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長谷川幸洋 コラム第17回「歴代政権がボロ儲けを看過したせいでニッポン農業は改革できずにきた」
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規制改革会議で農業改革の議論が始まった。
農業改革はアベノミクス第3の矢である「成長戦略」でも、改革の象徴とみられてきた分野だ。改革の必要性は長年、叫ばれながら、既得権益勢力の抵抗に遭って先送りされてきた。環太平洋連携協定(TPP)への参加を視野に入れれば、もはや改革は避けて通れない。
それでなくても農家の高齢化が進んでいるのに、TPPに加わる一方、農業改革に手を付けなければ、衰退は必至である。
そこで、どうするか。農林水産省が8月22日の規制改革会議に提出した資料をたたき台に、問題点を探ってみたい。
農水省はいま「農地中間管理機構(仮称)」という組織を新設して、それをテコに農地の集積、ひいては生産性の向上をめざしている。
この農地中間管理機構は何をするのか。
簡単にいえば、高齢化などの理由で耕作していないような土地を農家から機構が借りて、大区画化の整備をしたうえ、新たな担い手に貸し出す。農水省は「農地の中間的受け皿」とか「農地集積バンク」と呼んでいる。
農家はもちろんタダで機構には貸さないから、国は機構に公費を投入し、リース代を払って借り受ける。首尾よく新たな借り手=農業の担い手が見つかれば、そこから地代(リース代)が機構に入ってくるから、事業がうまく回れば、やがて公費負担は抑えられる、という仕組みだ。
なぜ、こんな機構が必要かといえば、いま農村には膨大な耕作放棄地が広がっているからだ。全部で40万ヘクタールもあるといわれ、ほぼ滋賀県に匹敵する規模だ。
一方、地域の中心になって農業を営む担い手(認定農業者や農業法人など)が利用している農地は全体の半分にすぎない。
耕作放棄地が拡大したのは、農家の高齢化が進んで跡継ぎがいない、耕作しても儲からないなど理由がある。ともあれ、各地の農村は細切れになった農地と放棄地、大規模農地がばらばらと併存して、結果的に農地集約は進まない、企業の参入も進まない、という事態に陥っている。
そこで、政府が農家と新規参入をめざす担い手の間に入る。機構(=農地集積バンク)がいったん借り受けて整備した後、新たに貸し出せば、相手が公的機関だから貸す方も安心、借りる方も安心で集積が進むはず、というのが農水省の目論見である。
はたして、この絵は狙い通り成功するのか。それとも単なる「獲らぬ狸の皮算用」にとどまるのか。
規制改革会議では、すでに多くの疑問や問題点が指摘された。最大の論点が何かといえば、公費の無駄遣いを防ぎつつ、新たな担い手とりわけの企業の新規参入が進むかどうか、である。
まず農家の側からみると、自分にヤル気があって優良な農地なら、別に機構に貸す理由はない。自分はヤル気がなくて、荒れた農地なら貸してもいいだろう。
では、機構が公費で農地を整備して、それを借りた企業が農業を始めて、儲かるようになったところで「やっぱり返せ。自分がやる、あるいは息子がやる」という話になったら、どうなるか。
整備された農地は当然、価値が高まる。普通の企業でいえば、設備投資を公費で負担してもらったようなものだ。
後で「返せ」というなら、国の負担で整備してもらった分は当然、もとの農家が負担しても良さそうなものだが、農水省は「負担を求めない」という考えだ。
それでは、自力で整備した農家と比べて、モラルハザードにならないか。民法には、こうした事態を想定して「有益費償還請求権」という考え方もある。
借家人が借家の利便向上に費やした費用は契約終了時に貸し手に請求できるという話だ。それと同じである。どうも既存の農家に甘い話なのだ。
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