10月26日に開催された日本シリーズ第2戦、快投を続けるソフトバンク先発の武田は、6回2アウトまで18人の打者を完璧に封じ、阪神打線を完全に沈黙させていた。日本シリーズでまさかの完全試合か。両軍からのそんな期待と不安が漂い始めた頃、2アウトランナーなしの場面で打席に立ったのは代打・狩野恵輔(31)。狩野は2ボール2ストライクのカウントからの6球目、外角低めの変化球に必死で食らいつくと、左翼前に落ちるチーム初のヒットを放った。
「上州の掛布」として地元でも注目度の高かった狩野が、3位指名を受けて群馬県立前橋工業から阪神入りを果たしたのは、2000年オフのドラフトでのこと。その類まれな身体能力と、パンチ力を秘めた打撃に首脳陣からの期待は高く、いずれは阪神の正捕手にという声も多かったが、当時の正捕手は、チーム全体の要となっていたベテラン名捕手・矢野輝弘。その壁は厚く、ウエスタンリーグで首位打者を獲得するなど、二軍での活躍を見せるものの、ひたすら長い下積みを重ねることとなってしまった。
【動画】http://youtu.be/RpZ4ajrd0oU
その後、2009年には矢野の故障などもあり、狩野は自己最多の127試合に出場。二桁盗塁やリーグトップの敬遠数を記録するなどの活躍を見せ、翌年への期待も高まっていたが、そんな状況の中で、阪神はこのオフ、シアトル・マリナーズの城島健司を獲得する。矢野の次はメジャー帰りの城島。狩野の正捕手への道は果てしなく遠いものであった。以降、椎間板ヘルニアを傷め、除去手術を受けるものの、その傷は幾度となく狩野を苦しめ、2012オフ~2013年途中にかけては、育成選手としての登録も経験するなど、その道程は絶えず苦難に満ち溢れたものであった。
【動画】http://youtu.be/75FHpOq2wRk
あまりに巨大すぎる先輩捕手たちの壁や、故障に苦しみ続ける中で、今季、ようやく掴んだ復活への光明と、正捕手への道。日本シリーズという大舞台で、武田の完全試合を封じた男は、「それ(完全試合)だけは嫌だった。途中から出る選手も打つぞという気持ちを出していった」と今まで歩んできた苦難の道程を重ねるかのように、その闘志をむき出しにする。上州の掛布・狩野恵輔。地獄を見た男の一振りが、敵地での激戦に向け、敗軍の戦士たちを奮い立たせた瞬間であった。
【動画】http://youtu.be/_K6cz2HZBaQ
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