今週のお題…………「なぜK-1は成功したのか?

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文◎田中正志(『週刊ファイト』編集長)…………水曜日担当


 
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 石井和義館長率いる正道会館は、リアルファイトであることを強調するために、あえてキックボクシングの名称を封印、「K‐1という新しいスポーツなんだ」とフジテレビに売り込み、成功を収めた。沢村忠らの活躍で一時ブームとなったキックボクシングには、プロレス同様世間から「競技」と認められたことはなかった。実際、必殺の“真空飛びヒザ蹴り”でタイ人選手がマットに沈められる直前にはセコンドから合図のサインが出ていた。こうした「八百長」のレッテルを払拭するためにも、あえてキックと呼ばずにK-1とネーミングされたのである。ここに、K-1がなぜ成功したかの原点がある。
 また、石井館長は当時、前田日明率いるリングスと提携。プロ興行をどうプロデュースしていくのか、内部からじっくり観察してノウハウを吸収していた蓄積も大きい。なにしろ「実験リーグ」なる名称で、いわゆるガチンコの異種格闘技戦が試されていたのが90年代初期である。1993年にK-1、パンクラス、UFCが始動したのは偶然でも何でもない。そこには「シュート革命元年」としての必然があった。うまく流れに乗ったのが石井館長であり、K-1だったことになる。
 そのリングスに参戦していた佐竹雅昭に何度か他流試合を行わせたが、K‐1が実際に始まった時点では、キック専門にやってきたヨーロッパ勢に勝てるレベルではなかった。基本的にはキックボクシングなのにあえて「k-1」と名乗り、無名欧州選手(ブランコ・シカティック)が1993年4月30日、代々木第一体育館で開催された『K-1 GRAND PRIX'93 10万ドル争奪格闘技世界最強トーナメント』に優勝するなど、真剣勝負を強調するためにまったく新しい「競技」としての普及に努めた先見の明は評価せねばなるまい。勝敗というギャンブルには破れはしたが、その実力差という現実を正直に見せた方ことが結果的に吉と出た格好になる。
 
 プロレス記者の目線から論ずるなら、K-1の躍進というか世界制覇の道標は、かつてアントニオ猪木と新間寿営業本部長(当時)が新日本プロレスで画策したIWGP構想そのものだった。世界に乱立するチャンピオンを統一するという壮大な事業計画だったが、数年がかりの準備がいざトーナメント決勝戦となる1983年5月6日の蔵前国技館大会の当日になると、猪木のブラジル事業の失敗という舞台裏の問題も表面化して、主役の猪木ではなく(若手売り出し中だった)ハルク・ホーガン優勝という結末含めて、当初の予定から大幅に狂った歴史の事実が残る。対してK-1は、なにしろガチンコだから世界各地のローカル・プロモーターに大きく振り回されずに、札束だけで自然と世界を統一していった、90年代版のIWGPは本当に実現してしまった、という感慨が大きい。
 国内のキック団体乱立は今でもそうなのかもだが、海外含めてどれも単体では弱いというか、大きな組織ではなかったこともK-1が比較的苦労なくキック界を実質統一出来た背景にある。地上波フジテレビの予算も加われば、いちゃもんをつけてくる煩い国内のキック団体の後ろ盾連中から因縁をつけられる宿命をかわすことも出来た。タイミング含めて、すべてがうまく転がり出したのが1993年だったのだ。
 
 プロ格闘技興行の場合、最初に核となる選手を3名程度ラインナップすることが成功の条件になる。オランダのピーター・アーツとアーネスト・ホースト、スイスのアンディ・フグの存在はK‐1にとって幸運この上なかった。しかもこの3名は、日本を愛したアンディが2000年に病に倒れるまで、ずっとトップに居残ったのだから、まさしくモンスター(怪物)といってよいだろう。
 意図的にリングサイドには女優やタレントを座らせ、K-1は「おしゃれな格闘技」という新たなイメージ戦略も確立して、さらにテレビ視聴率がグングンと上がっていく。こんなにうまく回していけて、石井館長の脱税逮捕まですべてが上昇機運だったのだから恐れいる。プロレス業界関係者やファンにとっては承服し難いことだが、現実を直視すれば、シュート革命を先導したのはK-1以外の何ものでもなかったことは明白なのだ。
 プロレスとは異母兄弟のキックという、いい加減な業界だったからうまいこと世界統一出来たのだ、というのは当時のプロレス記者のやっかみ感想だったが、K-1の成功が約100年の歴史があるとされるマット界、プロ興行史における最大のエポック・メイキングであった事実は、正しく語り継がねばならないと考える。そして、恐らくK-1のネーミングは次の100年後も残っていくのではなかろうか。





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