改正が必要な法案はぜんぶで15本以上ある、といわれている。まず、これらの改正案づくりが大変な作業で時間がかかる、という事情はあるだろう。安倍首相は日本経済新聞との会見で「全体を一括して進めたい。少し時間がかかるかもしれない」と説明している。
中身は相互に密接にかかわっているので、法案を1本ずつ審議するより、まとめて審議したほうが効率的で議論の密度も濃くなるのはたしかだ。だが、本音は「ここで一息入れて、じっくり国民の理解が熟成するのを待つ」という政治判断ではないか。
解釈変更を閣議決定してから、マスコミ各社の世論調査では内閣支持率が急落した。たとえば解釈変更を支持している読売新聞(7月2~3日)でも、支持率は57%から9ポイント下落し、48%と初めて5割を切った。
肝心なのは閣議決定ではない
安倍政権は解釈変更を急ぐ理由を「12月に米国との防衛協力指針(ガイドライン)の改定作業が控えているので、それに間に合わせる必要がある」と説明していた。だが、専門家によれば「ガイドライン見直しに間に合えば、それに越したことはないが(日本の政策方針変更と法整備の方向について米国が確信できれば)すべての法案が見直しまでに成立している必要は必ずしもない」そうだ(森本敏『日米同盟強化のための法整備を急げ』「Voice」8月号)。森本によれば、現行ガイドラインも策定後に「おおよそ3年ほどかかって一連の有事法制を整備していった。ガイドラインの前に1本の法律も成立していなかったのである」という。そうだとすれば、ガイドライン見直しの話は、公明党の妥協を促す方便の1つだった、ということになりかねない。
このあたりはプロ同士は分かっていたのだろうが、報じるマスコミ側を含めて、政府の話はあまり鵜呑みにしないほうがいい、という例の1つではある。
それはともかく、あれほど大騒ぎした解釈見直しを受けて、肝心の法改正は先送りとなると、これをどう受け止めるべきか。まず強調しなければならないのは「肝心なのは最初から法改正であって、閣議決定ではない」という点だ。
閣議決定は所詮、政府内の話である。それで物事が決まるわけではない。日本は法治国家であり、実際の政策はあくまで法律に基づくのだから、法改正されなければ、何一つ事態は変わらない。極端に言えば、政府がいくら閣議決定しようと、国会で関連法案を否決されてしまえばそれまでだ。
そこを、大々的に反対論を展開したマスコミは勘違いしているのではないか。国会は衆参両院とも与党多数なので、国会で関連法案が可決成立する見通しはたしかにある。だが、たとえばその前に衆院解散・総選挙があって与党が敗北したり、あるいは与党の中から採決で造反が起きて可決できなければ、何も起きない(もっと言えば、法案が可決成立したとしても、その後に政権交代が起きて、見直しに反対する勢力が法律を元に戻してしまえば同じである)。
安倍政権はだから当たり前の話だが、法改正こそが主戦場とみていた。「閣議決定は政府の仕事だから、本格的な国会審議は法改正のときに」と説明していたのは、そういう事情である。そう考えると、そんな大事な法改正を先送りしたのは、別に本質的な理由がある。私は「安倍政権が現実主義を身に付けてきた証拠」とみる。
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