ゲキビズ田原通信

長谷川幸洋 コラム第8回 「新聞からは読み取れない 東アジア情勢の今と、日本の本当の立ち位置」

2013/06/20 12:00 投稿

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  • 外交
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モスクワで開かれた日ロ首脳会談 [Photo] Getty Images
 このところ日本をとりまく国際関係が大きく動いている。

 主な動きだけを拾っても、2月に安倍晋三首相とオバマ米大統領の日米首脳会談があり、4月には安倍とロシアのプーチン大統領による日ロ首脳会談が開かれた。

 6月7日に安倍とフランスのオランド大統領による日仏首脳会談があったかと思えば、直後の7、8日には首脳外交のハイライトと呼ぶべきオバマと中国の習近平国家主席による米中首脳会談が開かれた。

 日米だろうと米中だろうと、国際関係は二国間だけでは動かない。これは世界の情勢を眺めるうえで基本中の基本だ。

 当事者以外の第3国、あるいは第4国も含めた全体の構図の中で相手を捉えなければ本質を見失ってしまう。

 どの国でもトップリーダーたちは経済、安保、防衛とすべての分野に目を配っている。それは当然だ。考え方で言えば、まず安保・防衛があって、それから経済という順番になる。

 平和と繁栄を追求するのが政治の役割だが、繁栄の前提、必要条件が平和であるからだ。

 平和を追求するために、繁栄(=経済的利益)を交渉のてこにすることはあっても、けっしてその逆はない。

メディアの縦割り体制が外交をわかりにくくしている


 ところが、首脳会談を報じるメディアの側は新聞もテレビも「経済ニュースを書くのは経済部の仕事」「永田町の権力争いや防衛問題は政治部」「外交・国際関係は外報部」などと縦割りのタコつぼ取材体制が貫徹している。

 同じ外報部でも「米国担当はAさん、中国担当はBさん」といったように、タコつぼ体制はさらに細分化されている。

 その結果、何が起きるかといえば、同じリーダーが語っているのに、経済と政治の記事は相互に分断され、かつ、実は水面下で連動している外交の話であってもテーマごと、地域ごとに分断されたりする。

 読者は個々のタコつぼの中身は分かっても、全体がどう動いているのか、さっぱり分からないという状況に陥っているのではないか。

 そこで今回は流動する東アジア情勢に絞って、目についた動きをトレースしてみたい。

 俯瞰して眺めれば、全体情勢が浮き彫りになってくる。

 まず2月の日米首脳会談だ。

 日本の新聞は会談の結果について、どこも「環太平洋連携協定(TPP)に参加へ」という話を一面トップにして報じた。両国が発表した共同声明で「聖域なき関税撤廃」というTPPの原則について「聖域があるかどうかは交渉の結果次第」という共通理解が確認された。それで日本のTPP参加に道が開けたからだ。

 だが、私はこの会談の最も大きなイシューは北朝鮮問題だったと思っている。

 首脳会談の10日前、2月12日に北朝鮮は3回目の核実験をした。核の小型化に成功したのだ。

 弾道ミサイルに積んで米国本土を狙うには、まだ技術が足りない。だが2012年末のミサイル発射実験成功と合わせて、この核実験成功によって米国ははっきりと北を「脅威」と認識するに至った。

 それは前のコラム「北朝鮮はどこまで本気なのか!?米・国防総省の報告書から読み解く"北の現状と実力"」で紹介したように、国防総省の報告書にしっかり書き込まれている。

 この事態を受けて、日米は首脳会談で韓国を加えた3カ国で北朝鮮の脅威に対処していくことで合意した(外務省発表資料はこちら)。

 ここで安倍が切ったカードは、米軍が京都に弾道ミサイルを追尾するためのXバンド・レーダー(TPY-2レーダー)を追加配備するのを認めたことだ。

 このレーダーは弾道ミサイルがどこへ飛んでいくのか、日本なのか米国なのかを早期に探知する高い性能を持っている。

 逆に言うと、これがないと米国は(もちろん日本もだが)防衛能力が劣ってしまう。

安倍総理曰く「京都のレーダー配備が大きかった」


 北朝鮮への対応は緊急課題だった。加えて、日本は尖閣諸島問題で中国と険しく対立している。日本の平和と安全が脅かされているからこそ、TPPが以前にも増して重要になった。

 TPPは自由と民主主義、市場経済、法の支配という価値観を共有する国々(とりわけ米国)との通商枠組みであるからだ。

 別のコラムで書いたように「北朝鮮ファクターからTPPへ」という流れは、菅義偉官房長官も私の質問に「そうではないと言ったら嘘になる」と認めている。私は後で安倍総理自身にも直接、確かめたが「京都のレーダー配備が大きかったね」と言っていた。

 この日米会談にはもう一つ、成果があった。

 米国産シェールガス(液化天然ガス)の対日輸出に道が開かれたのだ。それが、4月の日ロ首脳会談につながっていく。

 ロシアは日本と石油・天然ガスなどエネルギー分野で協力を強めていくことに同意したのだ(詳細はこちら。PDFです)。

 実際、会談から1か月後の5月29日には、日ロがオホーツク海で海底油田の共同開発に乗り出す、と報じられた。

 日ロ首脳会談は大成功だったと思う。なぜなら、これで「ロシアが日本の友好国になる」という方向性がはっきりしたからだ。

 象徴的な出来事は両国の外相・防衛相同士の会談、いわゆる「2+2」会合の開催が決まった点だ(詳細はこちら)。

 2+2会合という枠組みは、これまで日米、日豪でしか動いていない。それをロシアとも開くのは、ロシアを米国、オーストラリア並みの友好国として扱う、という意味合いが背景に込められている。

 会合を開いたからといって、直ちに友好国になるわけではないが、枠組みが設けられた意義は大きい。

 同じ2+2会合は6月の日仏首脳会談で日仏間でも設置が決まった。

 つまり日本と米国、オーストラリア、ロシア、それにフランスが同じ枠組みの閣僚会合を設けたのである。 

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