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2016年7月8日号
編集長:東浩紀 発行:ゲンロン
目次
- 【特別掲載】荒俣宏と田中康夫を通してみた東京 速水健朗
- 【特別掲載】演劇とは「半々」である――『ブルーシート』と虚構の想像力(後編) 飴屋法水×佐々木敦
- 【特別掲載】『ゲンロン0 観光客の哲学』第1部第3章「友敵、動物、匿名」より 東浩紀
- 「ポスト」モダニズムのハード・コア――「貧しい平面」のゆくえ #11 黒瀬陽平
- 浜通り通信 #40 情緒と科学、引き裂かれた福島 小松理虔
- ポスト・シネマ・クリティーク #7 ダン・トラクテンバーグ監督『10 クローバーフィールド・レーン』 渡邉大輔
- 人文的、あまりに人文的 #3 山本貴光×吉川浩満
- アンビバレント・ヒップホップ #4 サウンドトラック・フォー・トリッパー 吉田雅史
- ゲンロン沖縄取材ノート(後編) 徳久倫康(編集部)
- メディア掲載情報
- ゲンロンカフェイベント紹介
- 関連イベント紹介
- 編集部からのお知らせ
- 編集後記
- 読者アンケート&プレゼント
- 次号予告
表紙:6月18日、城南島海浜公園にて行われた、ゲンロンこどもアート教室「独立国家をつくろう!」の最終回より。参加した子どもたちは、約1年かけてつくってきた家、家具、植栽、家畜などを並べて独立国家の建国を宣言。いままでの創作物を組み上げてつくった神輿を担ぎ、建国を祝ったうえで、最後にすべてを燃やし灰にした。
撮影=パルコキノシタ
荒俣宏と田中康夫を通してみた東京
速水健朗
@gotanda6
本を書き終わった直後は、なぜこれを書かなかったのだろうという後悔期がやってくる。『東京β』『東京どこに住む?』という2冊を書き終えて、まさに今はそんなモードだ。
新潟という裏日本の典型的な中規模地方都市で中高時代を過ごした僕は、それなりに東京に対する憧れを持っており、それこそ上京した当初は、不慣れなこの街をあれこれ歩き回った。そのとき参考にした作家が2人いる。荒俣宏と田中康夫である。
普通なら同じ個人の本棚には並びにくいはずの2人だが、僕の本棚にはこの2人が共存していた。いや時代的に見れば、この2人は同時に読まれてもおかしくない存在だ。むしろ、1980年代前半から半ばにかけての東京を、たっぷりの虚飾をつけて想像力豊かに描いた作家として、並べて論じるべきではないかということに最近気がついた。それは、『東京β』において書くべきことだったかも知れない。
25年前、上京した18歳の僕が最初にわざわざ出かけていった東京のスポットは、大手町の平将門の首塚だった。荒俣宏の大長編小説『帝都物語』のスタート地点であり、物語上、何度も立ち返ることになる重要な場所だ。小説は明治末期に始まる。風水などの妖術で帝都東京を壊滅させようと目論む、強力な霊力の持ち主であり帝国軍人でもある加藤保憲が登場。小説最初期の主人公で大蔵官僚の辰宮洋一郎もそこにいるが、なんと物語は、この2人のキスシーンから始まる。『帝都物語』の始まりは、BL伝奇小説だったのだ。
『帝都物語』の内容は、ほぼ100年にわたる霊的なレイヤーでの東京の攻防戦である。将門の霊を呼び覚まし、帝都の破壊を目論む加藤。それに立ち向かうのが、寺田寅彦に幸田露伴、渋沢栄一といった近代史の実在の登場人物たち。彼らが戦うのは、表だって登場する悪や組織ではない。彼らは、誰の目にも映らないところで戦いを繰り広げる。術士、陰陽師、宗教者たちが闇の中に放った、式神や土蜘蛛といった鬼や妖怪の類いによる戦いが、都市の水面下で巻き起こっている。
戦いの第1ラウンドは加藤の勝利となり、東京は霊的に引き起こされた関東大震災によって破壊されてしまう。これを再興させるのが、渋沢栄一であり、後藤新平でありといった実在の人物たち。単なる異世界のファンタジーではない。近代の東京の興亡史を、現実とは別レイヤーで起こるファンタジーとして描いたのだ。おそらく誰もが一度読み出せばはまるであろう類いの作品である。僕がこれにはまったのは、高校3年生の終わり頃だっただろうか。悪い時期に出会ってしまったものだ。ちなみに、中3の受験時にはレイモンド・チャンドラーと山田風太郎の忍法帖シリーズにはまっていたっけ。
それに比べて、田中康夫の『なんとなく、クリスタル』は、『帝都物語』のように、読んでその世界に引き込まれるような小説ではない。ストーリーは平坦で、陰陽師の類いが出てきてバトルなんてことは特に起こらない。モデルの仕事もする大学生のヒロインが、同棲しているボーイフレンドが家を空けている間に、他の男子大学生と浮気をする話だ。ディスコやカフェバーやブティックホテルが登場する。とはいえ、これらもある意味、ファンタジーだった。もちろんこじつけだが、あまり矛盾を感じることもなく、荒俣宏と併読していた。
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