もちろん日本人も含め、世界中のブラックミュージックファンのあいだでちょっとした"お祭り騒ぎ"が起きている。あるひとりのアーティストがニューアルバムをリリースしただけで、だ。
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そのアーティストの名は、ディアンジェロ。12月15日、バンドを含めた「D'Angelo and TheVanguard」の名義でリリースされたニューアルバム『Black Messiah(ブラック・メサイア)』は、彼にとって実に14年ぶりのオリジナルアルバムだ。
今回のリリースにあたって、音楽メディアや販売店では「緊急発売」という言葉が使われているが、この"緊急"というのは、広告・宣伝にありがちな使われ方の煽り文句ではない。そのまんまの意味合いだ。
今年2014年、「年内に確実にリリースされる」と言われていた新作は一向にリリースされる気配はなく、年の瀬の12月まできてしまったが、12月11日、彼のマネージャーによってYouTubeに新作発売をうかがわせるティザー映像が突然公開され、日本時間13日には、Twitter上に完成したアルバム現物の写真がアップされた。
そして15日、息つく間もなくリリースされたというわけである。日本では16日現在、iTunesストアなどでの配信リリースのみとなっているが、近日中にCD(ひとまず、輸入盤)も販売される予定だ。ただし、それもあくまで"予定"。16日、某大手CDショップにてスタッフにCD入荷予定を聞いたところ、笑いながら、「ディアンジェロのことですから、あくまで予定としか言えませんが、来週には入ってくる予定です」と話していた。
日本の音楽市場ではまずありえない、この「あくまで予定」という言葉。14年も新作を待たせ続けたディアンジェロだからこそ通用する言葉だ。全く気にしていないわけではないだろうが、"売上"などとは無縁のベクトルで話が進んでいるように思える。
ただし、16日付のiTunesストア(日本版)では、同アルバムは早くも総合アルバムチャート1位となっている。海外男性R&Bアーティストのアルバムが日本で総合1位になることは、きわめて稀だ。
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2000年に発売された前作『Voodoo』は、「20世紀最後にして最強の名盤」という評価が世界的に定着しているR&Bアルバム。デビューアルバムである『Brown Sugar』(1995年)から5年の歳月を経て出されたこのアルバムは、数多くの音楽評論家やアーティストが高く評価していることはもちろんだが、ネット上でも興味深い数字が見られる。
ずばり、Amazon(日本版)のカスタマーレビューだ。2014年12月16日現在、同アルバムには計44件の評価が付いているが、なんとそのうち43件は最高評価の「星5つ」、残り1件は「星4つ」という、圧倒されるほどの高評価を得ているのである。
しかし、だからといってこのアルバムは、"誰もが"絶賛し好きになる、という類の作品ではない。例えば、「OKAMOTO'S」のベーシストであるハマ・オカモトが、2013年に音楽誌『bounce』(361号)のコラムで、最初に聴いた際の感想として「正直つまんなかった(笑)」としている通り、誤解をおそれず言えば、ある程度の音楽鑑賞歴がないとその良さが染みてこない作品なのかもしれない。
つまりは、一言でいえば、「玄人好み」の音楽性なのだ。
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だからこそ、"玄人"たちのお祭り騒ぎぶりは凄まじい。ミュージシャンのスガシカオはTwitterで、「ディアンジェロ、マジでALBUM出た・・・」と驚き、前出のハマ・オカモトも発売の報に「ぎゃー!!!」とツイートした。
そして、一般ユーザーから「今年のナンバーワン」「12月になって、今年のベスト作品が滑り込んできた」といった内容のツイートが多数投稿されるなか、音楽ジャーナリストの宇野維正氏は、
「『Black Messiah』聴いた。神様、ディアンジェロをありがとう」
「年間ベスト? 冗談でしょ。ディケイドベストですよ。今のところセンチュリーベスト」
と、手放しで大絶賛している。
さらに、世界に目を向けると、数々のビッグアーティストからも絶賛の声があげられている。以下、まとめて紹介しよう。
・アリシア・キーズ:「なんてバイブス!絶対にゲットすべき!」(Twitterより)
・ファレル・ウィリアムス:「ディアンジェロの『ブラック・メサイア』、本物の天才の作品だ。」(Twitterより)
・マーク・ロンソン:「(月曜の朝に配信販売されたことを受け、)これまでで最も記念になるような月曜の朝だ。」(Twitterより)
このほかにも、ジャスティン・ティンバーレイクら多くのセレブリティーがこの新作を讃えている。
何十年に一度あるかないかのお祭り騒ぎに沸くR&B界隈。この熱狂は、年をまたいで続きそうだ。
文・宇佐美連三
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