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【3.11後の建設と風化】ゲンロン観光地化メルマガ #31【編集長・東浩紀】

2015/02/20 23:58 投稿

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ゲンロン観光地化メルマガ #31 2015年2月20日号

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#31
2015年2月20日号
編集長:東浩紀 発行:ゲンロン

ゲンロン観光地化メルマガ2月20日号(#31)をお届けします。

3.11からまもなく4年。今回のメルマガでは、小松理虔さんの「浜通り通信」と東浩紀の巻頭言で、3.11が取り上げられています。小松さんはイオンモールいわき小名浜の建設をめぐる現在の状況といわきの労働環境の話。そして東浩紀は常磐自動車道全面開通と風化の話です。また、徳久倫康による柏崎刈羽原発取材レポート第2回では、3.11後に稼動停止となった世界最大の原発の現状が写真とともに紹介されています。

黒瀬陽平さんの「3.11後の東北アート」は今回も番外編で、前回に引き続き、大学の卒業制作展の講評がなされています。セルゲイ・ミールヌイさんの小説『チェルノブイリの勝者』では、チェルノブイリ事故処理作業の規模がいかに大きかったのか、実際に働いたひとがその規模をどのように把握したのかがわかる貴重な証言になっています。

今号も情報満載のゲンロン観光地化メルマガ、どうぞお楽しみください。

 目次 

  1. 観光地化計画が行く #31 東浩紀
  2. 柏崎刈羽原発取材レポート #2 徳久倫康
  3. 浜通り通信 #20 イオンモールいわき小名浜にまつわる暗い話 小松理虔
  4. 311後の東北アート 「祈りのかたち」を探して #20 黒瀬陽平
  5. チェルノブイリの勝者~放射能偵察小隊長の手記 #24 セルゲイ・ミールヌイ 保坂三四郎訳
  6. メディア掲載情報
  7. 関連イベント紹介
  8. 編集部からのお知らせ
  9. 編集後記
  10. 次号予告

 


観光地化計画が行く #31
東浩紀
@hazuma


4回目の3月11日が迫っている。取材もいくつか来た。しかし今年はどうも熱が籠もらない。東京では震災・原発事故の風化が急速に進んでいる。報道でも福島の名前を見ることがめっきりなくなっている。みな事故のことを忘れてしまったように見える。ゲンロンカフェでも福島関係のイベントは集客が悪い。これではだめだ、と思ってもどうしたらよいのかがわからない。

3月1日は常磐自動車道がついに全面開通する。富岡ICと浪江ICが繋がり、いわきと仙台が直結する。東京から南相馬までのアクセスは格段に改善される。すばらしいことだと思う。しかし同時に、いまでもこの国では土木しか復興の象徴はないのだなと、残酷な現実を突きつけられたように感じる。

Jヴィレッジのあった広野町に、巨大な「道の駅」が新設されるという話を聞く。ヘリポートまであるらしい。福島第一原発観光地化計画では、まさにJヴィレッジの跡地をホテルとショッピングモールにするアイデアを披露した。どことなくそれに通じるものがある。

しかし、あの計画の柱となっていたのは、福島の事故は世界的な事件であり、だからこそ多くの人々の現場を見せるべきだという「責任」の感覚だった。それは被災者の一部には痛みを強いるかもしれないが、そのぶん見返りもあるはずだと考えた。事故収束の最前線を担ったJヴィレッジを拠点とし、廃炉過程を見せるスタディツアーを実施すれば、双葉郡は新たな観光地に、一種の「聖地」に生まれ変わるかもしれない。それは、チェルノブイリを取材しての実感にも基づいていた。現実には事態は逆の方向に動いている。富岡駅をはじめ、震災遺構の解体は着々と進んでいる。Jヴィレッジもスポーツ施設に戻ることが決まっている。けれども、浜通りはもともと観光客を集める土地ではなかった。高速道路を新設し、道の駅を建設したからといって、一時の話題以上の存在になれるのか、ぼくにはうまくイメージできない。小さなものでよいから、その道の駅に、行政視点から復興をアピールするだけでない、自主独立運営の事故資料館が付随するとよいと個人的には思う。

振り返れば、昨年秋の福島県知事選が曲がり角だった。事故後はじめての首長選にもかかわらず、原発は争点にならなかった。無風状態の与野党相乗りで、前職の副知事が当選した。地道な復興にイデオロギーは必要ない、いま求められるのは実務家なのだという判断はよく理解できる。しかし同時に、あの選挙結果が、福島県民が事故について議論しないことを選んだように見えるのも事実である。その様子は、直後に行われた沖縄県知事選とは対照的だった。復興に金がかかるのは確かだし、怒りや理想だけでは生活できないのも確かだ。しかし、怒りや理想の存在が見えなくなってしまえば、当事者以外はなにも言えなくなってしまう。沖縄にしても、最終的に辺野古に基地ができることはみな知っている。沖縄の経済が基地に依存していることも知っている。しかしそれでも、あそこで怒りの声を上げる人々がいるからこそ、ぼくたち(本土の人間)はその矛盾を忘れないでいることができる。そのような声は、いま、福島について、急速に聞こえにくくなっているように思う。

常磐道開通は復興の象徴となるだろう。福島は事故を乗り越えたと語られ、被災者はそれを歓迎するだろう。しかし現実には、廃炉は始まってすらいない。帰宅困難地域は中間貯蔵施設で埋め尽くされようとされ、郷土の傷は癒えることがない。

東京の人間がなにを無責任なことをと叱られることを承知のうえで言えば、双葉のひとたちは、もっと怒っていいと思う。否、より正確に言えば、もっと怒りをオープンに、パブリックに表明していいと思う。そうでないと、県外のひとは完全に忘れてしまう。東京の人間はもう、福島の問題にいまだ関心を抱いているのは、鼻血恐怖症の一部の変わり者だ、ぐらいに考え始めている。その状況を変えることができるのは、当事者の怒りだけだ。

 

東浩紀(あずま・ひろき)
1971年生まれ。作家。ゲンロン代表取締役。主著に『動物化するポストモダン』(講談社)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、三島由紀夫賞受賞)、『一般意志2.0』(講談社)、『弱いつながり』(幻冬舎)等。東京五反田で「ゲンロンカフェ」を営業中。
 

 

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