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【編集長:東浩紀】ゲンロンβ8【チェルノブイリと想像力への旅】

2016/11/12 01:40 投稿

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ゲンロンβ8 2016年11月11日号

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8
2016年11月11日号
編集長:東浩紀 発行:ゲンロン


 目次 

  1. 【特別掲載】チェルノブイリへの旅は想像力への旅である 東浩紀
  2. 「ポスト」モダニズムのハード・コア――「貧しい平面」のゆくえ #14 黒瀬陽平
  3. ポスト・シネマ・クリティーク #11 黒沢清監督『ダゲレオタイプの女』 渡邉大輔
  4. 浜通り通信 #44 2016年11月の浜通り、そしてそのリアル 小松理虔
  5. アンビバレント・ヒップホップ 番外編 「後ろめたさ」のフロウ 吉田雅史
  6. 人文的、あまりに人文的 #7 山本貴光×吉川浩満
  7. 日常の政治と非日常の政治 #7 安倍昭恵氏との「対談」から考える総理夫人の政治性・権力性 西田亮介
  8. SF創作講座レポート〈夏〉 情報・遊戯・論理 溝口力丸
  9. 批評再生塾定点観測記 #4 音楽・音響 横山宏介
  10. メディア掲載情報
  11. ゲンロンカフェイベント紹介
  12. 編集部からのお知らせ
  13. 編集後記
  14. 読者アンケート&プレゼント
  15. 次号予告
     

※今号は東浩紀「観(光)客公共論」は休載し、チェルノブイリツアー事後ワークショップでの講演内容を特別掲載いたします。

表紙:旧チェルノブイリ原発衛星都市プリピャチの小学校の廃墟に落ちていた国語の教科書。表紙には埃が厚く積もっていたが、開くと綺麗なページが出てきた。この写真は2016年度チェルノブイリツアーの参加者、神田理枝さんの作品で、事後ワークショップで写真家の新津保建秀さんから高い評価を受けた。神田さんは下北沢で「ほん吉」という古書店を営んでいる。長年古書と付き合ってきた彼女ならではの、本が持つ時間性への意識が見える。
撮影=神田理枝

 


チェルノブイリへの旅は想像力への旅である
東浩紀(談)
@hazuma


(編集部より)
2016年10月7日から13日にかけて、今年で4回目となる〈ゲンロン H.I.S. チェルノブイリツアー〉(監修:ゲンロン、主催:H.I.S.)が行われた。チェルノブイリ原発では現在、廃炉作業を進めるための「新石棺」の建設が急ピッチで進められている。新石棺はこの冬に完成し、事故を起こした4号機をまるごと覆うことになる。事故後30周年となる今年のツアーには、事故現場の姿を目の当たりにできる最後の機会ということもあり、30名を超える参加者が集まった。以下は、ツアー終了から約半月後、11月5日にゲンロンカフェで開催されたセミナーにおいて、東浩紀が行った講演の記録である。来年のツアーへの参加を検討されている方にもぜひ参考にしていただきたい。

 


 

このたびはチェルノブイリツアーへのご参加、ありがとうございました。この講演では、ツアーに参加いただいたみなさんに、あらためて、ツアーのプログラムがどのようなねらいのもとで企画されたのかをお話したいと思います。

まずお伝えしておきたいのは、このツアーは、たとえば反原発のような特定のイデオロギーのために行っているものではないということです。原発に対しては、どのようなスタンスで参加する人がいても構わないと考えています。では、ぼくはみなさんになにを伝えたくて、ツアーを続けているのか。

それは、ひとことで言えば、原発事故の問題とは想像力の問題であり、チェルノブイリについて考えることは想像力について考えることなのだということをお伝えしたいからです。どういうことでしょうか。3つの観点からお話します。
 

第一に、チェルノブイリは、すでに想像力に囲まれた場所です。未曾有の原発事故を起こしたこの地域(ゾーン)は、放射能恐怖と結びついた一種の文化的なアイコンとなっています。「チェルノブイリ」は世界中で知られている地名であり、20世紀の巨大事故を象徴する名前です。そのイメージを糧に、廃墟化したゾーンを舞台にした『S.T.A.L.K.E.R.』のようなゲームをはじめ、さまざまな作品も生み出されている。プリピャチは、いまや世界中の廃墟マニアのあこがれの土地です。

つまり「チェルノブイリ」の名は、「ヒロシマ」や「アウシュヴィッツ」と並び、たんなる地名ではなく、近代文明や科学技術をめぐるサブカルチャーのひとつの中心になってしまっています。みなさんのなかにも、その重力に惹かれてツアーに参加されたかたがいらっしゃると思います。ダークツーリズムを推進するぼくは、そのような動機を歓迎します。けれどもその代償もあります。チェルノブイリの町には、事故のまえにも1000年以上の歴史がありました。教会もあれば墓場もあった。けれども、いまやそれを思い出すひとはほとんどいない。周囲の村々もそうです。ツアーでは、サマショール(自主帰還者)の住む小さな村に行きました。ある土地が、ある事件を契機にして文化的アイコンに変わってしまうとはどのようなことなのか。現実のチェルノブイリに行くことで、みなさんもいろいろと考えられたのではないかと思います。
 

第二に、そもそも1986年のあのチェルノブイリ原発事故そのものが、想像力の不足もしくは過剰ゆえに起きたと考えられるという問題があります。

 

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