の佐々木敦氏とゲンロンカフェのステージでトークショーを行っているはずである。原稿を落としてもステージに立たないわけにはいかない、これがカフェ経営者になってしまったぼくの悲喜劇的な条件なのだが、そんなトークショーの存在も本メルマガのテーマと無関係ではない。
ゲンロンではこの夏、佐々木氏監修のもと「批評再生塾」を立ち上げる。批評とは、同塾の募集サイトで佐々木氏が述べているとおり、「について」の文章である。つまりは、作品制作の現場や当事者の苦労からあるていど距離を取った、しかしそのぶん客観的で普遍的な視野をもった文章である。批評は、作家の思いを代弁するものでもなければ、読者の思いを表明するものでもない。作家からも読者からも離れた、ある意味では無責任な、冷たい文章なのだ。
ところが現在の日本では、そのような距離感こそが受け入れられにくくなっている。みなが現場の苦労や「当事者のリアリティ」ばかりを強調し、熱い連帯や共鳴に流れ、大局の視点を撥ねつけるようになっている。佐々木氏とぼくはともにそのような現状に強い危機感をもっており、だからこそいま批評の「再生」を謳うことが重要だと考えた。
そしてぼくはそれは、震災後の復興の光景とも重なる問題のように感じている。復興に批評は必要か。多くのひとは否と答えるだろう。最近流行しているらしい言葉を使えば「ありがた迷惑」だということになるのだろう。考えてみれば、そもそも批評は以前から「ありがた迷惑」だと言われ続けてきたジャンルだった。しかしぼくは、いまの日本には、そんな批評の再生こそが必要だと信じている。
東浩紀あずま・ひろき
1971年生まれ。作家。ゲンロン代表取締役。主著に『動物化するポストモダン』講談社、『クォンタム・ファミリーズ』新潮社、三島由紀夫賞受賞、『一般意志2.0』講談社、『弱いつながり』幻冬舎等。東京五反田で「ゲンロンカフェ」を営業中。
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